大和総研の先進AI技術で実現した 全社員の業務効率を高める文脈理解型ナレッジ検索プラットフォーム

三菱UFJニコス株式会社様

三菱UFJフィナンシャル・グループのクレジットカード事業を担う三菱UFJニコス株式会社(以下「三菱UFJニコス」)は、社内に膨大に蓄積されたドキュメントの検索性や業務効率化に課題を抱えていた。

こうした現場の悩みを解決すべく、大和総研と共同で生成AIを活用した社内文書検索ソリューション「IntelligentSeek」の開発プロジェクトが始動。IntelligentSeekは、文脈を理解して適切な回答を提供する高精度検索システムで、独自の文書解析技術により90%超の回答精度を実現している。

現場起点のユースケースやフィードバックをもとに、技術面・業務面双方で試行錯誤を重ねながら、全社員が使える業務支援AIとして進化中。今回は両社のキーマンによる対談を通じて、開発の背景、プロジェクトの舞台裏、導入効果から今後の展望までを追う。

導入ソリューション紹介

お客様の課題

膨大なマニュアルと低い検索性が全社的な業務効率の課題に

三菱UFJニコスでは、社内ポータルに膨大なドキュメントが蓄積されていたが、検索性の低さから必要な情報にたどり着くまでに多くの時間を要していた。クレジットカード業務特有の数千冊に及ぶマニュアルや、人事関連の手続き情報など、様々なドキュメントを日常的に参照する必要があり、全社的な業務効率の課題となっていた。従来の検索システムは単純なキーワードマッチングにとどまり、文脈を理解した情報検索の実現が求められていた。

三菱UFJニコス株式会社
デジタル企画部
デジタル企画グループ 次長
白滝 亘様

「導入に至る課題は大きく『業務面』と『技術面』の二つがありました。業務面では、社内ポータルに様々なドキュメントが格納されているのですが、検索性が悪く、必要な情報を探すのに10分、20分と平気でかかってしまう状況でした。

さらに、ドキュメントが見つかっても、100ページ、200ページあるファイルの中から該当箇所を探すのも大変で、全社員がこの問題を抱えていました。」(白滝様)

三菱UFJニコス株式会社
デジタル企画部
デジタル企画グループ
道家 瑛未様

「クレジットカード発行業務や加盟店管理など、専門性が求められる業務を正確に行う必要があり、マニュアルは数千冊規模で存在していました。新入社員の教育はもちろん、ベテラン社員でも他部署の業務確認やイレギュラー対応時など、日常的にマニュアルを調べる場面も多々ありました。

また、人事関連の手続きなども同様で、調べるのに時間がかかるだけでなく、引越しや育児休暇の取得、介護といったライフイベントに合わせた各種照会で人事部への問い合わせも発生し、双方に負荷がかかっていました。」(道家様)

三菱UFJニコス株式会社
国際ブランド部
国際ブランド業務グループ 次長
呉 氷様

「社内ポータルでは最初の頃はマニュアルのヘッダーでしか検索できませんでした。

後にテキスト検索も可能になりましたが、単なるテキスト検索では思った結果が得られません。中身を理解して検索してくれればいいなと思っていましたが、生成AIが出てくるまではそれは無理だろうとあきらめていました。」(呉様)

選定の経緯

自社開発の限界を超える大和総研との共同プロジェクト

社内で生成AIを活用した検索システムの自社開発にも挑戦したが、十分な精度が得られず、専門的な技術力を持つパートナーとの協業が必要と判断した。一方、大和総研でもChatGPTの登場を契機に生成AI技術の検証を進めており、両社の課題と技術が合致する形でプロジェクトが始動した。

「技術面では、2023年頃から自社のAzure環境で生成AIを使ったRAG(検索拡張生成)の仕組みを構築しようとトライしましたが、検索精度が20%程度と全く使い物にならないレベルでした。

専門的な技術力を持ち、データをしっかり理解できるパートナーと組む必要があると感じ、大和総研さんとの協業に至りました。」(白滝様)

株式会社大和総研
フロンティア研究開発センター
フェロー
プリンシパル・データサイエンティスト
坂本 博勝

「2023年10月から正式にプロジェクトが始まり、半年間の研究開発で技術検証を行い、その後半年ほどで業務システム開発に進みました。

生成AI技術の正体がまだ社会に明確に知られていない手探りの状況だったため、柔軟性や学習意欲の高い若いメンバーを多く投入し、様々なトライアルを実施しました。時間に対して作業量が大きいプロジェクトでしたが、『面白い』『やってやろう』という熱意をもって取り組めました。」(坂本)

