
ステーブルコイン(Stablecoin)は、ブロックチェーンの技術を用いて電子的に発行した資産の一種のことです。日本円や米ドルなどの法定通貨のような特定の資産と価値が連動するように設計されており、Bitcoin(BTC)やEthereum(ETH)などの暗号資産と比べて価格の変動が起こりにくい資産となっています。日本では2023年に施行された改正資金決済法で特定の形式で発行されたステーブルコインが「電子決済手段」として定義され、新たな資金決済手段や資金の移動手段として注目を集めています。
本記事ではステーブルコインについてその仕組みや法制度、ステーブルコインを扱うために必要となるシステムであるウォレットについて解説します。
- ステーブルコインの概要と種類
- ステーブルコインの動向
- ステーブルコインの特徴と注意点
- ステーブルコインのユースケース ~9つのユースケースを紹介~
- ステーブルコインを扱うために必要なシステム
- ステーブルコインの未来
- 終わりに
- レポート・コラム
ステーブルコインの概要と種類
ステーブルコインとは、ブロックチェーンの技術を使って電子的に発行された暗号資産の一種のことです。Bitcoin(BTC)やEthereum(ETH)などの暗号資産は裏付けとなる資産がないため価格の変化が大きいという特徴がありますが、ステーブルコインは裏付けとなる資産をもとに発行されており、価格が安定する仕組みを備えていることが特徴です。中でも現実世界に存在する資産(法定通貨、株、債券、原油、ゴールドなど)を裏付けに発行された暗号資産はRWA(Real World Asset)トークンと呼ばれており、ステーブルコインもその種類によってはRWAの一種として扱われる場合もあります。
ステーブルコインは、価格の安定化の手法によって以下の4種類に大別されます。
法定通貨担保型
日本円や米ドルなどの法定通貨を担保として発行されているステーブルコインです。ステーブルコインと法定通貨を1:1で交換できる仕組みになっており、ステーブルコインの発行元が発行額と同額の準備金を保有することで、価格の安定性を実現しています。2025年10月1日時点で、発行されているステーブルコインの中で最も時価総額が大きくなっています。暗号資産担保型
特定の暗号資産を担保として発行されているステーブルコインです。暗号資産は法定通貨に比べて価格の変動が大きいため、担保としている暗号資産の価格が下落した場合でもステーブルコインの価格を維持できるように過剰な担保を取る仕組みになっています。例えば、1万円分のステーブルコインを発行するためには、1万5千円分の暗号資産を担保にする必要があります。コモディティ型
コモディティ(原油・金・プラチナをはじめとした希少性のある資源など)を担保として発行されているステーブルコインです。法定通貨担保型と同じく、ステーブルコインの発行元が発行額と同等の価値をもつコモディティを保有することで、価格の安定性を実現しています。無担保型(アルゴリズム型)
無担保型は他のステーブルコインとは異なり裏付けとなる資産がないステーブルコインです。アルゴリズムによって価格が一定に保たれるようになっており、発行枚数の調整によって市場の需給をコントロールすることで価格を一定に保つ仕組みになっています。
ステーブルコインの動向
従来の暗号資産は価格の安定性に乏しく日常における決済や資金移動の手段としての利用が難しいのに対して、価格を一定に保つ仕組みを持つステーブルコインの利便性に注目が集まっています。ここではステーブルコインの市場規模や日米における法規制の動向を紹介します。
市場規模
ステーブルコインの発行残高は、2020年ごろから伸び始め、2022年初めには1600億ドルを超えました。2022年はクリプト・ウィンター(暗号資産の冬)と呼ばれており暗号資産全体の時価総額が3分の1ほどに下落した時期でしたが、ステーブルコインの時価総額は下落傾向ではあるもののそれほど大きく下落はしておらず、底堅い需要を見せました。その後、2023年の中頃から発行が拡大傾向となり、2025年10月1日時点での発行残高は2800億ドルまで増加しています。
2025年10月1日時点で発行残高の約6割以上をTether社が発行するUSDTが、約2割をCircle社が発行するUSDCが占めており、USDTとUSDCによる寡占状態となっています。どちらも米ドルや米国国債を裏付け資産とする法定通貨担保型のステーブルコインです。

出所:RWA.xyzより大和総研作成
https://app.rwa.xyz/stablecoins
米国における法制度
