フィリピン国地産地消型バイオディーゼル生産システム普及のための案件化調査
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地域:フィリピン
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テーマ:官民連携
水質汚染と大気汚染に悩むフィリピンの地方都市で、廃食油利用型バイオディーゼル精製機器を試験導入し、高効率の精製機器の利用、廃食油の安定供給及び販売先の確保を組み合わせた持続性のある地産地消型のBDF生産システムの構築可能性を調査する。
本件は国際協力機構(以下JICA)の中小企業海外展開支援事業「案件化調査」として2014年12月に採択され、2015年1月~4月にフィリピンにて4回の現地調査を実施、同年9月に調査結果の総括、ODA事業化提案及び事業化計画を提出して終了した。本件は三重県津市に本社を置く運送業の株式会社キャリアカーサービス(以下CCS社)がJICAから受託したもので、当社はCCS社に対する外部人材(アドバイザー)として参画した。
経緯:CCS社は環境保全を重視、2010年から地元で回収した廃食油を原料として同社のBDF(※1)製造装置を用いてBDFを製造、自社のトラック燃料として使用(※2)している。日本では廃食油の回収コストが高く事業採算の確保は困難であったが、2010年にフィリピンの国会議員が同社プラントを視察して海外進出を要請したことを契機にフィリピンでのBDF製造事業の展開について検討を始め、JICAの本事業へ応募するに至った。ODAの観点ではフィリピンの自然環境保護へ資すること、具体的には水質汚染(※3)、大気汚染(※4)の軽減に資することを目的とした。
調査内容:本調査では、事業の要となる廃食油の長期安定且つ廉価な回収システム構築について、事業相手先候補であるラグナ州ロスバーニョス町と協議を重ねた。同町では廃食油を回収し、CCS社製BDF製造装置であるワンダー100を使用して35回にわたりBDFを製造し(※5)、BDFの製造・使用過程の現地適合性を検証し、事業の経済性評価を行った。またBDFを現地の公共交通機関の一つであるジプニー(※6)に使用し、走行状況の確認と排ガスの成分検査を行った。またBDF及び廃水の成分分析を現地の検査機関において行った。また他地域の候補先自治体とも協議を行い潜在需要の調査を実施した。
総括:自治体主導での廃食油回収システム構築が可能であること、BDF製造及び自家使用も問題なくできることを確認した。排ガスの成分検査では黒煙の大幅な減少が確認された。BDF及び廃水の成分分析では一部の成分に関してフィリピン基準(※7)に対して未達であった。これは現地の廃食油成分が日本の廃食油成分と相違することに起因すると推測され、BDF成分についてはエステル化反応工程の時間延長で、また排水成分については追加排水処理方の採用もしくは洗浄・脱水工程を省略する製造法の採用により対応可能と考えられ、これらの現地での検証は今後の課題である。
(※1)BDFとはBiodiesel Fuel(バイオディーゼルフュエル)の略称で生物由来のディーゼル燃料のこと。
(※2)CCS社では月に1万リットルのBDFを製造し1/3を自社車両6台にBDF100%の状態で使用、残りの2/3を外部の運送業者へ販売している。
(※3)廃食油の河川、土壌への直接投棄が多く水質汚染につながっている。
(※4)ディーゼルエンジン車の排ガスに含まれる黒煙量が多く大気汚染につながっている。
(※5)ワンダー100では一回の製造で、廃食油100リットルに副材料、触媒を加え、7~8時間かけて100リットルのBDFを製造する。
(※6)フィリピン全土に普及している乗り合いタクシーであり、第二次世界大戦後、アメリカ軍から払い下げられたジープを改造して利用が始まった。現在は小型トラックに派手にデコレーションされたボディーを乗せて作られる。幹線を運行するバスに対し、ジプニーは狭路も運行が可能であり生活に密着した交通機関である。
(※7)フィリピンのBDFに関する現行の国家基準はココナツオイルの新油から製造されたBDFを対象として制定された基準である。廃食油を精製のうえ製造したBDFに対する基準は制定されていないため、廃食油由来のBDFに関する基準について別途その制定を政府へ働きかけることが望ましい点、留意する必要がある。