激甚な台風や豪雨に対する企業防災の再考

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今年も台風や豪雨の被害が甚大となっている。
企業活動では、本社や支店だけでなく、店舗・営業所・工場・物流倉庫などが台風や豪雨の被害にあうことが想定される。
ではどのような対策を打つべきだろうか。これまでも災害対策という点では、地震や台風を中心とした対策作りがなされてきている。
そこで本稿では、台風や豪雨による被害が甚大となっていることを鑑み、既存の災害対策にどのような点を付加的に盛り込むべきかを、「気象情報を理解する」こと、「自治体の経験に学ぶ」こと、「被災時の具体的な留意点」等から確認し、減災へのポイントを概観する。


1.「気象情報を理解する」
まずは、雨量の定義を確認しておくことから始めよう。
天気予報で「今夕は、雨模様が予想され、1時間に20ミリ程度の強い雨が降るでしょう。」と聞いて、どう感じるだろうか。気象情報に少しでも知見のある人なら注意をするだろうが、一般的には「たいした雨でもなかろう」「長い傘があれば大丈夫だろう」というように比較的軽い解釈をされるのではないだろうか。
気象庁によると、10以上-20ミリ未満の雨では、「やや強い雨」と定義され、災害発生状況として「この程度の雨でも長く続く時は注意が必要」と注意喚起を促しているし、20以上-30ミリ未満になると「強い雨」と定義され、災害発生状況は「側溝や下水・小さな川があふれ、小規模の崖崩れが始まる」となっており、その雨量が軽視できないことが表現されている(図表1参照)。

(図表1) 雨の強さと降り方

これ以上の雨量になると危険度が高まるのは容易に想像出来るが、少ない雨量でも災害発生の原因となることを再認識しておくべきであろう。
台風に関しては一般的に警戒心を高めるが、降雨の場合だと軽く見過ごしがちである。しかし、豪雨により人命を奪うほどの被害も過去発生しており、雨量といった気象情報にも改めて理解を深め注意を払うことが必要である。


台風における風も、雨量と同様に「風の強さと吹き方」としてレベル分けされている。風の場合、人への影響はもちろんのこと車や建造物への被害が想定される。企業活動においては、営業員や支店・店舗・営業所などに対し下表にあるような被害が想定される(図表2)。

(図表2) 風の強さと吹き方

このように台風や豪雨に備え、雨量などの気象情報の基礎を知っておくことはもちろんだが、それだけにとどまらず、台風の通過が予想される場合、従業員の安全や建造物の保全を考慮して、出勤時間や帰社時間の柔軟化、自主防災組織の早期設置など防災・減災のため発動出来る社内ルールを策定しておいてもよいのではないだろうか。


2.自治体の経験に学ぶ
これまで水害で激甚な被害を被った市区町村は数多いが、その範囲は平成14年から17年に限ってみても、18都道府県・49市区町村に及んでいる(図表3)。
これをみると、東京・神奈川・福岡といった大都市圏でも被災していること、災害の原因に台風だけでなく豪雨があったという点に目を引かれる。

(図表3)激甚な水害を被った市区町村

ここで被災した自治体の水害経験から取組むべき点として共通に指摘されているのは、水害対策マニュアルの作成、防災情報広報マニュアルの整備、ハザードマップの作成、避難場所・ゴミ処理所・トイレの確保、などである。
主に台風や豪雨を中心とした水害の場合、国の管理下にある河川の増水・氾濫・浸水がその主因であるため行政に期待する部分が大きいが、いざ水害が発生してしまうと行政の対応にも限界がある。企業側も行政任せではなく、防災を検討しておくべきであろう。それを裏付けるかのように、被災経験のある各自治体の首長は、被災を振り返ったコメントの中で、自助・共助の重要性を訴えている。
企業として対応可能な取組みとしては、「台風豪雨の関連情報の共有」、「台風豪雨想定地域への人的・資材の支援」などが考えられる。例えば、都市部でのゲリラ豪雨が記憶には新しいが、本社の方では雨が強くなくとも、電車で10キロ先の営業所の区域ではゲリラ豪雨に見舞われ公共交通機関が不通となったり、一般道路の水没などが発生していることもある。そのような時に、音声による電話連絡だけでは状況が伝わり難いので、カメラ付き携帯電話を活用して現地映像を本社に送信してもらうようにする。
その一方で、ゲリラ豪雨が予想されそうな場合には外出中の営業員にメールで注意喚起を促すなど、双方向の「ゲリラ豪雨情報の共有」が重要となろう。また、ゲリラ豪雨が予想される地域に営業所や物流倉庫がある場合、豪雨対策のための土嚢の積み上げ用の人員配置、排水用のポンプの手配などに本社側からの迅速な支援策が重要となろう。ゲリラ豪雨などでは、情報の集中、迅速な対応と指示など本社サイドで準備しておくべきことはある。
これら具体策を含め非常時の迅速な対応のためにも、平時から台風や豪雨の際の体制整備、自治体や地元自治会などとの対話をしておくことが重要であろう。


