予測を、もっと身近に。時系列基盤モデルが拓くデータ活用の未来

なぜ時系列基盤モデルなのか?

ChatGPTやClaudeに代表される大規模言語モデル(LLM)が「言葉の履歴」を扱う基盤AIだとすれば、時系列基盤モデル(TSFM:Time Series Foundation Model)は「数値推移の履歴」を扱う基盤AIだ。経済や天候など多様な時系列データで事前学習され、追加学習なしで将来予測・異常検知・分類といったタスクをこなす。

大和総研
プロダクトソリューション部
主任データサイエンティスト
田﨑 誠

田﨑「LLMで言語処理が一気に身近になったのと同じような波が、今度は"数値の世界"でも起こり始めているのではないか——最初にTSFMの論文に触れたとき、そんな感覚を持ちました。事前学習済みのモデルが、追加学習なしでそれなりの予測を返してくる。これは、データサイエンスの進め方そのものに影響を与えうるテーマだと感じました。」

これまで需要予測や異常検知は、データサイエンティストが時間をかけてモデルを作り込む領域だった。データ収集、特徴量設計、モデル選定、ハイパーパラメータ調整……予測対象が増えるごとにモデルの数も加速度的に増えていく。

田﨑「これまでデータサイエンティストが長期間かけて取り組んできた予測の世界に、未知のデータに対して追加の学習を行わずに予測を行うゼロショット予測という入り口が新たに加わった——そんな感覚があります。完全な民主化というのは少し早いかもしれない。けれど、専門家でなくても予測の世界に触れられる入り口が"すぐそばに来た"という期待感は大きいです。」

【TSFMの3つの特徴】
・モデルの開発不要:既存の公開モデルを活用し、短期間で予測可能
・マルチスケール性:多様なタスク・時間解像度に1モデルで適応
・少量データで検証可能:限られた期間のデータでもPoC実施が可能

適用領域は、エネルギー需給予測、コールセンター入電予測、機器故障の予兆検知、売買審査の類型判定、顧客の離反予兆分類など、業種・業態を問わず「時系列データがある全領域」に広がる。

※TSFMの技術的な詳細については、大和総研の用語解説サイト「WOR(L)D」をご参照ください。

大和総研におけるTSFMへの取り組み

「まずは実証から始める」——これが大和総研のスタンスだ。2024年度に田﨑らによる基礎調査からスタートし、2025年度には研究テーマとして本格化。研究リーダーの竹内のもとで、実データを使ったPoCと、主要モデルの公平な性能比較が進められてきた。

基礎検証 — 「これでやれる」と感触をつかんだ

大和総研
デジタルソリューション研究開発部
主任データサイエンティスト
竹内 祥人

竹内「最初に取り組んだのは、公開されている電力消費データを用いた需要予測でした。追加学習なしのゼロショット予測でどこまで精度を確保できるか——研究員と手を動かしながら検証していきました。」


検証では、本研究で設定した評価条件のもと、追加学習を行わないTSFMについて、電力需要予測への適用可能性を示す結果が得られた。条件によって結果は変わりうるものの、既存の予測手法を補完しうる性能を確認できたことは、その後の展開を考えるうえで重要な手応えとなった。

大和総研
デジタルソリューション研究開発部
データサイエンティスト
清重 一輝

清重「結果を見たときに、"これは検討を進める価値がある"と研究員一同で感じました。追加学習をしていないモデルでも、一定の予測性能が得られるケースがある。もちろん条件次第ではありますが、短期間で予測可能性を検証する手段として期待が持てたことが、その後の展開を後押ししました。」

JSAI2026で主要モデルの横断比較を発表

検証結果は、2026年6月に開催された第40回人工知能学会全国大会(JSAI2026)で発表した。注目したのは、世の中で次々と公開される主要な時系列基盤モデルを、リーク排除の条件下で横並びに比較した点である。

竹内「TSFMはモデルごとに学習データも設計思想も異なります。だからこそ、お客様に提案する以上、どのモデルがどんなデータで強いのか/弱いのかを、客観的な物差しで語れる必要があります。今回の発表は、その第一歩です。」

お客様への紹介 — 業界横断でユースケースを探す

研究の成果は、既に営業の最前線にも届いている。

大和総研
デジタルソリューション研究開発部
主任データサイエンティスト
末次 由佳

末次「お客様にご紹介すると、関心を持っていただけるのは精度の高さよりも、"既に運用している予測モデルの改善余地として使えるのではないか"、"少量データでもすぐに検証に着手できる"といった点であることが多いです。これまで予測モデルといえば、データを大量に集めて、専任のデータサイエンティストにお願いして、数ヶ月かけて作るもの——そういうイメージが強かった。短いサイクルで試しながら判断できる、というところに価値を感じてくださるお客様が増えています。
データサイエンスがより身近なものになりつつあることに、可能性を感じてくださっているお客様が多い印象です。金融、エネルギー、物流、製造、小売、医療——業界を問わず時系列データはあらゆるところにあります。私たちもまだ全ての領域を見られているわけではありません。だからこそ、あらゆる業界でユースケースを探していきたい。お客様と一緒に"このデータで予測できたら、業務はどう変わるか"を考える時間が、いま一番面白いところです。」

時系列基盤モデルの将来性

・2026年は「実務データでの検証」が問われる段階に

技術トレンドの最前線にいる清重は、2026年の状況をこう見ている。

清重「TSFMはここ数年で主要モデルが立て続けに公開され、研究としての成果は積み上がってきました。論文ベースではオープンデータに対して従来手法を上回る結果も多く報告されています。一方で、実際にお客様の実務寄りのデータに適用してみると、作り込まれた従来手法のほうが精度が高いというケースの報告もあるのが現状です。だからこそ、2026年は、論文の段階から実務データでの検証が問われる段階に移ってきている——それが私の実感です。」

・「TSFMは万能ではない」——だからこそ専門家が必要

研究コミュニティでも「TSFMは万能ではない」「タスクによっては軽量な教師ありモデルと同等の精度しか出ないケースもある」という冷静な指摘がなされている。

清重「これは私たちも同じ感覚を持っています。TSFMが全てを置き換えるわけではありません。データの性質、予測のホライズン、業務制約——そういった条件によって、最適なアプローチは変わります。だからこそ、大和総研のデータサイエンティストが、お客様の現場でその見極めを客観的にお伝えできることに意味があると考えています。
華やかな"何でも当たる万能モデル"の物語ではなく、ここは効く/ここは別の手段が良いという見極めを、データに基づいて誠実にお伝えする。それが、研究と実務の両方を抱えている私たちの強みだと思っています。」

・予測の民主化を、もっと広く

それでも、清重の語り口には前向きさがある。

清重「従来は熟練のデータサイエンティストが時間をかけて作り込んでいた需要予測や異常検知が、少量データと短期間のPoCで、まず試してみることのできる時代になりつつあります。専門家の知見が不要になるわけではありません。むしろ、専門家の知見は"どこに使うべきか""どう業務に組み込むべきか"という、より価値の高い場所にシフトしていく。
私たちはこの動きを、もっと広い業界、もっと多くのお客様にお届けしたい。予測という営みを、一部の専門家のものから、現場の意思決定に寄り添う日常の道具に——そう変えていけたら、データサイエンティストとしてこれほど面白い時代はありません。研究員として、その最前線に居続けたいと思います。」

本ページの内容は、2026年6月時点の取材・制作内容に基づくものです。現在の所属・体制とは異なる場合があります。

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