2025年1月にトランプ大統領が就任し、ステーブルコインに関する法制度の整備が進みました。2025年7月にはGENIUS法(Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)が成立し、ステーブルコインの法的な位置付けが明確化されました。GENIUS法では、ステーブルコインの発行者に対する監督権限を連邦準備制度理事会(FRB)と通貨監督庁(OCC)に付与しました。ステーブルコインの信頼性を高めてその普及を促進し、金融市場におけるステーブルコインの地位の確立とイノベーションを後押しするという姿勢が打ち出されました。
また、2025年7月末には米国証券取引委員会(SEC)が「Project Crypto」を立ち上げ、暗号資産やステーブルコインなどのブロックチェーン上のデジタル資産に対する明確な規制の整備を行い、デジタル資産市場発展を促していく方針を表明しました。
GENIUS法については大和総研の研究員によるレポートもご参照ください。
GENIUS法、銀行とステーブルコインの邂逅 2025年08月19日 | 大和総研 | 鈴木 利光
EU(欧州連合)における法制度
EUでは2024年6月に暗号資産に関する包括的なルールとしてMiCA(The Markets in Crypto-Assets Regulation)と呼ばれる規制が施行され、投資家保護の仕組みが強化されました。MiCAではステーブルコインに対するルールも定められています。
MiCAではステーブルコインを大きく2つに分類しています。
E-Money Tokens
単一の法定通貨を裏付けとして発行されたステーブルコインです。Asset-Referenced Tokens
法定通貨や暗号資産、コモディティなどの複数の資産を裏付けとして発行されたステーブルコインです。
日本における法制度
電子決済手段の創設
日本では2023年6月1日に施行された改正資金決済法において、ステーブルコインは「デジタルマネー類似型」と「暗号資産型」の2種類に分類され、このうち「デジタルマネー類似型」は「電子決済手段」として、Bitcoin(BTC)などの暗号資産とは異なる位置付けとして定義されました。
デジタルマネー類似型(=電子決済手段)
法定通貨の価値と連動した価格(例:1コイン=1円)で発行され、発行価格と同額で償還を約するもの(およびこれに準ずるもの)暗号資産型
デジタルマネー類似型の要件を満たさないもの(暗号資産やコモディティなどが価値の裏付けとなっているもの、アルゴリズムで価格安定を試みるものなど)
さらにデジタルマネー類似型は以下の4種類に分類されます。
分類 |
概要 |
|---|---|
| 1号 | 物品などを購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(第3号に該当するものを除く) |
| 2号 | 不特定の者を相手方として1号電子決済手段と相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(第3号に該当するものを除く) |
| 3号 | 特定信託受益権(金銭信託の受益権(電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合に限る。)であって、受託者が信託契約により受け入れた金銭の全額を預貯金により管理するものであることその他内閣府令で定める要件を満たすもの) |
| 4号 | 1~3号電子決済手段に準じるものとして内閣府令で定めるもの |
出所:資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)より大和総研作成
https://laws.e-gov.go.jp/law/421AC0000000059
この法改正により日本円に連動する電子決済手段(法定通貨担保型のステーブルコイン)は日本国内においては信託銀行などのほか、資金決済法に基づく登録を受けた資金移動業者のみが発行できるようになりました。2025年8月に電子決済手段を発行可能な資金移動業者が初めて誕生しています。
前払式支払手段との違い
ステーブルコインと似たものとして前払式支払手段があります。これは、事前にお金を支払って購入し、その後に商品やサービスの購入の際に利用することができる支払手段で、商品券やプリペイドカード、交通系ICカードが該当します。
ステーブルコインとの違いは以下の表のとおりです。ステーブルコインは前払式支払手段と比べて、利用範囲が広く、移転・譲渡への柔軟性が高い決済手段になっています。
電子決済手段 (ステーブルコイン) |
前払式支払手段 |
|
|---|---|---|
| 換金に関する制約 | 法定通貨と等価交換可能 | 払い戻しは不可能(※一部の場合を除く) |
| 利用範囲 | ブロックチェーンにアクセスできれば誰でも取り扱うことができる | その前払い式支払い手段の加盟店ネットワークに参加している者のみが取り扱うことができる |
