日本企業の株主構成に大きな変化が生じている。きっかけは金融機関による政策保有株式の売却だ。リーマン・ショック後の4年間だけでも、銀行・生損保大手10社合計で6.6兆円(※1)に達している。取引所の時価総額は318.7兆円(※2)だから、2.1%に相当する金額だ。自己資本規制や会計基準の動向等を考慮すると、この流れが逆回転する可能性は低い。株主構成の再考を迫られている日本企業は少なくないと言えそうだ。今回は、目指すべき株主構成の検討プロセスについて紹介する。


実際の株主構成の検討は、①問題意識の明確化、②現状の把握、③目指すべき株主構成と具体的な施策の策定、の3つのステップを経て行われる。①問題意識の明確化は軽視されがちだが重要なステップだ。例えば、他社に比べて個人株主が多く機関投資家株主が少ない、といったレベルでは問題意識が明確化されたとは言い難い。根底にある問題意識が、株主数が多いことによる管理コスト負担にある場合と、機関投資家の認知度が低いことによる株価低迷にある場合では、②及び③の議論は全く違ったものになる。経営トップの真意を十分に確認しておくことが重要だ。


次に②現状の把握だ。他社との比較や過去からの推移等に基づいて現状を分析した上で、その背景を探る必要がある。③につなげるためにポイントになるのは既存株主の保有動機だ。機関投資家にしても個人投資家にしても株式を保有する動機は様々であり、それが異なれば株価等への影響も違ったものになる。例えば、インデックス運用の機関投資家の保有動機は指数に採用されていることに尽きるから、彼等の買いによって株価が市場平均以上に上昇する事態は想定し難い。これが事業の将来性や経営者の手腕に惚れ込んだ投資家であれば話は別だろう。保有動機を正確に調べるのは困難だが、株主向けアンケート調査等を通じて推定することは可能だ。①問題意識を検証するためにも、③施策の実効性を検討するためにも精査が求められる。


最後は③目指すべき株主構成と具体的な施策の策定だ。株式市場では投資家(株主)が企業を選ぶのが基本だから、企業から見て「望ましい」株主構成が実現可能である保証はない。目指すべき株主構成と具体的な施策は併せて検討するのが現実的だ。筆者の経験からすると、①と②で十分な議論が尽くされていれば③の結論は自ずと見えてくるし、そうでない場合は①或いは②に立ち戻るのが基本だ。実際、③自体は社内への報告用のロジック作りが主になることも少なくないようだ。


最後に、株主構成を議論する大前提について指摘したい。機関投資家であれ個人投資家であれ、この先どうなるか想像もつかない企業には投資しないということだ。自社の将来像を示せない企業が株主構成を議論しても意味のある結論が出ることはないだろう。経営者の頭の中に将来像がある、或いは社内において将来像についての議論が進んでいるのであれば、それを株式市場に示していく必要がある。株式市場のロジックに置き換えてみることで、議論が不十分な部分が見えてくることもあるだろう。社内でも将来像についての議論が進んでいないのであれば、これを機会に議論を始めてみるのも良いのではないだろうか。


(※1)その他有価証券(株式)の売却額。対象は三菱UFJ FG、三井住友FG、みずほFG、りそなHD、三井住友トラストHD、東京海上HD、MS&AD HD、NKSJ HD、第一生命、T&D HD。
(※2)東証一部時価総額。過去2010年-2013年の各3月末時点の平均値。

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