普及が期待されるガバナンスの新制度

監査等委員会設置会社への移行を表明した企業の特徴

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2015年5月1日に施行された「会社法の一部を改正する法律」(以下、「改正会社法」という)では、新しい企業統治制度である「監査等委員会設置会社」が創設された。これはコーポレート・ガバナンス強化の一環として行われた改正の一部であり、既存の監査役会設置会社および指名委員会等設置会社(※1)の他に、新たな機関設計として加わった制度である。


2015年5月1日現在で監査等委員会設置会社への移行を表明した企業は105社ある(※2)。本稿では、監査等委員会設置会社への移行を明らかにした企業について以下の項目のデータを収集し考察した。①上場市場、②業種、③社外取締役の人数、④外国人投資家の比率、⑤ROE(自己資本利益率)、⑥時価総額の6点である。結果は以下のとおりである。


①上場市場


移行を表明した企業104社(※3)のうち、東京、名古屋、福岡、札幌の証券取引所(本則市場)に上場している企業が84社、JASDAQ上場企業が20社である。本則市場に上場している企業の3.3%、JASDAQ上場企業の2.4%、また、JASDAQを含む新興市場に上場している企業の1.8%が移行を表明した。


②業種(東証業種名)


移行を表明した企業の中で、最も多かった業種は電気機器の12社。次に機械の11社、そして化学の10社が続く。小売業や卸売業もそれぞれ9社が表明している。これら5つの業種に属する企業で全体の5割弱を占めている。合計では21業種に属する企業が移行を表明している。

業種別移行表明企業数(東証業種名別、2015年5月1日現在)

③社外取締役の人数


104社中71社が社外取締役を置いていない。改正会社法(※4)では、社外取締役を置かない場合は置くことが相当でない理由を株主総会参考書類に記載しなければならなくなり、社外取締役を最低1名置くことが実質的に義務化された。監査役会設置会社が最低限必要とする社外監査役の人数は2名である。したがって、監査役会設置会社が最低限必要とする社外役員の人数は3名となる。一方、監査等委員会設置会社が必要とする社外役員(すなわち社外取締役)の人数は最低2名である。社外取締役の招聘が人材面やコスト面で容易でないと思う企業が存在すると考えられ、監査等委員会設置会社への移行を決断する要素のひとつになったと推測される。

社外取締役人数別企業数と割合

④外国人投資家の比率


移行を表明した企業の過半数(52.9%)は、外国人投資家の所有割合が5%未満である。一方、外国人投資家の所有割合が20%を超える企業が22.1%ある点も注目される。前述のとおり、今回の会社法改正はコーポレート・ガバナンスの強化の一環で行われたものである。経済協力開発機構(OECD)(※5)やInstitutional Shareholder Services(ISS)(※6)などの海外の機関も、会社法改正を含む一連の我が国のコーポレート・ガバナンス強化への取り組みに対して一定の評価を示している。移行表明した企業のうち、現在外国人投資家の比率が高い、または今後外国人投資家の比率を高めたいと考えている企業は、監査等委員会設置会社に移行することがコーポレート・ガバナンスを強化するとともに外国人投資家の支持や割合の上昇に資すると考えているかもしれない。

外国人投資家の割合別企業数と割合

⑤ROE(自己資本利益率)(※7)


移行表明した企業のROEを見ると、43.3%の企業が7%未満である一方、過半数が7%以上の企業である。また、15%以上と海外企業に引けを取らない高さを有する企業も多く見受けられる。ROEの高低と移行表明との関連性は現状あまり見いだせない。

ROE別企業数と割合

⑥時価総額(※8)


移行表明した企業の42.3%が時価総額100億円に満たない企業である。さらに、1,000億円未満の企業となるとその割合は78.8%となる。時価総額が1兆円を超える企業は3社と少ないが、3社とも外国人投資家比率が25%以上と高い。時価総額においては、比較的規模の小さい企業が多く移行表明しているといえる。

時価総額別企業数と割合

本稿ではここまで、監査等委員会設置会社への移行を表明した企業を概観してきた。移行会社の大まかな特徴として、社外取締役の人数が少なく、比較的規模の小さい企業が多い点が挙げられる。これは、現状ではコーポレート・ガバナンスの強化に多くのコストをかけられない企業が、現時点で採用可能な制度を利用して監査等委員会設置会社への移行を決めたのではないかとも推測される。今後は、本制度を活用する企業が増えていくものと思われる。


(※1)改正会社法施行前の名称は委員会設置会社。
(※2)各社プレスリリースより大和総研まとめ。
(※3)2015年2月JASDAQに上場した1社については、十分なデータが取れないため分析対象から除外している。
(※4)会社法施行規則第74条の2。
(※5)「OECD対日審査報告書2015年版 概観」。2015年4月。
(※6)「Japan Proxy Voting Guidelines 2015年版 日本向け議決権行使助言基準」2015年1月7日。
(※7)Bloombergによると、日本の上場企業のROE平均値は6.18%、中央値は6.83%。データは2015年5月14日現在。
(※8)Quick Astra Managerより大和総研まとめ。データは2015年5月7日現在。

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