
2種類の生成AIチャットで金融サービスの顧客体験を刷新
大和総研では大和証券と協働し、金融機関に求められる正確性・信頼性に配慮した設計・運用のもと、生成AIを活用した2種類のチャットサービスを構築した。一つは大和証券ホームページ上の「よくあるご質問」に対応する「大和証券生成AIチャット」であり、もう一つは職域サービス(従業員持株会やストックオプション等)のプラットフォーム「DAIWA LIFEPLAN」利用者向けに、各種手続きやライフプラン・資産運用に関する一般的な質問へ対応する「DAIWA LIFEPLAN生成AIチャット」である。お客様の質問意図を柔軟にくみ取り、必要な情報へスムーズに導くことで、幅広い金融サービス接点における顧客体験の向上を推進した。
課題
従来型FAQチャットの限界
大和総研
DXシステム部
シニアアプリケーション・アーキテクト
清水 克哉
清水「これまで主流だったルールベース型のFAQチャットは、あらかじめ想定した質問には対応できる一方で、表現が少し変わるだけで必要な情報にたどり着けないという課題がありました。利用者が入力する言葉は必ずしも登録済みの質問文と一致せず、言い回しや前提条件が異なる場合には、適切な回答候補を提示しにくい状況でした。特に金融サービスでは、口座開設、各種手続き、NISA制度、オンライントレードの操作、従業員持株会、ライフプラン、資産運用の考え方など、問い合わせテーマが多岐にわたります。利用者の知識量や質問の粒度もさまざまであるため、定型的なシナリオだけでは十分な自己解決を支援しづらいという課題がありました。結果として、必要な情報にたどり着けない利用者が電話やメールで問い合わせることになり、顧客体験の低下やコンタクトセンターの負荷増加につながる可能性がありました。」
ソリューション
用途の異なる2種類の生成AIチャットをRAGで展開
大和総研
DXシステム部
アプリケーション・アーキテクト
松井 優
松井「1つ目の『大和証券生成AIチャット』では、大和証券ホームページ上の『よくあるご質問』や、オンライントレードヘルプ&マニュアルなどの情報をRAG(Retrieval-Augmented Generation)として整備し、生成AIが質問の意図に応じて関連情報を検索・要約しながら回答する仕組みを構築しました。従来のAIチャットと比べて取り扱うデータ量を大幅に増やし、複数ページにまたがる情報もまとめて案内できるようにしました。回答には図や表を活用し、根拠となるFAQページや関連マニュアルへのリンクも提示することで、利用者が内容を確認しながら理解を深められる構成としています。」
大和総研
デジタルソリューション研究開発部
主任データサイエンティスト
菅野 祐太郎
菅野「2つ目の『DAIWA LIFEPLAN生成AIチャット』では、先行して提供を開始した『大和証券生成AIチャット』で培った技術力とノウハウを活用し、『DAIWA LIFEPLAN』利用者から特に多く寄せられる質問を中心にコンテンツを整備しました。従業員持株会からの引き出しなどの各種手続きに関する質問に加え、老後の生活設計、インフレを踏まえた資産運用の考え方など、ライフプランおよび一般的な資産運用に関する幅広いテーマに対応しています。特定の銘柄・商品の推奨や個別の投資相談は扱わず、大和証券が独自に制作したコンテンツを基に、金融機関としての知見を反映した信頼性の高い一般的な情報提供を目指しました。こちらのチャットにはAIエージェントの機能を導入しており、顧客の質問を解釈して適切なRAG検索ツールに振り分ける仕組みを構築しています。」
大和総研
デジタルソリューション研究開発部
主任データサイエンティスト
及川 大志
及川「2つのチャット開発にはアジャイル開発体制を取り入れ、短期間でプロトタイプを立ち上げながら継続的な改善を実施しました。両チャットにおいて、利用者の質問に関連性の高い質問をAIが提示する機能を備えており、回答が利用者の質問意図とずれた場合でも、次の質問を選択できるようにしています。表や画像も活用した分かりやすい回答表現や、質問しやすいインターフェース設計により、利用者が必要な情報に到達しやすい体験の実現を目指しました。」
■チャット画面イメージ(大和証券生成AIチャット)