| 移転や譲渡に関する制約 | 不特定多数に対して移転・譲渡が可能 | 不特定者に対して移転・譲渡は不可能(※一部の場合を除く) |
出所:大和総研作成
ステーブルコインの特徴と注意点
ステーブルコインは価格の安定性という特徴以外にも、ブロックチェーンならではのさまざまな特徴を備えています。主なものを紹介します。
分類 |
概要 |
|---|---|
| 低コスト | ステーブルコインに限らず、ブロックチェーンで取引を行う際はトランザクション手数料を支払う必要があります。ステーブルコインの取引にかかるトランザクション手数料はブロックチェーンの種類やその時の混雑状況(そのブロックチェーンのネットワークで処理されているトランザクションの量)により異なりますが、概ね数円~数十円となり、既存の送金手段の手数料よりもコストを抑えられる可能性があります。 |
| 早い送金速度 | ブロックチェーンの種類やその時の混雑状況にもよりますが、通常ステーブルコインの送金処理は数秒から数十秒で完了します。 |
| 高いアクセシビリティ | ブロックチェーンは24時間365日動いているため、インターネットを通じてブロックチェーンのネットワークに接続できれば、いつでもステーブルコインを用いた取引を行うことができます。 |
| 高いトレーサビリティ | ブロックチェーンで行われた取引の内容はすべてブロックとして記録され、誰でもその内容を参照できます。そのため、ステーブルコインの取引に関して高い透明性や監査可能性が実現できます。 |
| プログラマビリティ | ステーブルコインはスマートコントラクトと呼ばれるブロックチェーン上で動作するプログラムによって実現されています。スマートコントラクトを開発することでステーブルコインと連携させて、複雑な金融商品や新たなサービスが実現可能です。 |
出所:大和総研作成
一方で、ステーブルコイン特有の注意点も存在します。主なものを紹介します。
注意点 |
概要 |
|---|---|
| 国ごとの法規制 | 各国でステーブルコイン関連の法規制が進み、法定通貨担保型のステーブルコインの発行体への信頼性は向上しました。しかし、法規制の内容は国によって異なるため、利用しているステーブルコインがどの国の法規制に基づいて発行されたものかには注意が必要です。中には、法的保護の対象外となっているステーブルコインも存在します。 |
| スマートコントラクトのセキュリティ | スマートコントラクトにバグや脆弱性があった場合、ハッキング(クラッキング)などによって不正な操作が行われ、結果的に資産を失う可能性もあります。 ステーブルコインの安全性を評価するための情報として、スマートコントラクトの監査レポート(セキュリティ診断レポート)の有無があげられます。セキュリティサービスを提供する企業の中には、スマートコントラクトの監査サービス(セキュリティ診断サービス)を提供している企業も存在します。そのため、利用を検討しているステーブルコインのスマートコントラクトが、こうした監査サービスを受け、その結果を監査レポートとして公表しているかどうかは、セキュリティを評価する上で参考情報の一つとなります。 |
| 発行されているブロックチェーン | ステーブルコインはブロックチェーンごとに発行されます。例えば、Ethereumで発行されているステーブルコインは基本的にはPolygonでは使用できず、ブロックチェーンを跨いだ送金はできません。(ブリッジというサービスを使うことで異なるブロックチェーン間でステーブルコインを移動させることができる場合もあります)。したがって、後述する「ウォレット」が対象のブロックチェーンに対応していない場合はそのブロックチェーンで発行されているステーブルコインを扱うことができません。 |
| 暗号資産によるトランザクション手数料の支払い | ブロックチェーンで取引を行う際はトランザクション手数料を払う必要があります。ステーブルコインを受け取る際にはトランザクション手数料はかかりませんが、決済のために他者に送金したり、法定通貨に換えるために発行体に送金したりする場合はトランザクション手数料を支払う必要があります。 トランザクション手数料は通常暗号資産で支払う必要があり、例えばEthereumというブロックチェーンでステーブルコインの取引を行う場合はETHという暗号資産を、Polygonというブロックチェーンの場合はPOLという暗号資産を事前に用意しておく必要があります。 つまり、ブロックチェーンでステーブルコインだけを扱う場合でも、トランザクション手数料の支払いのために一定の暗号資産を保有する必要があります。法人が暗号資産を保有する際には、期末に時価評価を行わなければならないケースもあるため、暗号資産を扱う場合は適切な会計処理の整備が求められます。 |
