2015年03月04日
経営者の最後の大仕事
毎年、多くの企業の経営トップがその地位を後継者にバトンタッチする。
今まで自らが率いてきた会社を後継者に任せようとするとき、彼らは何をどう考え、どんな基準で後継者を選定し、交代のタイミングを見計らっているのだろうか。もちろん、経営トップの交代は多分に個別具体的な要素が強いテーマではあるが、本レポートでは3つの視点から彼ら(経営者)の想いについて考察してみたい。
①年齢
企業経営はハードな仕事である。商談のために世界中を飛び回り、大型M&A案件が大詰めを迎えれば夜を徹して交渉することもあるだろう。今後の会社の存亡をかけた経営判断をするようなときには眠れない夜が続くかもしれない。
経営者が交代を考えるときに、加齢による体力や健康面の問題は避けては通れない。
そんな中、60歳代~70歳代の経営者が企業経営の第一線で活躍していることを考えると、企業を牽引していく経営者の多くが非常にパワフルな人物であることに異論はないだろう。
ただ、そのパワーで未来永劫いつまでも活躍し続けるというわけにはいかない。自身の体力や健康、勢いに少しでも不安になったとき、そして次世代の経営者候補の中に若かりし頃の自分と重ね合わせられるくらい勢いがある人物を見出したときに、彼ら(経営者)はその役割を次世代に譲ることを考えるのであろう。
②後継者の選定
後継者へのバトンタッチを検討するにあたり、誰を後継者とするかという最重要課題がある。最近では、外部の経営者(いわゆるプロ経営者)を登用することも多く見受けられるようになってきた(※1)が、主流は内部昇格による交代であろう。
外部登用の難しさは、経営を任せるのに適した人物を見つけてくること、その人物に自社の経営に魅力を感じてもらい重責を引き受けてもらうことに留まらず、自社の役員や従業員に対してどうメッセージを伝えるかにもある。外部から招いた新トップを自社の役員や従業員にポジティブに受け止めてもらうための何らかの仕掛けが必要となる。
一方、内部昇格では副社長が社長に昇格する人事が多い。現時点(2015/3/4時点)ではまだ社長に就任していないが、2015年4月1日付の大手商社の社長人事 (同年6月の総会をもって代表取締役就任予定)では執行役員の中から社長昇格者が現れる。その大手商社では2014年6月に取締役だけではなく、執行役員からも社長を選べるように定款変更をした。社内制度を変えることで後継者の選択肢を広げるという施策を打っていたのだ。
経営者にとっては、会社を更なる成長に導いてくれそうな優秀でパワフルな経営者であれば、外部登用のプロ経営者であろうが、内部昇格の生え抜き経営者であろうが構わない、というところだろうか。
③タイミング
経営トップにとって一番難しいのはいつ引退するかというタイミングの問題かもしれない。後継者は十分に育っているのか。自らの引退後も事業活動が円滑に運用されるガバナンスシステムは構築できているか。自身が人生を賭けて取り組んでいた課題に目途は立っているのか・・。
たとえば、トップ交代のタイミングとしては次のようなことが考えられる。
- 「(自身の経営により)会社は大きく成長し、一定の成果は出た。次のステージへ移るべく、その適任者を指名しよう。」
海外の同業他社を買収し、グローバル展開をさらに進めたい。外部で手腕を発揮している魅力的な経営者(プロ経営者)がおり、その人物に経営を任せるというような事例がこのパターンにあたる。 - 「グループが拡大してきて、(自身の)職務も多くなってきた。事業は新社長に任せて、わたしはグループ全体の統括の役目を果たそう。」
社長業こそ後継者に譲ったものの、自身は会長としてグループ全体を統括する、というようにグループの拡大に伴い、事業執行は社長、自身はグループ経営に専念するというように役割を再定義するケースもある。
このようにタイミングはさまざまだが、自身の引退のタイミングをはっきりと決めている経営者は多くないのではないか。トップに就任すると取り組むべき課題が山積しており、引退のタイミングなどじっくり考えている暇はないのかもしれない。
経営者の悩みは尽きない
これまで、①年齢、②後継者の選定、③タイミング、という3つの視点から経営トップの交代について考察してみた。この他にも後継者候補の育成、新トップの経営を軌道に乗せるための仕掛け(具体的プラン)、自身の引退後を想定したガバナンス体制の構築等、悩みの種は尽きない。
さらにどの施策を打つにしてもそれなりの準備期間を要する。自身がトップである期間に事業の成功・拡大のみに注力してしまい、いざ交代を考えたときに何も準備していなかったというのでは時すでに遅しである。
最後の大仕事を準備不足で後悔しないように、自身が健康で、まだまだ第一線で活躍しているうちに、一度まとまった時間を作って自身の引退についてシミュレーションしてみるのもいいかもしれない。
(※1)2014年には、資生堂の魚谷雅彦氏や武田薬品工業のクリストフ・ウェバー氏、サントリーホールディングスの新浪剛史氏のように、既に経営者として目覚しい成果を上げた人物を自分の後継者として登用する例も見受けられた。
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