持株会社化・組織再編

独占禁止法改正(1997年)により純粋持株会社が解禁され、大和証券グループは1999年4月、国内初の純粋持株会社体制に移行しました。それから25年以上が経過し、今では600社以上の上場企業が持株会社となりました。大和総研では、持株会社第一号としての経験を活かしながら、持株会社体制に移行する企業グループに『持株会社化コンサルティング』をご提供しています。持株会社化は会社法、金融商品取引法、取引所規則などで定められた手続きを遵守しながら進める組織再編行為であるとともに、企業グループの成長戦略、ガバナンスのあり方などを見直す絶好の機会でもあります。大和総研では、法定手続きにとどまらず、成長戦略やガバナンスに即した組織設計、収支設計までアドバイスしながら、『器をつくって、魂も入れる』持株会社化をサポートしています。

持株会社化のメリットとデメリット

持株会社体制に移行する企業グループが増えているのは、成長戦略を推進しようとした場合に、「持株会社化」という経営ツールに大きな効果が期待できるからです。一方、持株会社化には留意すべきデメリットもあります。持株会社化の期待効果(=メリット)と留意点(=デメリット)にどのようなものがあるのか、簡単に見ていきましょう。

中長期戦略の検討にあたっての代表的な課題

マーケットから持続的成長を求められる中、各社同様な課題に直面

上場会社はマーケットから持続的な成長やしっかりとしたガバナンス体制を求められる中、さまざまな課題に直面しています。
国内市場が縮小する中での成長戦略の策定や、新規事業の推進。海外に進出してもそのガバナンス体制を構築しなければならないし、次世代の経営人材も育成していかなければなりません。こういった中、これらの経営課題を解決するための一つのツールとして、持株会社体制には様々な効果が期待されています。

持株会社が検討される主な理由

持株会社は、経営戦略実現のツールとして様々な効果が期待されている

代表的な期待効果を挙げてみましょう。

  • グループ最適視点での戦略立案・意思決定
  • 新規事業への進出
  • 事業買収や売却等M&Aの推進
  • 責任単位の明確化
  • 意思決定の迅速化
  • 次世代経営人材の育成
  • 多様な人事戦略への対応
  • コスト削減・節税効果

最後に挙げた「コスト削減・節税効果」は、管理部門や社内システム部門、コールセンター、R&D部門などの機能をシェアードサービス化することでコスト削減を実現したり、事業子会社のB/S項目を圧縮することで結果的に節税メリットが得られるようなケースが該当します。
では、それ以外の期待効果について、順にみていきましょう。

期待効果①:グループ最適視点での戦略立案・意思決定/新規事業への進出

中核事業の意見にとらわれることなく、グループ最適な意思決定が可能になる

  • 持株会社の経営者は、グループ全体での成長をミッションとするため、グループ内で力のある中核事業の意見にとらわれることなく、グループ最適の視点での戦略立案、意思決定が行われる
  • 中核事業配下では難しかった将来有望事業の育成や、新規事業への進出にも資源を配分しやすくなる

一つ目は「グループ最適視点での戦略立案・意思決定/新規事業への進出」に関連した期待効果です。
A事業を中核事業とする「M社」において、A事業は成熟期、B事業は成長の可能性のある事業で、多少のリスクや先行投資が必要なステージにあるとします。今後、成長事業であるB事業や新規事業であるC事業を伸ばしていく必要があるため、これまで中核事業であったA事業への資金や人材などのリソース配分に調整が必要になります。
「M社」の体制のままでは、収益を上げているA事業の声に引きずられることが懸念されますが、「持株会社の体制」では、経営者の判断基準が大きく変わります。「M-HD」の経営者は、「グループ全体での成長」をミッションとするため、中核事業の意見にとらわれることなく、グループ全体最適の視点で、「将来的に有望なB事業の育成」や「新規事業であるC事業への進出」にも積極的にリソースを配分しやすくなる効果が期待できることになるのです。

期待効果②:事業買収や売却等M&Aの推進

交渉時の条件提示や、買収後のマネジメントが行いやすい

  • 買収交渉において、事業会社配下とするより、持株会社配下として事業会社と同格と位置付ける提案の方が、相手先に受け入れられやすい
  • 買収後のマネジメントにおいても、グループ経営・管理を本業とする持株会社配下の方が、経営のコントロールを行いやすい
  • 事業売却も子会社化している方が容易