■チャット画面イメージ(DAIWA LIFEPLAN生成AIチャット)
大和総研
DXシステム部
CCoE/アプリケーション・アーキテクト
林 亮輔
林「本サービスの構築には、Microsoft Azureを利用しました。サーバ管理の手間を削減すると同時に、利用状況にあわせた柔軟なリソース確保によるサービス安定性のため、主にサーバレスのPaaSを活用した構成としました。チャットの機能提供にはAzure App Service(※1)、チャットの回答生成に利用するAIモデルにはAzure OpenAI Service(※2)上のGPTモデル(※3)を利用しています。回答生成の元となるFAQデータは、大和証券の担当者が管理者画面からアップロードできるようにしています。あわせて、大和証券のホームページ上に掲載されているオンライントレードの利用マニュアルもクローリングして取得し、Azure AI Search(※4)上にRAGのインデックスとしてデータを整備しています。また、利用状況の把握・改善に必要な情報を、社内規程等に基づき適切に管理・活用できる仕組みも備えています。」
(※1)Microsoft Azureが提供する、Webアプリケーション・モバイルバックエンド・Restful APIを実行できるサーバレスプラットフォーム
(※2)Microsoft Azureが提供する、OpenAIの最先端モデルを利用可能なプラットフォームサービス
(※3)OpenAIが提供する言語モデル
(※4)Microsoft Azureが提供する、企業内の文書・Web・DBなどのデータを検索可能な形にインデックス化し、高精度な検索機能を提供するサービス
■システム構成イメージ(※一部サービスの記載を省略)
成果
自己解決の促進と問い合わせ対応負荷の軽減に寄与
大和総研
デジタルソリューション研究開発部
主任データサイエンティスト
菅野 祐太郎
菅野「『大和証券生成AIチャット』の導入により、従来のルールベース型チャットと比べて、利用者の質問意図に沿った回答を返せるケースが増えました。複数ページにまたがる情報をまとめて案内し、図表や根拠ページを交えて説明できるようになったことで、必要な情報への到達をより自然に支援できるようになり、自己解決の促進と顧客体験の向上につながっています。さらに、本AIチャットのリリース直前に二段階認証の導入に伴う問い合わせが増加した際にも、関連質問に対応したことで、電話やメールによる問い合わせの一部を吸収し、コンタクトセンターの負荷軽減にも貢献しました。」
大和総研
デジタルソリューション研究開発部
主任データサイエンティスト
及川 大志
及川「また、『DAIWA LIFEPLAN生成AIチャット』では、職域サービスの利用者に対して、手続きに関するよくある質問だけでなく、ライフプランや一般的な資産運用に関する基本的な疑問にも分かりやすく案内できるようになりました。資産運用の経験が豊富ではない利用者にも、必要な情報を探しやすく、理解しやすい形で提供することで、職域サービスにおける情報提供の幅を広げています。2種類のチャットを通じて、一般顧客向けの問い合わせ対応と、職域サービス利用者向けの情報提供という異なる接点で、生成AI活用による顧客対応高度化を実現しました。」
今後の展望
継続的な改善を通じ、生成AI活用による顧客対応高度化を推進
大和総研
DXシステム部
CCoE/アプリケーション・アーキテクト
林 亮輔
林「今後は、本取り組みで得られた技術力とノウハウを活かし、生成AIチャットを単なるFAQの代替にとどめることなく、より高度な顧客対応や多様なサービス接点へと発展させていきます。利用データやフィードバックを継続的に分析・反映し、回答精度や利便性をさらに高めるとともに、情報提供範囲の拡大やAI機能の高度化にも取り組みます。金融機関に求められる正確性・信頼性を維持しながら、生成AIを顧客体験向上の実践的な手段として磨き込み、今後も金融業界をはじめとするさまざまな分野で、サービス改善と新たな価値創出を推進していきます。」
本ページの内容は、2026年8月時点の取材・制作内容に基づくものです。現在の所属・体制とは異なる場合があります。




