海外子会社におけるリスクマネジメントの要諦

~三現主義によるリスクマネジメントの徹底~

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「多すぎる企業の不祥事」


昨年は、大企業の品質不正問題に係る「不祥事」が相次いだ。「モノづくりニホン丸」の船底に穴が開いたかのようである。


製品の検査データ改ざん、無資格者の検査による出荷、海外子会社の不適切な会計処理等。これらは、「コーポレートガバナンスがどうの」というレベルではなく、そもそも、「公器」たる企業の存在意義が問われている。これらの事案の背景には「これぐらいなら大丈夫だろう」という、手前勝手な希望的観測に基づく経営判断も一因ではないだろうか。


一方、海外子会社の「不祥事」により、親会社の「経営の屋台骨を揺るがす」ことが少なくない。日本取引所グループ(JPX)では、適時開示情報等に係る「改善報告書」を一覧開示している。2018.1.4時点で、開示されている30社の「改善報告書」のうち5分の1にあたる6社が、海外子会社の不適正な会計処理等によるものである。


海外への進出の際、有限責任原則が適用される企業形態として海外現地法人を設立し、海外現地のリスクを親会社に及ばないようにする場合(法人格によるリスク遮断)が多い。その結果、海外子会社の「不祥事」発生件数が増えるのは当然だろう。特に、海外子会社のリスクマネジメントは、そのマネジメントの難しさから、多くの企業でコーポレートガバナンス上の最重要課題の一つに上がっているようである。


「海外子会社のリスクマネジメントの要諦」


海外子会社のリスクは、外部要因と内部要因に大きく分けられ、その種類も多岐にわたっておりマネジメントの難しさがうかがえる。さらに、外部環境のリスクは、社会・自然災害・感染症・衛生等に、内部環境のリスクは、調達・生産・販売・ビジネスインフラ等にブレークダウンすることができる。(図表1)。

海外リスクの種類

海外子会社のリスクマネジメントにおいて、不適切な会計処理が発生する背景として人事面に係るリスクが注目されており、その対策が急務である。


当該リスクは、①従業員等による不正行為、②人材確保の障害、③労使間のトラブルの三つがあげられる。


その押さえておくべきであろう一般的な対策例を一覧にまとめてみた(図表2)。

従業員による不正行為事例への対策例
人材確保の障害事例への対策例
労使トラブル事例への対策例

「企業は人なり」といわれている。企業価値を、向上させるのも毀損させるのも、その企業で働く人々にかかっているということだろう。


フィロソフィーとして「性善説」は誤りではないか、むしろ「性弱説」であると思う。


まずは、海外の現地に優秀な人事責任者を採用する。さらに、現場にでかけ、現物を自分の目でみて、現地の人に会って話を聞き現実をとらえる(三現主義)ことにより、「予想しない温度感」・「気が付かなかった視点」などを得ることができ、問題を正しく把握できるだろう。したがって、経営者が現地を①三現主義で、②継続した、③管理をすることが、海外子会社のリスクマネジメントの要諦かもしれない。


とすれば、海外も国内もリスクマネジメントの要諦は同じということかもしれない。


【参考文献等】
1.長谷川俊明「海外子会社のリスク管理と監査実務」(中央経済社2017.3.1)
2.「中小企業のための海外リスクマネジメントマニュアル 詳細版」 独立行政法人中小企業基盤整備機構 販路支援部(2016.2)
3.「改善報告書一覧」日本取引所グループ(JPX) 適時開示等に係る「改善報告書」「改善状況報告書」

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