「我々の方からも、2023年度上期に自前でPoC(概念実証)をやっていた経験から見えてきた課題や、ユースケースを最初にご提供しました。

開発が進んでからは、IntelligentSeekを作るだけでなく、社員に使い倒してもらうことが大きなゴールでしたので、実際に中途入社したばかりの方や異動したての方にヒアリングし、困りごとを集めました。

プロトタイプができてからは、ドキュメントを所管している人たちにも実際に触ってもらい、使い勝手や問い合わせ削減効果についての具体的な感想をフィードバックしました。」(道家様)

ソリューション

技術の試行錯誤と現場の期待値コントロールによる実用性の追求

プロジェクトでは、大和総研側で検索精度向上に向けた技術的な試行錯誤を重ねた。一方、三菱UFJニコス側では生成AIに対する正しい理解の促進と期待値の適切なコントロールに取り組んだ。技術と現場の双方からアプローチすることで、実用的な検索精度と使いやすさの両立を目指した。

株式会社大和総研
フロンティア研究開発センター
先端技術ビジネス部 次長
データサイエンティスト
金海 泰秀

「検索精度を高めるために苦労した点は少なくありません。クレジットカード業務特有の専門用語や略語の理解が課題で、同じ用語でも文脈によって意味が変わることがあります。

膨大な文章を満足できるレベルの精度で検索できる技術の組み合わせを探るため、実際にいただいたユースケースや質問パターンをもとに、様々な技術の調査と試行錯誤を繰り返しました。また、検索が外れた場合に対しては、利用者が次にどのような行動をとりたいか、などのインタビューを実施しました。」(金海)

「期待値のコントロールには特に気を使いました。

プロジェクト進行中の頃は生成AIが広まり始めた段階で、『ChatGPTを聞いたことがない』『聞いたことはあるが触ったことがない』という社員が大半。

リリース前の説明会では『ハルシネーション(事実に基づかない情報)』の説明や『必ず人の目で確認することが大事』といった注意点を伝え、リリース後もハンズオンで一緒に使い方を示すなど、AIを身近に感じてもらうための地道な取り組みを行いました。」(道家様)

ソリューションの成果

「意味チャンク」技術による90%超の回答精度と全社展開の実現

開発された「IntelligentSeek」は、独自の高精度検索技術によって従来の課題を解決。大和総研側の技術的な強みと三菱UFJニコス側での実際の効果が、プロジェクトの成功を証明している。

「IntelligentSeekの最大の強みは『チャンキング技術』です。マニュアルは100ページを超えることも多いですが、質問に対して該当するのは数ページだけです。文脈や意味が変わるところで適切に文書を切り取り、生成AIに渡す技術を我々は『意味チャンク』と呼んでいます。

これが回答精度90%超を実現した最大の理由であり、メガベンダーでもまだ提供できていない技術です。」(坂本)

「自分たちが目標とする検索精度、検索性の高さを実現できたことが大きな成果です。

AIなので毎回100%というわけにはいかず、高い精度でも一部は思った答えが得られない場面があります。そこで、利用者に実施したインタビューを基に、検索が外れても最終的に求めている情報にたどり着けるようなUX/UI面の工夫を加えました。これにより、ユーザーが期待するレベルの検索体験を提供できています。」(金海)

「2024年2月に全社へリリースし、継続的に月間30〜40%の利用率を維持しています。

3カ月で約35,000回の検索が行われ、ハンズオン研修には約2,000人が参加しました。これまで何十分もかけて探していた情報が短時間で見つかるようになり、部署間のたらい回しも解消されています。」(道家様)

「全社員向けに広くカバーできている点が大きな意義です。

AIに興味がある一部の人だけでなく、全社員が情報検索性の高さというメリットを享受できています。当社にとって業務効率化と業務量削減は全社的な重要課題であり、情報検索業務の基礎レベルを引き上げられたことは、全社的な競争力向上にも繋がっていると考えています。」(白滝様)

