鳥獣被害防止特措法

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2013年08月20日

  • 大澤 秀一

イノシシやサル、シカなどの野生鳥獣による農作物の被害額は毎年200億円前後で高止まりしている(図表)。被害は全国に及んでおり、北海道、福岡県、長野県、広島県などで特に被害額が大きい。また、トドやオットセイなどの海獣類が出現する所では、漁具の破損や漁獲物の食害が深刻さを増しており、北海道だけでも被害額は毎年20億円前後に上っている(※1)。被害が減らない理由は、野生動物の生息域の拡大に加えて、捕獲従事者の減少や高齢化による捕獲圧の低下、過疎化や高齢化等に伴う人間活動の低下などの複数の要因が複合的に関係しているとされる。鳥獣被害は営農等の意欲減退や耕作放棄地の増加等をもたらすなど、被害額として数字に現れる以上に農山漁村に大きな影響を与えている。


図表 野生鳥獣による農作物被害額の推移

鳥獣被害防止特措法(「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」)は、このような野生鳥獣による農作物等の被害を防止するための施策を推進し、もって農林水産業の発展と農山漁村地域の振興に寄与することを目的として制定された。成立は2007年12月(※2)だが、その後、対策の担い手(捕獲従事者)の確保と捕獲の一層の推進を図るために、2012年3月(※3)に一部改正法が成立した。


鳥獣被害防止特措法は、農林水産大臣が鳥獣保護法の基本方針(※4) と整合する被害防止施策の基本方針を策定した上で、市町村が作成する被害防止計画の実行に必要な支援措置を講じることとしている。


被害防止計画には、生物多様性の確保や希少鳥獣の保護に配慮した上で、農林水産業等に被害を与えている鳥獣等の種類を定めるとともに、鳥獣の捕獲予定等数や捕獲以外の取組み(防護柵の設置、追い払い活動、放任果樹の除去、緩衝帯の設置、地域住民への知識の普及など)、実施体制や捕獲した対象鳥獣の処理(埋設、焼却、肉等としての利活用など)等が記載されている。


支援措置には、1)都道府県に代わって、市町村が鳥獣の捕獲許可の権限を行使できること、2)特別交付税の拡充や補助事業による財政支援が講じられること、3)鳥獣被害対策実施隊の民間隊員を非常勤公務員とし、狩猟税(※5)の軽減措置を講じることなどがある。2013年4月末現在で、全市町村数のおよそ8割に相当する1,390の市町村が被害防止計画を作成(作成予定を含む)している。なお、2013年度の国による財政支援は、鳥獣被害防止総合対策交付金の95億円(※6)に加え、2012年度補正予算として鳥獣被害防止緊急捕獲等対策に約129億(※7)が充てられている。




(※1)北海道「平成24年度 水産業・漁村の動向等に関する年次報告書」

(※2)総務省法令情報検索サイト「鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律」

(※3)農林水産省鳥獣被害対策コーナー「鳥獣被害防止特措法の一部を改正する法律の概要」

(※4)「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」の下で環境大臣が定める基本方針のこと。

(※5)狩猟者の登録に対して課税される地方目的税。税額は狩猟免許(第一種銃猟、網猟、わな猟、第二種銃猟)により16,500円~5,500円。

(※6)農林水産省鳥獣被害対策コーナー「鳥獣被害防止総合対策交付金」

(※7)農林水産省「鳥獣被害防止緊急捕獲等対策」


(2013年8月20日掲載)

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