3.「被災時の具体的な留意点」
さて、地方ばかりでなく都市における台風や豪雨ではどのような点に留意しておくべきだろうか。都市部でも河川の増水、氾濫、浸水といった一連の流れは同じだが、地下道・地下街などでは最悪の場合、地下室で「水圧でドアが開かない」「停電で真っ暗になる」といった状況も発生しうる。エレベーターでは、閉じ込められる危険性もある。これらを考慮すると、屋内にいる場合はまず高い階に避難する、地下や低層階にいた場合には、階段を利用して非難することに留意すべきである。
また、地上にいても、浸水に遭遇することもある。テレビ報道で豪雨被害にあった地域で浸水の中を歩いている姿を目にするが、そのような場合、高所に避難することが第一である。人間が安全に歩ける水深は、男性で70センチ、女性で50センチといわれている。腰までの水深は足元が不安定となり、危険であることも覚えておくと良いだろう。避難する際には、広い道路を選び側溝や水路には注意する必要がある。河川脇の道路や橋なども避けるべきである。一方、河川の増水・氾濫も初期段階なら、土嚢で防げる。土嚢が無くても、プランターやダンボールなどを連結させてビニールシートで覆うだけでも簡易の防水塀が出来る。
また、河川の浸水以外では、都市近郊の造成地や山間部地域では、土砂災害に留意する必要がある。日本には、約1万箇所の地すべり、約33万箇所の斜面崩壊があるといわれている。土砂災害といっても、「がけ崩れ」、「地すべり」、「土石流」などがある。(図表4)

(図表4) 土砂災害の種類

表にあるように、これら土砂災害では、「がけ崩れ」が突発的であり、「土石流」は破壊力が強いため、いずれも被害が大きい。急斜面の脇にある道路や建物、切り出した山を背にする建物は、特に注意が必要である。斜面やがけを見たときに、「雨が集中して流れるところがある」「斜面に亀裂がある」「不安定な岩や土の塊がある」などがないかが、土砂災害を避けるためのチェックポイントである。さらに、土砂災害は、地中にしみ込んでいる水の量が多いほど発生する数や規模が多く、短時間に集中して雨が降る場合に発生しやすいといわれている。数値で示せば、1時間に20ミリ以上、もしくは降り始めてから100ミリ以上の雨が続いたら、がけ崩れの危険性が高いとされている。
そして、忘れてはならないのは雨が上がった後でも、災害が起こるという点である。


4.おわりに
以上みてきたように、その被害が甚大となってきた台風や豪雨について既存の災害対策だけでなく、打つべき対策があることがわかる。詳細なマニュアル作りや、防災体制を作ることも重要ではあるが、それ以前に、気象情報を再確認しておくこと、これまで被災してきた自治体での経験に学ぶことなどにも対策のヒントはある。今回は、詳細に触れなかったが自治体で作成しているハザードマップも有効に活用されなかったとの反省が一部の自治体であった。それは、住民などの意識の問題もあろうが、そのマップ自体が有効であったのかという点にも問題はあろう。つまり、ハザードマップが必ずしも、激甚な台風や豪雨を想定されたものではなく、既存のハザードマップで安全とされていた場所が激甚な台風や豪雨ではその限りではないとの指摘もされているようである。
企業としては、これまでの地震・台風を中心とした防災対策に、激甚な台風・豪雨への留意点も盛り込んでみてはどうだろうか。たとえば、年に一回実施されている防災訓練で、地震や火災を想定した避難訓練ばかりでなく、豪雨時を想定した避難場所の確認、携帯電話の画像送信機能を活用した営業拠点と本社(災害対策本部が設定される)との緊急情報の連絡訓練、水害を想定した備蓄品の見直し・拡充など、より実践的な取組みを行ってはどうであろうか。
集中豪雨の被害にあったことがある首長は、「災害は忘れた頃にやってくる」という諺でその体験を振り返ると共に、対比される諺である「備えあれば憂いなし」を引用して、行政と地域が一体となって防災対策・施策を講じていくべきであると明言している。
企業として持続可能な活動を続けるためにも、激甚な台風や豪雨を鑑みた防災対策も経営課題の一つとして捉え、検討されることを期待したい。

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