医療保険制度改革は急務ではないか?

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平成20年10月、「全国健康保険協会(協会けんぽ)」は従来の政府管掌健康保険事業(政管健保)を承継して新たにスタートした。7月15日、協会けんぽから昨年度半年間の決算が公表された。収入は4兆5,343億円(予算比715億円減)、うち保険料収入は3兆8,842億円(予算比688億円減)で景気悪化の影響で給与・賞与等が予算段階での水準を下回ったことが要因と思われる。支出は4兆5,669億円(予算比595億円増)となっており、主な内訳は、保険給付費が2兆4,941億円(予算比803億円増)、後期高齢者支援金等の拠出金等が1兆6,816億円(予算比169億円増)で、326億円の赤字となった。この結果、昨年度の単年度収支は、予算段階よりも1,310億円悪化した。スタート段階の保険料率は、政管健保の82‰と同水準で労使折半であるが、平均保険料率は早くも水準の引き上げの可能性が高くなってきた。協会けんぽの保険料率は、健康保険法上、スタートから1年以内に都道府県単位保険料率に移行することが規定されており、本年9月より都道府県ごとに平均保険料率との格差を設けることとなった。ただし、激変緩和措置を講じることにより、実際の乖離幅の1/10の格差に留めたため、都道府県単位にした本来の目的は希薄化した。


また、7月2日、国民健康保険中央会は、平成20年度の国保・後期高齢者医療費等の速報値を公表した。平成20年度の国民健康保険医療費は10兆6,650億円(対前年度比+1.8%増)、うち前期高齢者医療費は5兆970億円。また、後期高齢者医療費は11兆2,935億円(前年度比21.1%増:スタート時の特殊要因)。市町村国保の一人当たり医療費は年額278,848円で、もっとも高いのは広島県の341,078円、最も低いのは沖縄県の233,240円で両者の倍率は1.46倍。後期高齢者の一人当たり医療費は年額853,391円で、最も高いのは福岡県の1,081,244円、最も低いのは新潟県の702,778円で両者の倍率は1.54倍になっている。


市町村が運営している介護保険制度の介護費総額は7兆494億円(対前年度比4.3%増)で平成12年創設以来、初めて7兆円を超えた。


わが国の医療保険制度は、バラバラかつ複雑である。被用者が加入する協会けんぽは全国組織。後期高齢者医療制度は市町村広域連合。国民健康保険および介護保険は市町村単位。さらに、被用者の一部が加入する健康保険組合が1,484設立されている。そして、平成20年4月、制度間の医療費負担不均衡の調整のため前期高齢者医療制度が設けられた。医療保険制度の中で高齢者をはじめとする無職者が5割以上加入している国民健康保険制度は、その7割が赤字であり、市町村の大合併が行われたとはいえ、人口減少が進む市町村の財政基盤は脆弱である。国民健康保険の財政の安定化を図るため、保険財政共同安定化事業および高額医療費共同事業が実施されているが、市町村単位の保険料は平成20年度最大3.6倍の地域格差が生じ、所得の20%の保険料を負担している地域の加入者もいる。市町村単位での運営は今後一層困難が予想される。各都道府県の財政面、医療保険実務経験の人材不足を含めた運営面の問題等解決すべきことは多いが、早急に国民健康保険の運営を都道府県単位に再編すべきである。


さらに言えば、組合健保を除き、協会けんぽと国民健康保険は一体的に運営することが高齢社会へ向けての医療保険制度として望ましい姿なのではないだろうか?

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