経営戦略の羅針盤 第5回 経年劣化リスク

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経年劣化は製品だけか?

2007年も年初から不祥事が続発した。その中で気になったのが、消費期限切れの原料使用問題のケースである。この企業の国内工場では、以前このコラムで紹介した品質・環境管理の国際規格であるISOを取得していた。ISOは、認証機関が対象となる事業所に対してこの規格が要請する内容を適正に順守しているかを審査するが、順守されていない場合には、認証登録の一時停止や取り消しを行う権限を持っている。過去には、自動車メーカーが認証登録を失効したり、鉄鋼メーカーの工場排出物のデータ改ざんで、6ヶ月の登録停止となったケースがある。先の企業では、社内ルールやマニュアルが形骸化したのではないか。


経年劣化リスク

昨年、家電メーカーの石油暖房機で死亡事故が発生し、このメーカーはテレビコマーシャル・新聞広告などさまざまなメディアを通じて消費者に注意喚起と製品回収の協力を要請した。この企業のホームページのトップにも、対象となる石油暖房機回収のお願いがある。対象の機種は、製造後15年以上を経過しておりメーカーの想定している耐用年数を超えているという。部品交換により耐用年数が延びるからだ。しかし、部品交換されなかった排気用ガスホースの劣化が原因で、一酸化炭素が漏れ出し死亡事故に至った。
出荷した製品の部品における経年劣化が主因である。実生活でも、輪ゴムでまとめていた昔の資料を取り出すと輪ゴムが切れた、鍋物に使うガスコンロのホースが古くなってひび割れしていたなどは、一度は目にしたことがあろう。
大手電気メーカーのホームページを改めて確認すると各社とも、トップページで自社製品に関連する事故の可能性について注意喚起をしている。電気洗濯機、テレビなどの発火・発煙の可能性、リモコン付電気ストーブが他のリモコンにより誤作動をする、などである。製造メーカーにとって、製品の経年劣化リスクは避けられない。かつて娯楽映画で活動指令のテープが流れ終わると煙が出て自動的に消滅するというシーンがあったが、家庭電化製品で耐用年数が過ぎたら自動的に使用不能になるようにするのは無理であろう。一般生活で、古くなった牛乳や賞味期限の過ぎた食品は廃棄するように、電化製品については消費者自身も経年劣化という視点を持つべきかもしれない。


劣化するのは製品だけか?

企業の不祥事や事故における原因はさまざまあるが、その一つとして組織内の規程やルール・諸手続の形骸化や陳腐化がある。かつて、勤続疲労などと揶揄(やゆ)されたことがあるが、どんなに優れた企業や組織でも、定常状態が続くと組織の緊張は緩むことはある。また、時代によりルールや手続の意味合いが変わってくることもあり得る。管理項目や管理水準が時代や現状に即しているのか、クレームや障害報告が定期的に行われるだけでなく第三者の目で分析されているか、などチェックの方法はあるはずだ。
経年劣化は、製品だけではない。

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