出所:大和総研作成
ステーブルコインのユースケース ~9つのユースケースを紹介~
ステーブルコインは金融インフラの効率化や決済手段の高度化をもたらす可能性があり、日本円のステーブルコインの登場とともにさまざまなユースケースに関する議論がなされています。以下にステーブルコインのユースケースの一部を紹介します。
① 国際送金・越境決済
従来の国際送金は複数の銀行を経由することが多いため、手数料が高く、送金に時間がかかります。ステーブルコインを利用すれば直接受け取り手に送金でき、手数料を抑え、かつ数秒~数十秒以内に送金を完了できます。
② 企業間取引
例えば、国際的なサプライチェーンを持つ企業が企業間の決済にステーブルコインを利用することで為替リスクを回避しつつ、手数料の削減と決済の迅速化を実現できます。また、国際的に拠点を展開している企業の場合でも、同一企業内の拠点間での資金の移動を効率化できます。
③ 店頭決済
コンビニやス―パーなどの日常の支払いの場面でステーブルコインを用いた支払いを受け付けることによって、事業者は既存のキャッシュレス決済よりも低い手数料で支払いを受けることができ、また現金化までの時間も短縮できる可能性があります。
④ 観光・旅行
海外からの旅行客の支払いをステーブルコインで受け付けることで、旅行客は法定通貨を両替する手間を省き、よりスムーズに支払いを完了できます。外貨建てのステーブルコインを受け取った事業者はDeFiの暗号資産交換サービスなどを利用することによって、必要に応じて速やかに円建てのステーブルコインに両替・換金することができ、為替リスクを抑えつつ、決済手段の多様化を実現できます。
⑤ 給与支払い
国際的なメンバーで構成されるチームを持つ企業やフリーランスとの契約を結んでいる企業が、従業員や契約者への給与支払いにステーブルコインを利用することで手数料を削減しつつ、素早い支払いを行えます。
⑥ 投げ銭
動画配信者やアーティストなどのコンテンツ作成者への投げ銭をステーブルコインで行うことで、仲介者を排除して手数料を削減し、コンテンツ作成者をより直接的に応援できるようになります。
⑦ 寄付
ブロックチェーンは透明性が高く、誰でも取引の内容を参照できます。寄付金をステーブルコインで送金することで、寄付金が確実に受取人に届いているかを確認しやすくなり、中間者の手数料も削減できます。また、今後ステーブルコインの利用先が広がり、寄付先が物品を購入したりやサービスの提供を受けたりする際にステーブルコインで決済を行えるようになれば、その寄付金がどのように使用されたかということが可視化され、追跡できるようになります。
⑧ DeFiでのレンディング
ステーブルコインがAaveやCompound などのDeFiのレンディングサービスで扱われることで、暗号資産を担保にしてステーブルコインを借りることができるようになります。すでに保有している暗号資産がある場合は、その暗号資産を手放すことなく資金を調達することができます。また、レンディングサービスでステーブルコインの貸し手となれば、利息を得ることも可能です。
⑨ 円キャリートレード
DeFiを利用した円キャリートレードも可能です。円建てのステーブルコインをUniswapやCurveなどのDEX(Decentralized Exchange:分散型取引所)でドル建てのステーブルコインに交換します。そして、そのドル建てステーブルコインをDeFiのレンディングサービスなどで運用することで、利息を得ることが可能です。
ステーブルコインを扱うために必要なシステム
ここからは、ステーブルコインを扱うためのウォレットと呼ばれるシステムについて紹介します。
そもそもウォレットとは
ブロックチェーンにおいて、暗号資産やステーブルコインなどの資産の残高を参照したり、他者に移転(送金)したりするためのシステムのことを一般的にウォレットと呼びます。
ウォレットでは秘密鍵を管理しています。ブロックチェーンにおいて秘密鍵は、自らが保有するブロックチェーン上の資産を保有するためのアカウント(ブロックチェーン上の口座)を作成したり、資産を他者に移転したりする際に必要となります。特に、資産を移転する際には一定の形式で移転の内容(移転先や移転数量)について書かれたトランザクションを作成し、秘密鍵で署名を行ったうえでブロックチェーンのネットワークで送信する必要があります。ブロックチェーンのネットワーク内では署名の検証が行われ、資産の正当な保有者であることが証明されると移転が実行されます。
このように、ブロックチェーンでは秘密鍵を保有していることが、資産を保有していることの証明になります。万が一、秘密鍵が外部に流出すると保有している資産が盗まれてしまう可能性があるため、秘密鍵はウォレットを使って厳重に保管する必要があります。

