DIR30年プロジェクト「超高齢日本の30年展望」

大和総研プロジェクト

サマリー

  • 持続可能な社会保障システムを目指し挑戦する日本—未来への責任
    日本の長期的課題を調査研究する「DIR30年プロジェクト」

2013年以降、日本経済には良いムードが広がってきましたが、超高齢化を突き進む日本が最終的に目指すべきは、骨太な日本経済の再構築です。そのためには、社会保障制度改革へ向けた議論も避けることはできません。こうした問題意識のもと、民間シンクタンクの立場から提言的要素を含めた情報発信を行うべく、大和総研では理事長監修の下、日本の長期的課題を調査研究する「DIR30年プロジェクト」を2010年から進めています。2013年に発表したレポートの内容は大きく二部構成となっており、第Ⅰ部では世界経済が構造的に変化する中での日本の長期的な成長力や、賃金・物価・金利などについての見通し、また、未曽有の少子高齢化によって経常収支の黒字を維持しうるのかなどについて、先行き30年間の世界経済と日本経済を展望しています。それを踏まえて、第Ⅱ部では持続可能な超高齢社会を実現するために社会保障と財政についてどのような改革を急ぐべきであるのか、シミュレーションを交えて具体的な議論を行っています。

先行き30年間の日本経済

少子高齢化がいっそう進む日本では、他の先進国には見られない女性のM字カーブがいまだに残っているという問題を解消する必要があります。もちろん、高年齢者の労働力率も向上させて、活力ある高齢社会を実現することも求められます。また、安定的な電力供給の必要性に鑑みると、再生可能エネルギーの普及促進などエネルギーの多様化を推進しつつ、拙速ではない減・原発シナリオの採用が現実的でしょう。さらに成長戦略においては、貿易だけでなく投資や人材を含めた海外との相互関係強化がグローバル化の中では重要です。市場メカニズムを活かせるような制度作りが政府の役割であり、市場と政府は補完し合う関係にあると考えられます。そうした前提にたって日本経済を長期に展望すると、実質GDP成長率は2010年代1.5%、2020年代1.5%、2030年代1.0%と見込まれます。先行き約30年間を均すと、名目賃金は2.5%程度、消費者物価は1.5%程度で上昇するでしょう。経常収支対GDP比は、2010年代1.3%、2020年代0.7%、2030年代▲0.2%と予想されます。

持続可能な超高齢社会を実現するための社会保障と財政の改革

超高齢化の中においても日本は成長を続けることが可能です。ただ、それを阻む大きな問題は社会保障と財政の持続性が欠如していることです。政府の社会保障給付費は、2020年代は高水準かつ横ばいで推移し、2030年代になると第2次ベビーブーム世代の高年齢化によって再び増加すると見込まれます。潤沢な高齢者向け給付を続ければ、実質的な財政破綻を招くと見込まれます。社会保障と財政のシステム破綻を回避するには、2020年代のうちに超高齢社会に相応しい制度を構築する必要があるでしょう。DIR30年プロジェクトは、マクロ経済との相互作用を考慮したシミュレーションを行い、年金や医療保険の制度改革、成長戦略の展開、国民負担増を組み合わせた「改革シナリオ」を提案します。破綻を回避するためにどのような改革が必要なのか、具体的な数値を示しつつ明らかにします。ただ、破綻を回避する改革シナリオでも政府の基礎的財政収支を構造的に黒字化させることは難しく、それほど高齢化問題は厳しい課題です。政府からの給付を抑制せざるを得ないとすれば、年金や医療・介護の分野に、民間部門の知恵と活力を導入し、人々が直面する様々なリスクを官民双方でコントロールしていく努力が不可欠でしょう。それは新しい民間ビジネスでもあり、政府の役割はマイナンバー制度や自助努力を促す税制等の整備と活用へシフトするものと考えられます。改革シナリオの延長線上ではない、債務残高GDP比が低下する状況を実現するには何が必要かを逆算した「超改革シナリオ」の発想もDIR30年プロジェクトは提示します。

持続可能な社会保障システムを目指し挑戦する日本—未来への責任

2017年には、消費税率10%への引上げを凍結することを主張した政党ではなく、予定通り2019年10月に引き上げるとした現在の与党が総選挙で勝利しました。ただ、2020年度までに政府の基礎的財政収支を黒字化させるという目標は先送りされ、政府は基礎的財政収支黒字化の達成時期やその裏付けとなる具体的かつ実効性の高い計画を2018年の「骨太の方針」で示すと述べています。グローバル経済だけでなく国内経済にも明るさがみられてきた現在は、先送りされがちな構造改革を前進させる好機です。こうした中、DIR30年プロジェクトが、政策議論を深めることに多少なりとも貢献できるとしたら大きな喜びです。引き続き中長期的な課題に対する政策提言活動を進めてまいります。

実質GDP成長率の比較と国・地方政府の基礎的財政収支

レポート

目次

第Ⅰ部 今後30年間の世界経済と日本経済

第Ⅱ部 持続可能な超高齢社会を実現するための社会保障と財政の改革

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