経営戦略の羅針盤 経営戦略の羅針盤 第2回 リスクリテラシーを高めよ

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今年も振り返るとさまざまな不祥事や事故があった。ホテルの不正改造問題(2月)、消費者金融の強引な取立て(5月)、エレベーター事故(6月)、不当な保険金不払いにより大手損保会社に業務停止命令(6月)、瞬間湯沸かし器の不正改造による事故(7月)、送電線への接触事故による首都圏の大規模停電(8月)、ダム工事に関る談合事件(10月)など、列挙すればきりがない。企業や組織では、これまでリスクに関する認識が甘かったのであろうか。


これまで、特定部門による断片的なリスク対応

メーカーでいえば、品質保証部や安全管理部が製品の品質管理や生産工程や工場の安全管理を担い、総務部が地震対策や防災の窓口となってきた。財務・経理部門は、与信管理をしたり、海外と取引のある場合は、為替ヘッジを活用している。法務部門では、通常の契約チェックや、昨今では知的財産権の保護なども視点に入れて活動している。このように、何らかの形で特定の部門が、断片的ではあるがリスク対応をしてきている。


しかし、経営層に、全社横断的にリスクを認識し、どのリスクを優先して対策をとり実行していくのかという視点が足りなかったのではないだろうか。つまり、リスクリテラシーの向上が重要だと考えている。


リスクの予防・対策は、4種類

リスクマネジメントでは、一般的に、「リスクの洗い出し→リスクの評価→リスクの予防・対応策の策定→リスク管理状況のモニタリング」を一つのサイクルとして、定期的にこの一連のサイクルを廻していくことが重要であると言われている。リスクの予防・対応策について簡単に説明すると、リスクファクターによって対応策は異なるが、大きく4種類ある。「回避」・「低減」・「移転」・「保有」である。「回避」は、当該商品・サービスの販売中止、事業活動の停止・見直し、市場からの撤退・清算・売却などがある。「低減」には、組織体制・組織力の強化、取引規模の抑制、未然防止策を立てるなどがあり、いわゆるリスク管理として企業内の取組みとして行われているケースが多い。「移転」は、保険の加入、アウトソーシング、分散・分担などがある。「保有」には、全面的にリスクを受容する、リスクの受容レベルを設定する、などがある。
具体的には、「回避」では、米大手コンピュータメーカーのパソコン事業の売却、外食企業における駐車場付店舗でのアルコール類の販売中止などが、「低減」については、リスクマネジメント委員会を設置や、事業継続計画を策定するなどが挙げられる。「移転」においては、天候デリバティブの活用、情報システム部門のアウトソースなどが、「保有」では、引当金を手当て、為替や金利でのヘッジの活用などがある。
昨今の不祥事や事故を見る限り、リスクの認識に漏れがあるようだ。より統合的にリスクを把握し、優先順位を検討するなど、企業や組織でリスクリテラシーの向上を図ることを期待したい。


年末年始を控え、私生活でのリスク管理はどうする

さて、最後に個人のリスク管理でのヒントを紹介しよう。年末年始が近くなり、宴席の回数も増え、体調を崩したり忘れ物をしてしまうことなどあろう。これらに対しては、休日でも診察可能な病院はどこかを地元自治体の広報誌を確認しておいたり、電話番号が記載してある飲食店のレシートを保存しておくことが、有効であろう。

(※1) リテラシー(=literacy):読み書き能力、識字能力のこと。 ある分野に関する知識、教養、能力。

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