多様性の推進が求められる取締役会

~女性取締役の登用だけで満足していませんか~

RSS

我が国の上場企業において、女性取締役の登用が増加している。TOPIX100における女性取締役選任企業は47.0%(2014年は39.0%、2013年は34.0%)、日経225では36.0%(同24.9%、同20.0%)と大幅に増加している(※1)。また、取締役会に おける女性取締役の比率は、2015年はTOPIX 100で4.9%(2014年は3.9%)、日経225で4.0%(同2.7%)と前年と比較して増加している(※2)。取締役会の女性比率が19%を超える欧米の比率(※3)と比べると非常に低い数値ではあるが、我が国における女性取締役登用の増加は、企業統治の強化を目的としたコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)が2015年に策定されたことが要因のひとつと考えられる。具体的には、CGコードの原則4-11において、「取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。(以下省略)」と定められた点が注目される(下線部筆者)。


このように、CGコードの策定を契機として日本企業における女性取締役の選任数が大きく増加していることを鑑みると、「多様性の推進=女性の登用」と考えている企業が多いのではないかと感じる。今まで取締役会メンバーのすべてまたは大部分が男性で占められてきた日本企業にとってみれば、女性取締役を加えることで、取締役会の多様性を推進できると考えるのも自然な成り行きだろう。


しかし、多様性の推進は女性の登用のみで実現できるものではないと考える。多様性には様々な属性があるのが理由だ。たとえば、多様性は下図のとおり、経験、人口の特性、個人的特質といった3種類の属性に分けることができる。

多様性の属性

図表から、女性であることは多様性の属性のうちの極一部に過ぎないことがわかる。海外展開に注力している会社であれば、民族性・人種や地域に重きを置いた取締役の選任を検討することが考えられる。また、財務的な専門知識を重要視する会社は、当該知識を有する人材を取締役として選任することとなるだろう。さらに、企業の成長にとって取締役会メンバーの若返りが不可欠だと考える会社の場合は、取締役の世代交代を検討するかもしれない。


企業が多様性を推進することによってどのようなメリットがあるのか、また、なぜCGコードは多様性の推進を求めているのか。伝統的な日本企業の取締役会のメンバーは、同じ企業で新入社員のころから、企業が営む事業に関連する幅広い分野の業務を長年にわたって経験し、50代から60代にかけて選任されることが多い。このように、似たような属性を持つ人々が同じような環境で長くビジネスをしてきた場合、Groupthink(集団思考、集団的浅慮)に陥り、熟慮の上の最適な意思決定が行えないリスクがある。言い換えると、画一的な考え方を持った人材が多い場合、企業が直面する様々な課題や重大な決議を要する事項などに対して、多様な観点から討議・判断・評価する能力が欠けるリスクがあるということだ。これに反して、重要な経営判断を担う取締役会が多様な視点を持つ取締役で構成されている場合、いろいろな意見が交わされることで暗黙の了解や集団的浅慮がなくなり、優れた企業統治の基となる共同的な環境を生み出すことができる(※4)。また、CGコードにおいては、企業の意思決定の透明性や公正性を担保することで会社の迅速・果断な意思決定を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼が置かれている(※5)。これらの点が、取締役会における多様性の推進が求められる所以である。


CGコードの対応として、取り急ぎ、現時点で取り組み可能な「女性取締役の登用」を進めた企業もあるかもしれない。取締役会の多様性の推進は、女性の登用のみならず、実務経験、専門知識から人種、世代、性格、価値観などに至るまで、様々な属性を持った取締役を登用することが重要となる。ただし、すべての会社の取締役がすべての属性を満たす必要性はないと考える。それぞれの会社が将来どのような会社でありたいのか、会社が目指すあるべき姿に到達するためにはどのような多様性の属性が必要なのか、現状を鑑みた上で今後の取締役会の構成メンバーを検討すべきである。現在の取締役の知識・経験・能力やその他多様性の属性などを精査し、今後必要となる能力などを列挙するとともに現状足りない能力などを明らかにすることが最初のステップである。


(※1)“Japan Board Index 2014, 2015.” Spencer Stuart. Feb. 2015, 2016. 一方海外では、2015年にフランスで100%、英国で99.3%、米国で97.3%、ドイツで93.0%の企業が女性取締役を選任している。
(※2)Ibid.
(※3)Ibid. 2015年において、フランスは34.3%、ドイツは24.9%、英国は23.0%、米国は19.8%。
(※4)“Different Is Better - Why Diversity Matters in the Boardroom.” Russel Reynolds Associates. 2009.
(※5)コーポレートガバナンス・コード原案。本コード(原案)の目的、P.2(2015年3月5日)。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

関連のサービス