ステーブルコインを扱うためのウォレット
事業者がウォレットでステーブルコインを扱う際に、秘密鍵の管理機能やトランザクションの作成能といった基本の機能に加え、次のような機能が必要になる可能性があります。
機能 |
機能の概要 |
|---|---|
| アカウント管理機能 | 例えば、ステーブルコイン受け取る際に、送り手ごとに個別の専用アカウントで受け取れるようにしたり、ステーブルコインを受け取るアカウントと保管するアカウントを分けたりなど、目的別に複数のアカウントを柔軟に使い分けられるようにする機能です。 |
| ステーブルコイン受け取り機能 | 他者からステーブルコインを受け取るためにはアカウントアドレスと呼ばれる文字列を送り手に伝える必要があります。このアカウントアドレスは一般的に長く、意味を持たない文字列になります(例:0xd8dA6BF26964aF9D7eEd9e03E53415D37aA96045)。アカウントアドレスを効率的に不特定多数の送り手に伝えられるようにするために、例えばQRコードを生成いて伝える機能や、チャットやメールソフトと連携して自動でアカウントアドレスが記載されたメッセージを作成・送信する機能です。 |
| 会計システム連携機能 | 既存の会計システムと連携し、ステーブルコインの送金や受け取り時にその情報を自動で連携させる機能です。 |
| ステーブルコイン調達機能 | 送金などでステーブルコインの不足分を新規に調達する際に、ステーブルコインの発行体やステーブルコインを扱う取引所のシステムと連携させる機能です。 |
| ステーブルコイン償還機能 | 保有しているステーブルコインを法定通貨に換える時(償還する時)に、ステーブルコインの発行体やステーブルコインを扱う取引所のシステムと連携させる機能です。 |
| 帳票作成機能 | 取引履歴や残高一覧の帳票をオンデマンドやバッチで作成する機能です。 |
| その他機能 | ステーブルコインの銘柄管理、ユーザ管理、ユーザ権限管理、監査機能など |
出所:大和総研作成

トランザクション手数料について
ステーブルコインの注意点で紹介したように、ステーブルコインを他者に送金する際にはトランザクション手数料を支払う必要があります。トランザクション手数料は通常、暗号資産で支払う必要があるため、例えばEthereumの場合はETHを事前に暗号資産取引所などで入手し、暗号資産取引所の口座からのウォレットに送金しておく必要があります。

一方で、ブロックチェーンの機能を活用し、「トランザクション手数料を他者が代理で支払う」仕組みを構築することも可能です(注1)。これにより、例えば、ウォレット提供事業者が提供する代理支払いの仕組みを搭載したウォレットを利用すれば、トランザクション手数料をウォレットの利用料金と合わせて法定通貨建てで後払いすることも可能です。その結果、利用者は暗号資産を直接保有することなくステーブルコインを扱えるようになります。
(注1)EIP-7702で実現するトランザクション手数料のスポンサーシップ~Web3ウォレットのUX向上に向けた新たな可能性~ - WOR(L)D ワード|大和総研の用語解説サイト

さらに、ステーブルコインの元となるスマートコントラクトの仕組みによっては、第3者のウォレットからステーブルコインを送金する際も、そのトランザクション手数料を代理で支払うことができます。例えば、店舗のレジでQRコードを使って一般の消費者からの支払いをステーブルコインで受け付ける場合、通常は消費者がトランザクション手数料を支払う必要があります。消費者は各々異なるウォレットを使ってステーブルコインの送金を行うため、通常は事業者側のウォレットでトランザクション手数料を代理で支払うことはできません。
スマートコントラクトがこのケースに対応した機能を提供しており、かつ事業者側のウォレットがそれを利用した代理支払い機能を有している場合、事業者がトランザクション手数料を肩代わりし、消費者はトランザクション手数料なしでステーブルコインを使った決済が可能になります。これにより、スムーズな決済が実現し、消費者のUXが向上する可能性があります。

ブロックチェーンネットワークに接続するためのノード
SaaSなどの外部のウォレットサービスを利用せずにウォレットを内製する場合、ウォレットのほかにブロックチェーンのネットワークに接続するためにノードと呼ばれるソフトウェアを動かす必要があります。ノードはブロックチェーンのネットワーク内でデータを管理している存在で、ノード同士で協力して取引の内容を検証しデータの内容を更新する役割を担っています。ブロックチェーンで取引を行ったりデータを参照したりする際はノードを経由する必要があります。
