2016年08月17日
コーポレートガバナンス・コードが適用されてから1年が経過した。ガバナンスに関する調査は定量化が困難であるものが多いが、原則1-2(株主総会における権利行使)の補充原則に掲げられた株主総会招集通知の発送前のウェブサイト掲載(※1)、日程の適切な設定(集中率の低下)(※2)等においては顕著な改善が見られており、本コードが確実に実施されてきていることを表していると言える。
さて、本コードの最重要部分は、取締役会等の責務にフォーカスした第4章である、と言われている。弊社でも取締役会評価・役員報酬等のコンサルティングに関する引き合いが活発化しているが、捉えにくいテーマであるという点はもちろん、コーポレートガバナンスに責任を持つ経営陣自身の実務や報酬に直接影響するという点に鑑みても、これらが注目を浴びるのは当然のことと言える。
しかしながら、本コードは、経営陣に関するテーマにのみフォーカスしているわけではない。中長期的な企業価値の向上を目的としたものであるから、コーポレート部門・事業部門にも本コードを浸透させることで、彼らの業績をあげることが十分可能になるのである。本コードが枝葉まで行き渡り、会社が軌を一にしてこそ、そのポテンシャルは最大限に発揮される。そのためには、自社環境において本コードを経営戦略・経営計画に反映し、事業部門の行動を動機付けていく方法まで設計する必要がある。経営陣・コーポレート部門・事業部門の実務の流れと、全体最適を求めるコーポレート部門と部分最適を求める事業部門の特性を意識する必要もあるだろう。以下、各部門において求められる事項の概略を示す。
コーポレート部門において求められる事項
コーポレート部門は、株主への開示(一方からのアナウンス)ではなく、株主との対話(双方のコミュニケーション)を行うために、その専門家として経営陣を補佐する必要がある。そのためには、ファイナンス理論、ESGはもちろん、価値創造プロセス、目標設定プロセス等にも知識を広げ、経営陣が適切な判断をするための材料を、適切に提供できる状態になる必要がある。
また、コーポレート部門の役割は、従来のように経営陣の下部組織として社内資源の最適化を実現することだけではない。時には従業員の代理人となり、時には株主の代理人となり、また時には地域社会の代理人となり、企業を取り巻く環境を最適な状態に維持する役割が求められている。

事業部門において求められる事項
事業部門は、実際に事業を行い、稼ぐ力の根源となることから、最終的に本コードを達成させる部門であるとも言える。また、顧客、取引先等のステークホルダーとの対話の中心でもあるだろう。
事業部門のポテンシャルを最大限に発揮させるためには、経営陣・コーポレート部門の策定した経営計画を、実効性の高い目標とし、さらに行動に落とし込むことが求められる。そのためには、計画の策定から、目標数値(KGI)、重点管理指標(KPI)、行動指標(KBI)を設定するに至るまでを、適切な方法と手順で行う必要がある。

具体的な設定の方法としては、部門第一人者からリソースを得る社内ハイパフォーマー型、他社をリソースとする社外ハイパフォーマー型、多数の参画意識をもたらす参画型がある。これらはそれぞれにメリット・デメリットがあるため、自社にとって最適な選択あるいは組み合わせにする必要がある。
会社を強くするためのコーポレートガバナンス・コード
本コードは、その重点や形式に目新しさはあるものの、個々の会社が自社環境に照らし、真摯に考える必要があるといった文脈に基づいて画一的な正解を提示しない点は、従来の経営戦略論とまったく同一である。経営にあたり、従来まったく考慮していなかった内容もないだろう。それゆえ、従来とまったく異なるアプローチをもって、まったく異なる結論を出す必要はない。だからこそ、本コードを通じてどのように実効性を高めるか、どのように会社を強くしていくかについては、各社色々と迷うところがあるのではないだろうか。
大和総研は、本コードを通じて会社を強くするための方策を具体的かつ詳細に解説した「あなたの会社を強くするガバナンス・コード実践ガイドブック」を8月27日に上梓する予定である。手に取っていただき、企業価値の向上に役立てていただければ幸いである。
(※1)「株主総会招集通知、事前にネット開示9割 主要225社」日本経済新聞記事(2016年6月13日)
(※2)http://www.jpx.co.jp/listing/event-schedules/shareholders-mtg/01.html
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