ソリューションの拡大

「TRIBE」で英語マニュアルの壁を突破、国際ブランド業務の効率化へ

IntelligentSeekの成功を受け、さらなる業務効率化を目指して「TRIBE」と呼ばれる発展プロジェクトが進行中である。IntelligentSeekをベースとしたサブシステムとして、国際ブランド部の業務特有の課題に対応するため、英語ドキュメントの日本語検索・回答を可能にする機能が実装された。

株式会社大和総研
プロダクトソリューション部
次長
データサイエンティスト
岩田 俊介

「国際ブランド業務で取り扱うマニュアルは、VisaやMastercardから発行される英語のドキュメントで、1,000ページを超えるものも珍しくありません。

単に量が多いだけでなく英語で書かれているという二重の難しさがありました。そこで、英語ドキュメントに対応しながらも日本語での質問・回答を可能にする仕組みを構築しました。」(岩田)

「国際ブランド部では、VisaやMastercardのライセンス申請や手数料支払いなど、国際ブランドに関わる業務全般を担当しています。

現状の課題は専門的な金融用語や国際ブランド特有の表現の意味を理解することです。マニュアルには3文字4文字の略語が非常に多く、専門用語の理解が難しいです。これらはいわゆる一般的なChatGPTでは対応できない専門用語なので、マニュアルから検索できるシステムは非常に有用です。」(呉様)

TRIBEでは翻訳技術と専門用語辞書の充実により、英語マニュアルの壁を越える取り組みが進められている。単なる検索機能だけでなく、業務プロセス全体の効率化も視野に入れた開発が行われている。

「DeepLなどの翻訳サービスも活用しながら、専門用語の適切な変換ルールを設定し、英語ドキュメントからの精度高い検索を実現しています。国際ブランド業務を深く理解しながら、ニーズに合わせたバージョンアップを進めています。」(岩田)

「現状の課題は専門的な金融用語や国際ブランド特有の表現の意味を理解することです。

今後は週次レターやアナウンスメントの検索対応、複雑な手数料の分析など業務範囲の拡大を期待しています。これにより属人化を防ぎ、業務効率が大きく向上すると考えています。

ちなみに、TRIBEは『TRanslation  for International Brand Employees』の略称です。
国際ブランド部のみに留まらず、ブランド関連業務に関わる全社内部署に利用を拡大することでより大きな効果に繋がると考えています。」(呉様)

今後の展望

検索から業務支援へ、進化し続けるAI活用の未来像

IntelligentSeekの成功、そしてTRIBEプロジェクトの進行も踏まえ、両社はさらなる活用範囲の拡大と機能強化を目指している。生成AI技術の急速な進化を取り込みながら、業務効率化と競争力強化に向けた取り組みを継続していく方針だ。

「生成AIは競争力を高め、業務効率化を実現する極めて有用なツールだと考えています。

技術の進展が非常に速いので、我々ユーザーとしては各ツールの強みと弱みを見極め、最適なものを選択していく情報の目利きが重要です。今回はIntelligentSeekを大和総研の皆様と一緒に取り組んでいますが、今後も協業を深めながら発展させていきたいと思います。

IntelligentSeekについては、まだスタートを切ったばかりの段階で、今後はデータと機能の両面で拡大していきます。対象業務やユースケースを広げてデータ量を増やし、ユーザーが調べられる情報を充実させていきたい。

また機能面では、情報検索だけでなく、検索後の情報整理や入力作業など後続の工程も支援できるよう、より社員の生産性向上に資するサービスに育てていきたいと考えています。」(白滝様)

「大和総研としては、企業のビジネス要望に応えられるよう技術力を示していくことが重要だと思います。『何をどうしたいか、無茶でもいいから教えてください』という姿勢で、最適な技術の組み合わせを提案していきます。

例えば最近話題のAIエージェント技術は、複雑な処理を簡単に作れる一面もありますが、まだ誤判断のリスクも大きく、誤りが許されない業務では注意が必要です。技術の『正体』を正確に説明し、それぞれの技術の特性に合わせた最適な活用方法を提案することで、IntelligentSeekとTRIBEをさらに発展させていきたいと考えています。」(坂本)

大和総研と三菱UFJニコスは、今後も生成AI技術の最新動向を取り入れながら、業務効率化と高度化に向けた取り組みを推進していく。IntelligentSeekを基盤としたナレッジ共有の強化と、TRIBEによる多言語対応の拡充を通じて、より効果的な業務支援の実現を目指している。

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