ノードはオープンソースで公開されているため、サーバとストレージを用意すれば誰でもノードを動かすことができます。一方で、ノードを安定的に動かし続けるためにはサーバやストレージのメンテナンスを行うための運用体制を構築する必要があります。また、ブロックチェーンはその仕様の改善のために仕様が頻繁にアップデートされるため、それに応じてノードのソフトウェアも頻繁にアップデートされます。したがって、ブロックチェーンの開発者コミュニティの動向を把握しつつ、ノードの更新を随時行うという体制を整える必要もあります。

ノードを自ら運用するのではなく外部のホスティングサービスを利用するという手段もあります。ホスティングサービス事業者がノードのメンテナンスを行うため、利用者はノードの運用を気にする必要はなく、運用に係るコストを抑えられます。利用者はノードへの接続をAPI形式で行うことができ、手軽にノードの利用を開始できます。

ステーブルコインの未来
ブロックチェーンを取り巻く環境は法的にも技術的にも目まぐるしく変化しています。ステーブルコインは法制度が明確化されてその信頼性が向上したことをきっかけに、ユースケースをめぐるさまざまな検討が本格化しました。本章ではステーブルコインの今後について議論されているものの一部を紹介します。
ステーブルコインによるセキュリティトークンのDvP決済
セキュリティトークン(ST:Security Token)とは、ブロックチェーンの技術を用いて電子的に発行した有価証券のことを指します。2021年に大和証券をはじめ大手金融機関による取り扱いが開始されたことで、新たな資金調達手段や投資対象として注目を集めています(注2)。
現状では、セキュリティトークンの決済は法定通貨で行われていますが、ステーブルコインを使えるようになれば、セキュリティトークンの決済をブロックチェーン上で完結することが可能になり、即時決済(DvP決済)の実現と取引コストの削減が期待されます。加えて、利払いや償還もステーブルコインで行われるようになれば、ブロックチェーン上でのより効率的かつシームレスな投資体験が実現可能です。
また、セキュリティトークンを包含する、より広範な概念としてRWAトークン(Real World Asset Token)も存在します。ステーブルコインの普及は、有価証券だけでなく美術品、ワインなどの多様な資産を世界中で流通させる可能性を秘めています。
メタバース経済圏における通貨
メタバース内の土地やアイテム、サービスなどの購入における基軸通貨として、ステーブルコインが採用される可能性があります。メタバースが単なるゲームやソーシャルプラットフォームの域を超え、現実世界と相互に影響しあう空間へと進化する中で、現実世界との経済活動の橋渡し役としても、ステーブルコインは重要な役割を果たすかもしれません。
AIエージェントの決済手段
AIエージェントとは、目標達成のために自律的に計画・実行・適応を行うAIシステムです。ユーザの代わりにAIエージェントが、請求書の支払いやサブスクリプションの更新、買い物の手配といった決済を自律的に行う際、ステーブルコインを決済手段として活用することで、既存の決済手段よりもスムーズな取引を実現できる可能性があります。
さらに、ステーブルコインを用いるとAIエージェント向けのサービスを構築することも可能です。例えば、AIエージェントにデータを提供する都度課金型のAPIです。AIエージェントがAPIへのアクセスごとにリアルタイムで使用料を払うようなシステムは、既存の決済手段では手数料が高く現実的ではありませんが、ステーブルコインを用いればそのようなマイクロペイメントが低コストで実現できるかもしれません。AIエージェント時代に対応した、AIエージェント向けの新たなビジネスを構築できる可能性もあります。
終わりに
本記事では、ステーブルコインやステーブルコインを扱うために必要となるシステムであるウォレットについて解説しました。ステーブルコインはブロックチェーン技術を用いて実現されているため、ブロックチェーンについて詳しくない方にとっては仕組みの理解が難しく、また既存のシステムとの連携や具体的な利用シーンもイメージしづらいかもしれません。
大和総研では、ブロックチェーン・Web3分野の研究開発を行う専門のプロジェクトを発足させ、ウォレットに関する特許を取得するなど、ブロックチェーン・Web3に関する取り組みを強化しています。長年にわたるブロックチェーン・Web3関連の取り組みの実績を活かし、ステーブルコインのみならずお客様のブロックチェーン・Web3ビジネスの検討やシステムの構築をサポートします。ご要望・ご不明点などがありましたら、ITソリューションサービスサイトよりお問い合わせください。
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