二つ目は、「事業買収や売却等M&Aの推進」に関する期待効果です。
A事業を中核事業とする「M社」が、X社を買収しようとしたとき、「M社」の体制のままでは、買収後のX社は、M社のA事業の下の位置づけになるため、主従の関係を印象付けます。
これが、「持株会社体制」では、買収後のX社は、M-HDの中核事業Aを営む会社A社と同格の位置づけとなり、共にグループを拡大させましょうとのメッセージにもなります。買収されるM社側の役職員にとってもモチベーションは全く異なることになります。
また、マネジメント体制としても、X社をグループの経営管理を本業とする持株会社の傘下とする方が、買収後の経営のコントロールを行いやすくなります。さらにその後、子会社を売却するときも、会社単位で売却できるためスムーズに進めることができます。このように、M&Aの推進においても持株会社体制は効果を発揮します。

期待効果③:責任単位の明確化/意思決定の迅速化

ひとつの部門ではなく、「会社」となることで責任単位が明確になり、意思決定も迅速に行えるようになる

  • 決算数値等の経営成績及び責任の単位が「会社」として明確化される
  • 自立型経営や成長速度を加速させる効果が期待できる
  • 大胆な権限移譲を通じて、意思決定プロセスが短縮され、現場に近いところでの判断が可能になる

三つ目は「責任単位の明確化/意思決定の迅速化」に関する期待効果です。
持株会社体制により事業を物理的に「会社」として分離することで、責任単位がより明確になるという効果です。事業部制やカンパニー制でも一定のモニタリングは可能ですが、「会社」が独立している持株会社体制の方が、法律上、決算書を作成する点からバランスシートにも軸足を置いた経営を行うことが可能になります。
また、子会社への権限委譲を進めることで、現場に近い「事業子会社内」での意思決定が可能になるため、意思決定のスピードを速める効果が期待できます。

期待効果④:次世代経営人材の育成

次世代経営人材育成のため、将来の幹部候補に経営経験を積ませることができる

  • 今までの事業責任者が会社経営を担うことで、次世代経営人材を育成することができる

四つ目は「次世代経営人材の育成」です。
「事業会社体制」の下では、今まで「担当事業のみに関する責任」を持てばよかった事業責任者が、ひとつの会社のトップとして、経営責任を負い、経営経験を積むことで、グループ経営を担える次世代の経営人材を育成できるという効果です。
コンサルティングの現場でもよく耳にする話として、オーナー会社で、オーナー自身のご子息に経験を積ませるために持株会社化を行い、事業会社のトップにご子息を置く、というようなことも一例としてあります。

期待効果⑤:多様な人事戦略への対応

新事業に進出する際、異なるセグメントに多様な人事戦略を展開できる

  • 事業特性に応じた人事制度、給与体系・水準を採用するために、事業ごとに分社化する
  • 賃金や就労条件等を地域の事情に沿って柔軟に工夫や対応ができるように、地域ごとに分社化する

五つ目は「多様な人事戦略への対応」です。
「会社のニーズにあった人材をいかに確保するか」、「多様化する人材にいかに対応していくか」は、今後の企業競争力を左右する重要な経営課題です。この点に関して、同一企業内であっても、ビジネス分野が複数にまたがる場合、分野ごとに魅力的な制度や給与水準の会社が必要なケースがあります。このような場合に、既存の中核事業と組織の箱を分けるため、将来の中核事業を並列化し、持株会社体制を活用することがあります。
また、持株会社の下に地域子会社を置くケースも考えられます。持株会社は「グループ経営を担える人材」、地域子会社は「現場の人材」、とそれぞれの会社が「重視する人材を確保する」ため、持株会社体制を活用するというものです。

持株会社組織の懸念点

期待効果を発揮できるよう、検討段階から懸念点は解消しておく

持株会社体制には、期待効果がある一方、懸念される点もあります。
一つ目は、「管理コストの増加」です。新たな法人格が誕生することにより、管理業務や固定費が重複しがちです。増加する管理コストを上回るだけの効果が得られるか、検証する必要があります。
二つ目は、「収支バランスの確保」です。持株会社は事業を営まない組織である一方、資金面ではグループのコントロールタワーとして、外部株主への配当や新事業への投資などの役割を担う立場にあります。グループ会社からどのような収益を確保するかなど、単体の法人として収支を成り立たせることが必要となります。税務のメリットを享受しつつ、最適な収支バランスを確保していくことが求められます。
三つ目は、「求心力の低下」です。持株会社体制に移行することに伴い、グループ会社に大胆な権限委譲をすることは、意思決定の迅速化につながる一方、グループ会社が現場レベルで強い権限をもつことにより、遠心力が働きやすくなるデメリットもあります。持株会社は新しいグループ体制としてのビジョンをグループ各社に浸透させる意識が必要となります。
四つ目は、「セクショナリズム」です。持株会社体制においてグループ各社が独立企業として厳格な業績評価にさらされると、個社最適を追求する傾向が強まり、セクショナリズムを助長する可能性があります。グループとして目指す戦略をどのようにグループ各社の評価に反映させていくか、その前提となるグループ各社の役割も整理することが必要となります。

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