⼤和総研のデータサイエンティストが伴⾛し、学生に個別最適な学修アドバイスを実現するデータ分析基盤を構築
東京理科大学様
大和総研では社内横断組織の「総研ラボ」を設立し、データサイエンス業務やAI開発の中核を担う人材育成に取り組んでいる。ビジネスパーソンとしてのスキルも兼ね備えたスペシャリストが活躍の場を広げている。その1つが今回ご紹介する東京理科大学のプロジェクトだ。
東京理科大学は、前身である「東京物理学講習所」が創設された1881年(明治14年)から数え、2022年時点で開校141年目を迎えた。現在も、7学部、33学科、7研究科、30専攻を有する、日本国内における屈指の理工系総合大学である。
同⼤学では、新型コロナウイルス感染拡大への対応としていち早くオンライン授業を開始するなど、ICTを活用した教育環境の整備を進めるとともに、デジタルを活用した新しい教育手法の開発にも取り組んでいる。本案件では、学生が複眼的で柔軟な思考力と多様性を育めるよう、学生の能力を一つの物差しで測るのではなく、学生一人ひとりの個性や適性を見いだすことを目的として、学生の成績や出席状況、将来の進路希望などさまざまな教学データを集め、総合的に検証してフィードバックすることを目指している。
⼤和総研はこの取り組みにおいて、学内に散在する教学データを集約するデータ分析基盤を構築するとともに、データサイエンティストが分析モデルの開発を全⾯的にサポート。東京理科大学の担当者や先生と共に伴走型でプロジェクトを推進し、初期バージョンの分析モデルをリリースした。今後も分析対象とする教学データや分析観点の追加を継続的にサポートし、個別最適な学修アドバイスの拡充による学生のパフォーマンス向上に貢献する。
「データを学生に還元する」という今までになかったゴールを目指して
井手本様本学では、社会的な課題が複雑化しているこの時代においても、社会を牽引し、様々な問題解決に果敢に挑戦し、未来を拓いていく人材を輩出していくポリシーがございます。そこで中期的に注力したい施策は主に3つ——(1)イノベーション力を高めるために新実力主義教育プログラムを確立すること、(2)学びの質的転換を達成するための教育DXの推進をすること、(3)データサイエンスの応用展開を牽引するような人材を育成すること——です。
特にDX化推進については、具体的に、AIを活用した個別最適化による自律学修システム、最先端のデジタル技術を活用した効果的な教授法の確立、学修到達度測定Webテストの整備などに、取り組んでおります。
渡辺様これまでも、保有するデータを授業改善や大学の評価に活用することはありました。一方、このプロジェクトでは、データを活用した恩恵を、どうすれば学生自身に還元できるのか、と考えているのが大きな違いです。
保有するデータの個別最適化を目指しつつ、教育支援に活用するためには、クリアすべき課題は2点ありました。1つは、データを一元管理しつつ、適切なクリーニングを行えるシステムを構築すること。もう1つは、どうやって学生一人一人へ還元できるようにするか、ということでした。
パブリッククラウド活用による早期立ち上げとデータサイエンティストの伴走による分析目的の達成をご提案
井手本様2021年に、文部科学省が「デジタルを活用した大学・高等教育高度化プラン(Plus-DX)」という補助金事業をスタートしました。これに応募しない手はないだろうと考えまして、各方面に助力を頂きながら、短期間で企画立案を行いました。そういう事情で、次年度には形にしなくてはならない状況でした。
渡辺様取り組み自体は、2021年の1月頃からスタートしました。当時は青写真を描いたのみで、本学として実現したいことをイメージしていた状態でした。その後、コンペを経て、大和総研にお願いすることになりました。
内山学⽣ひとり⼀⼈の状況に応じた個別最適なフィードバックという目的を達成するため、プロジェクト期間全体を通して当社の経験豊富なデータサイエンティストが東京理科大学のご担当者と伴⾛することをご提案の⼟台としました。また、⽂部科学省補助⾦事業として定められた期間・コストの中で成果を出すため、パブリッククラウドを最⼤限活⽤し、短期間でデータ分析をスモールスタートする計画としました。
