2014年05月21日
日本株に占める外国人投資家の保有比率増加や東京証券取引所の上場規程の改正などを受けて、日本企業のコーポレートガバナンスの形態は独立取締役の役割を重視したグローバルなものに近づいている。一方で、日本と米国のガバナンスの開示状況については大きな差が存在していると言わざるを得ない。
両者の開示内容にギャップが存在する要因は、開示規程の違いである。日本の上場企業の開示規程にはガバナンスの体制、独立役員の情報などが含まれているが、細かな記述は求められていない。一方、米国の上場企業の開示規程は、日本の上場企業が課されている規程よりも詳細である。
外国人投資家の日本株保有比率が増加するなかで、自発的に規定された内容以上のガバナンスの開示を積極的に行う日本企業も存在する。ガバナンス開示のベストプラクティスとして「2013年JCGIndex」(※1)で第1位となったエーザイ(※2)の開示事例のうち、特に取締役会・独立取締役に関する開示内容を見てみよう。
エーザイの事業報告書には以下のような記載が含まれている。
- 「コーポレートガバナンスの体制」
- 取締役会の経営に対する監督機能
- 構成(独立性のある社外取締役の割合が過半数)
- 指名・報酬・監査委員会委員の社外取締役の割合
- 当該委員会の各委員長の構成(すべて社外取締役)
- 「継続的なコーポレートガバナンス充実の検討の仕組み」
- 策定されたコーポレートガバナンスガイドラインに毎年取締役会が自己レビューを行う旨が定められている
- 取締役会における活発なガバナンスの議論を促す仕組み
- 「経営の監督と業務執行の明確な分離」
- 社外取締役が過半数を占める取締役会が、業務執行に関する意思決定権限を執行役に大幅に譲渡することにより経営の監督に専念する
- 業務執行や意思決定プロセスなどの妥当性について、取締役会は株主を含むステークホルダーの見地からチェックする
- 「指名委員会、報酬委員会、監査委員会の運営」
- 指名・報酬・監査委員会の組織、人員、任務などの説明
- 客観性の高いプロセスで審査や意思決定を行うことで業務執行と経営の監督の分離を図る
このような記載からもわかるように、取締役会の構成などの情報のみならずガバナンスの運用面の情報も開示されていることから、業務執行と経営の監督の分離にフォーカスを当て、ガバナンスの基本理念を忠実に実践していることが伝わる内容になっている。
外国人株主比率の高い企業やグローバルに事業を展開している日本企業は増えており、これらの企業では、ガバナンス開示のベストプラクティスのように開示規程で求められている内容以上の開示を目指してみてはどうか。
(※1)日本コーポレート・ガバナンス研究所は毎年コーポレート・ガバナンス調査を行い、50点以上の企業をインデックスにして公表している。当該インデックスに掲載されている企業は、ガバナンスに対して積極的に取り組み、体制が比較的充足していると考えられている。
(※2)エーザイのガバナンス体制は委員会設置会社。独立取締役が過半数を占める取締役会の下に指名・報酬・監査委員会を置く。取締役会は株主の代理人として機能し、業務を遂行する経営者を監督する役割を果たす。一方で、多くの日本企業のガバナンス体制は監査役設置会社であり、監査役が業務を執行する経営者の監督を行う。
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