第218回日本経済予測を発表

経済正常化後の日本の課題とは?①インフレ定着、②労働供給強化、③海外リスク、を検証

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2023年08月21日

改訂レポートのお知らせ

第218回日本経済予測は、2023年9月8日に第218回日本経済予測(改訂版)を発表しております。


  1. 実質GDP成長率見通し:23年度+1.5%、24年度+1.2%:本予測のメインシナリオにおける実質GDP成長率は23年度+1.5%、24年度+1.2%(暦年ベースでは23年+1.3%、24年+1.4%)と見込む。経済活動の正常化や春闘での大幅な賃上げ、緩和的な財政・金融政策などが景気を下支えし、世界経済が減速する中でも日本経済の回復が続くとみている。約8兆円の回復余地があるサービス消費や、中国人訪日客の本格回復で23暦年に約3兆円増加するとみられるインバウンド消費、半導体不足の解消による1.7兆円の乗用車の繰越需要の発現などを見込む。日本経済の下振れリスクは主に海外にあり、中でも銀行不安が高まった米国の当面の経済動向には注意が必要だ。
  2. 論点①:「賃金と物価の好循環」の進捗と今後の展望:名目賃金と物価の相互作用の度合いは、デフレ局面から大きく変化した。両者の非線形的な関係を考慮した推計に基づけば、基調的なインフレ率は25年度にも2%に達する可能性がある。転職市場の活性化などにより賃金上昇圧力が一段と強まれば、日銀の物価安定目標の達成時期は早まるとみられる。ただし、金融政策の引き締めが遅れた場合の悪影響が一段と大きくなるリスクには留意が必要だ。また、名目賃金と物価の相互作用が強まっても、実質賃金が増加するとは限らない。実質賃金を要因分解し他国と比較すると、交易条件の伸び悩みが顕著である。こうした課題を解決した上で好循環が定着し、論点②で議論する労働生産性の上昇などが実現すれば、名目賃金の上昇率は3%程度まで高まる余地がある。
  3. 論点②:労働供給の質と量をどこまで引き上げられるか:日本経済が中長期的に一定の活力を維持していくためには、生産性の向上や就労調整の解消を通じた供給力の強化が重要となる。生産性の高い企業への労働者の分布が米国並みになることや、企業や個人の人的資本投資が米国並みに活性化することで、経済全体でも生産性の更なる向上が見込める。年金改革で第3号被保険者制度の見直しや働き方に中立な制度の導入により「収入の壁」の解消が実現し、また不本意非正規やL字カーブの解消も進めば、労働投入量が増加することも期待できよう。これらの政策効果が発現すれば、中長期的には、潜在GDPが最大12%程度押し上げられる可能性がある。
  4. 論点③:グローバルリスクをどうみるか:世界経済の先行きについては、米国では、ソフトランディングへの期待が高まっているが、欧州においては、依然として高インフレに対する警戒感が根強い。一方、ロックダウン解除からの景気加速が期待された中国は、市場予想を下回り、回復には息切れの様相も見られる。このように世界経済の方向感が定まらない中、短期・中長期の景気循環を通じて見通すと、当面は緩やかな景気回復が想定されるものの、さまざまなリスクが払拭されないことから、不確実性が残るとみられる。リスクの1つが、米国と中国との間で厳しさが増す貿易摩擦の行方であり、中国と世界の貿易が完全に停止した場合、日本や欧州は実質GDPの約1割、米国は5%弱、中国は約2割落ち込む可能性がある。
  5. 日銀の政策:当社の見通しでは基調的なインフレ率は予測期間中に2%に届かない。このため、メインシナリオでは日銀は現在の金融緩和策の枠組みを維持するとみている。ただし、インフレ率がメインシナリオを上回って推移した場合、2024年度前半にもYCCが撤廃される可能性がある。

【主な前提条件】
(1)名目公共投資:23年度+5.7%、24年度+1.5%
(2)為替レート:23年度143.2円/㌦、24年度145.8円/㌦
(3)原油価格(WTI):23年度78.4ドル/バレル、24年度80.4ドル/バレル
(4)米国実質GDP成長率(暦年):23年+2.0%、24年+0.8%