データ分析基盤の機能面では、学内各所から収集されるデータの品質を確保するためのクリーニング機能や、学内DX推進に伴い今後も増加が見込まれる新しいデータソースを追加で取り込むための機能、運用フェーズでの再学習を自動化するためのMLOps機能など、学生に対するフィードバックを継続的にアップグレードすることに重点をおいてご提案しました。また、その設計を担う優秀なクラウドスペシャリストのアサインを手配しました。
さらに、学⽣の成績情報や経歴など機微情報を扱う必要があるため、パブリッククラウドへのネットワーク接続の閉域化や粒度の細かいアクセスコントロールなど、強固なセキュリティを実現するシステム構成をご提案しました。
アジャイル型の分析サイクルをデータサイエンティストがリード
松田様今回のシステム構築は、短期間で迅速に構築する必要がありました。そのため、ウォーターフォール型のシステム設計・構築作業は向いておらず、クラウドサービスの活用をご提案してくださった大和総研にお願いすることになりました。
学修支援システムや、データウェアハウス、データレイクなどを構築するうえでは、学内の複数システムのデータを集約させる必要がありました。どのデータをどこに持ってくるべきかを検討するうえで、システム開発のパートナーとの深いコミュニケーションは欠かせないとも考えていました。
そのため、単にシステム構築が行えるだけではなくて、データサイエンティストとしての視点を持って、私達に提案をしてくれるようなパートナーさんを求めていたのです。また、大和総研は、教育業界だけではなく、銀行や証券など、様々な分野での知識と経験をお持ちでしたので、新しい視点での提案もしてくれるだろうという期待もありました。
ちなみに、大和総研にお願いするようになったのが、2021年の5月頃から。たとえば要件定義については、事務方と大和総研のご担当者が週に1回集まって、1時間程度の打ち合わせを行なっておりました。先生方を含めた大規模な打ち合わせは、半期に3回程度行なっておりました。
システムの理解や、システムの性能の引き出し方に時間を浪費するのではなく、モデルを考えることや、目的の実現のためにどうデータを分析していけばよいか、という本質的な部分に時間をかけられたのが、良かったと思っています。
今回は通常のITエンジニアが来てくれるというアプローチではありませんでした。大和総研から「データサイエンティスト」と呼ばれる専門家が来てくださって、東京理科大側の研究者と足並みを揃えて、目的の実現を共に検討できたのです。その点を十分に引き出すために、Google Cloudの機能を活用することを、大和総研が提案してくださり、引っ張ってくれた。だからこそ私達も安心して取り組むことができ、無事に期間内にシステムを構築できたのです。
もちろん、クラウドサービスを使った体制は、従来のシステム構築と違って、構築して終わりという形にはなりません。残っている課題の解決については、今後も大和総研のデータサイエンティストの方にご支援いただきながら取り組んでいきます。
山本プロジェクト開始当初、データ分析プロセスを確実かつ効果的に前進させるためには、まずビジネス上の目標を明確にしメンバー間で合意することが必要であるとお伝えしました。ビジネス目標にフォーカスすることにより、たとえば、有識者の勘や感覚を頼りに実施してきた業務を⾃動化すべきなのか、データの「⾒える化」により⼈間の気づきを支援することにより次のアクションのヒントを⾒つけたいのか、データ分析で注力すべきポイントが明らかになります。本プロジェクトでは、学⽣が⾃らパフォーマンス向上のアクションに踏み出すための「個別最適なフィードバック」を⽬標と定め、収集・⼀元化したデータの可視化によって介⼊ポイントを明らかにすることに集中しました。
プロジェクト運営面では、進化し続けるフィードバックシステムとするため、いきなり最終的に⽬標とする分析モデル開発を⽬指すのではなく、初期段階は⼊念なデータ分析を繰り返し、基礎的な知見を獲得することに注力しました。その中で、定型的な分析はGoogle CloudのVertex AIに任せ、我々データサイエンティストは有識者からの聞き取りや、聞き取り内容の分析への織り込み、分析結果の考察に注⼒することで、短期間で複数回の分析サイクルを回すことを実現しました。弊社に在籍するデータサイエンティストに、金融はじめ他業界での分析事例や知見に基づく意⾒を求めながら検討できたことも、学生のパフォーマンス分析を深める上で非常に有効であったと感じています。
