マレーシアで見つけたおいしいもの-ハラルを活用した海外展開

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  • コーポレート・アドバイザリー部 コンサルタント 柄澤 悠

最近、「ハラル」という言葉を日本でもメディア等で耳にする機会が多くなった気がする。


国内では、今年7月からマレーシア人の日本への観光ビザが免除されたことでマレーシアからの観光客が増加したこともあり、ハラルに対応した食事、ホテル、礼拝室の用意などイスラム教徒の観光客向けの商品・サービスが増えてきている。海外では、日本通運がマレーシアで物流に関するハラル認証を2014年にも取得する見通しで、ユーグレナは、すでに進出しているバングラデシュやその他のイスラム教国において、栄養補助食品でハラル市場を開拓する計画があると報道されている。


ところで、ハラルとは何か。ハラルとは、イスラム法上で合法的なものや行為のことである。逆に、非合法なものをハラムもしくはノンハラルという。イスラム法上では、イスラム教徒が豚肉やアルコールを口にすることは禁止されており、食肉はイスラム教の戒律に従って処理されたものでないと食べられない。一度でも豚肉やアルコールに触れた食器は使用できないし、輸送や保管に関しても、ノンハラル製品との接触があってはいけない。また、食品だけでなく、医薬品、化粧品など、口にしたり肌に触れる製品にもハラル製品がある。これらの製品を含むハラル産業の市場規模は、世界全体で約2.1兆ドルにのぼるといわれている(マレーシア第3次工業化マスタープラン)。


避けるべきものが定められているイスラム教徒が安心して製品を購入するために、ハラル認証がある。認証を受ける製品は、ハラルと認められる原材料を使用し、適切な手順で処理・製造されることが求められる。認証取得後も定期的な検査を受けなくてはならない。ハラルと表示していながらノンハラルであると判明した場合には罰せられ、罰金もしくは禁固刑を受けることになる。さらに認証を取得するには、GMPやHACCPなどの国際基準を満たすことが求められている。ハラル認証は、製品がイスラム教徒にとって安心、安全と示すだけでなく、全ての消費者にとって高品質で世界基準を満たしたものであることを証明している。


そこで、筆者が今夏に訪れたマレーシアに注目してみる。イスラム教徒が全人口の約6割を占めているマレーシアでは、唯一、政府のハラル認証機関(JAKIM)がハラル認証を発行している。マレーシアのハラル認証制度はサウジアラビアに次いで世界で2番目に厳しいといわれており、マレーシアのハラルロゴは世界的にも広く認識され、イスラム教徒から厚い信頼を得ている。政府はハラル認証を義務化していない。しかし、企業は認証を取得・表示することで差別化が図られ、イスラム教徒をターゲットとした消費者市場でのプレゼンスが高まる。外資の大手食品・外食企業なども、マレーシアでハラル認証を取得し、製品や店舗にハラルロゴを表示している。

図表1:マレーシアのハラルロゴと使用例(マンゴーグミ)

マレーシアでは日本製品は高品質と信頼されており、人気もある。ハラル産業開発公社(HDC)は、食品に限らず、医薬品や化粧品などの分野においても、日本の高付加価値製品のマレーシア進出や認証取得を期待している。すでに進出している日系企業によると、日系企業の要求水準に見合う香料や添加物は、依然として国外の認証メーカー(※1)などから輸入しているとの声も聞かれた。


現在、イスラム教徒の人口は約16億人で、世界の人口の4分の1を占めている。イスラム諸国は近年高い経済成長をとげており、約2.1兆ドルのハラル市場も今後さらに拡大することが予想される。その中にあってマレーシアは、人口2億人を抱える世界最大のイスラム教国のインドネシアを隣国とし、中東などイスラム教大国へのアクセスも良い。国内にはHDCが要件を定めたハラル産業に特化した工業団地があり、外資企業の進出や認証取得に関するサポートも手厚い。また、英語でコミュニケーションがとれ、インフラや住環境が整っていることもあり、外資企業にとって進出しやすい国といえる。国内市場だけでなく、世界のハラル市場への輸出拠点や進出の足掛かりとして、マレーシアのハラル産業は期待ができそうだ。

図表2:イスラム教徒の分布(2010年)

(※1)マレーシア政府は同国をグローバル・ハラル・ハブに発展させていくことを目指しており、首相府の傘下にハラル産業開発公社(HDC)を設置し、ハラル産業の振興を推進している。また、マレーシア政府では49ヵ国の75機関をハラル認証機関として認定しており、そのうち、日本でも2機関が認定されている。ハラル基準を世界で統一しようとの動きはあるが、イスラム教には多数の宗派があるために困難となっている。その代わりに、各国・各機関の認証を相互承認して利便性を図っている。

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