2007年01月09日
昨年12月にスタートしたばかりのコラムだが、今年も経営に関るテーマについて、歴史を参考にしながら、眺めていきたい。さて、新年の初回は、昨年を振り返り品質管理を取り上げる。
相次いだ製品事故
2006年は、死傷事故に至る製品事故が目立った。ガス瞬間湯沸かし器による一酸化炭素中毒事故、シュレッダーによる幼児の指切断事故などである。死傷事故には至らなかったが、パソコンや携帯電話の電池の発火という事故も起きた。このような事故に関する情報開示の制度が整備されていなかったため、行政も対応し、消費生活用製品安全法が改正され、今春から死傷事故や火災などに繋がる恐れのある重大事故についての報告と公表制度がスタートする。
同法によると、重大事故が発生した製品の製造・輸入元は、事故を把握して10日以内に経済産業省へ報告することを義務付けられ、経産省は報告を受けてから1週間以内に製品の一般名称と被害状況を同省のホームページで公表する。さらに、被害が広がる恐れが強いと判断した場合には、製造会社名や製品名の公表も行う。虚偽報告や報告を怠った場合には、「体制整備命令」を出し、命令に従わない場合には、一年以下の懲役または百万円以下の罰金を科す罰則も設けられた。
日本企業の品質管理の推進力となったデミング賞
これまで、日本企業における品質管理は、どのような歴史をたどってきたのであろうか。
一般的に品質管理といえば、品質マネジメントの国際規格であるISO9001を思い起こすが、日本にはそれ以前に創設された「デミング賞」と呼ばれる品質管理の表彰制度がある。戦後、資源の乏しい日本が経済復興するためには、輸出の増大が必要であり、そのためには日本製品に対するイメージを向上させることが重要な課題であった。このため、1945年に品質管理普及のための日本規格協会が設立され、翌46年には日本科学技術連盟が設立された。50年に、同連盟によりアメリカの品質管理における第一人者である故W・エドワード・デミング博士が招かれ、統計的品質管理の指導を行った。51年には、同博士が寄付された講演録の印税を基金として、日本科学技術連盟により「デミング賞」が創設された。このデミング賞の中の実施賞は、総合的な品質管理を実施して顕著な業績の向上が認められた企業または企業の事業部に対して授与される年度賞であり、日本の品質管理を発展させる上で大きな原動力となった。日本の著名なメーカーが過去に受賞している。
その後、1970年代には、日本のデミング賞を参考に、アメリカではマルコム・ボルドリッツ賞が、欧州ではヨーロッパ賞が創設された。
ISO9001は1987年がスタート
今や世界的に普及しているISO9001(※1)は、デミング賞の創設後30年以上経った1987年に開発されたものである。ISO9001は、顧客・取引先など外部の要請に基づいた取り組みであるのに対し、デミング賞は、自社内の問題意識から導入を決めていることから、品質トラブルの防止や収益性の向上に繋がっているという調査報告もある。
今や、自動車や電気電子製品を中心とした日本の工業製品に対する評価は高い。しかし、その評価もたった一度の製品事故で消失してしまうこともある。品質管理は、単に生産現場だけの問題で無く、その企業の経営品質にも密接に関係しているものである。
これまでの評価に甘んずることなく、不断の研鑽を続けられることを期待したい。
(※1) 日本のISO9001取得企業数は、2006年12月末時点で43,500社を超え、2005年のデータでは中国、イタリアに次いで世界第3位の取得数である。
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