東京理科⼤学様のビジョンである「個別最適なフィードバックによる学⽣ひとり⼀⼈のパフォーマンス向上」には大きなポテンシャルを秘めていると思います。今後も継続的なデータ分析のご支援を通じて、その具現化に貢献してまいります。
スピーディなデータ分析を支えたデータ分析基盤の構築ノウハウ
末安今回のデータ分析基盤は、先進的なデータ分析サービスを備えるGoogle Cloudを活用して短期間で構築しました。
生データを収集して格納するデータレイクに「Cloud Storage」、データウエアハウスに「BigQuery」、機械学習に「Vertex AI」を利用しています。⾃動的にデータ種別をカテゴライズしたり、⽋損値を検知したりすることができる「AutoML」機能を活⽤しながら、素早くデータ分析を⾏う仕組みを構築しました。
また、「BigQuery」へのデータ取り込み部分は、設定ファイルを追記することで容易に新規データの取り込みできる構成としています。今後のデータ分析ニーズにスピーディに対応できることにこだわりました。
井手本様システムは昨年からすでに動き出しています。2022年の1年生は、数学の共通Webテストを行っていて、その結果が4月から稼働しているシステムに反映されています。
渡辺様まずは、複数のシステムが連携して、無事に稼働して良かったという段階です。どのように学修支援に活かしていくのかという部分には、これから取り組んでいきます。
データサイエンティストと共により実用性の高いシステムへ
渡辺様一般的な「学修支援」は、「できない子をどうしよう」という方向に向きがちです。しかし、新実力主義を謳う本学としては、「できる子をどう伸ばそう」と考えます。“優れた学生”はこうやって卒業していった、というデータがあるわけです。仮に「優れた学生」を、GPA(Grade Point Average)で上位10%以内に入っている学生と定義して、その“優れた学生”像に対して、個々の学生を照らし合わせることで、伸ばすべきポイントを探っていきたい。たとえば、年次ごとに適切な支援を行えるはずだ、と思っています。
DX化というのは、単にデジタル化ではないと認識しています。デジタルな手法を活用することで、質的な転換を図っていくことだと思います。教育活動の効果を担保しながら、効率を上げていく。あるいは、教員の教育能力や研究能力を最大限引き出すといった視点で、どのような支援ができるか、を考えていかなくてはなりません。
松田様本学のIT活用において、一番大事に考えているのは、“変化に対応できるスピード感”を持つことです。そういった意味では、そういった環境づくりに必要なGoogle Cloudのツール群を頼りにしていますし、大和総研にも引き続き、システム構築やデータ分析に関する知見をいただきたい。また、今後もデータサイエンティストの方々と協力して、より実用性の高い良いシステムへと進化させていけることを期待しています。そのうえで、時代や環境の変化に追従できるような、ITに強い東京理科大の姿を目指していきたいと思います。
※部署名・役職名などはインタビュー当時のものです。
Cloud Storage、BigQuery、Vertex AIおよび、AutoMLは Google LLC の商標です。
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担当営業より
大和総研では、デジタル化社会をリードするデータサイエンティストの育成に力を入れています。AI・データ分析の豊富なノウハウと実績を保有するデータサイエンティストが80名以上(2022年7月時点)在籍しております。
本案件で目指した「学生ひとり一人への個別最適な学修アドバイス」は、大学だけでなく、学習塾、人材育成サービス、オンライン教育サービスといった分野にも幅広く応用が可能です。データ分析基盤の構築から、AIモデルの構築、業務プロセスへの組込みまで、企業価値の向上に寄与するデータ利活⽤を⼤和総研がお⼿伝いいたします。
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(担当:事業ITコンサルティング部 網本 連絡先:03-6365-6002)