フィリピンにおける慢性腎臓病患者の食事療法用低たんぱく米導入のための普及・実証事業

  • 地域:フィリピン

  • テーマ:官民連携

本件は独立行政法人国際協力機構(以下「JICA」)の中小企業海外展開支援「普及・実証事業」として2014年度公示案件に採択され、事業期間は2016年1月から2017年12月までの約2年間であった。事業は、慢性腎臓病(以下「CKD」)患者が急増しているフィリピンで、新潟県阿賀野市のバイオテックジャパン社(以下「BTJ」)の持つ米の低たんぱく化技術を国立フィリピン稲研究所(以下「PhilRice」)に移転し、現地米を活用した低たんぱく米の製造を行うと共に、フィリピンのCKD医療関係者、CKD患者に対する低たんぱく米を利用した食事療法の認知度向上と低たんぱく米の普及を目的として実施された。

フィリピンでは、CKDの悪化による透析患者増加による将来の国の医療費負担増大が懸念されている。CKDの進行を食い止めるには、たんぱく質の摂取を制限(※1)した食事療法が有効とされ、遵守できればその患者の多くは日常生活に支障ないとされ日本等では普及しているが、フィリピンでは食事療法の普及はこれからである。また、フィリピンは米の一人当たり消費量が日本の2.7倍と多く、食事療法による患者の生活の質(以下「QOL」)向上のために、低たんぱく米が有効とされるが、現地では製造されていなかった。米を乳酸菌で低たんぱく化する技術を保有するBTJは、フィリピンを拠点に、CKD患者が増加するアジアの市場をターゲットとして低たんぱく米の海外展開を図る計画を持っており、JICA事業に応募、採択された。事業実施期間は2年間(2016年1月~2017年12月)であった。

本事業において、BTJはPhilRiceへ低たんぱく米製造装置を設置、製造技術の移転を行い、現地米の品種選定を行い、低たんぱく米を製造した。外部委託先である国立食品栄養研究所と協働で、フィリピン初となる本格的なCKD患者向け食事療法ガイドブック、低たんぱく食レシピブックを作成した。そして、現地病院にて、これらガイドブック、レシピブックを利用した医師、栄養士、CKD患者とのワークショップを開催、食事療法への理解を深めるとともに、CKD患者へ低たんぱく米の提供を行い、アンケート試験を実施、CKD患者のQOL向上の確認を行い、現地の嗜好に合わせた製品を開発した。事業は、成功裏に終了し、BTJは「普及・実証事業」採択決定後、事業開始前に社長の陣頭指揮で現地法人を設立、フィリピンの稲品種による低たんぱく米の製造販売を開始するとともに、多くのCKD医療関係機関と受入研修を通じ緊密な関係を構築し、フィリピンの食事療法普及に貢献した。大和総研は、BTJ社の外部コンサルタントとして、提案書作成、JICAやカウンターパートとの契約締結、現地業務、受入研修、報告書作成の支援を行った。

出所:大和総研撮影

(※1)病状の進行度によりたんぱく質の摂取は25~70g/日に制限される。たんぱく質は、肉魚で100g(20cmの皿に1切れ)に20g前後、ごはん100g(茶碗軽く1杯)にも約2.5g、含まれており(出所:文部科学省「日本食品標準成分表」による)、肉や魚の摂取を増やせば、ごはんが制限され、カロリー不足となる。これまでは、必要エネルギー量の確保と良質タンパク質の制限を同時に満足させる献立が少なかったが、BTJの製品(低たんぱく米---たんぱく量数分の一から数十分の一)はこの課題解決のために開発され、日本のCKD患者への食事療法の普及に貢献している。