カーボンプライシング

 カーボンプライシングとは、炭素に価格を付け、排出者の行動を変容させる経済的手法です(※1)。地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を減らすことは世界的な課題ですが、人々の善意に頼るだけでは限界があります。炭素に価格を付けることで、二酸化炭素の排出削減が経済的にもメリットがあるようにし、企業や消費者の行動を変えていくことがカーボンプライシングの狙いです。
 カーボンプライシングの代表的な方法の一つとして、二酸化炭素の排出量に応じて課税を行う炭素税があります。炭素税は、1990年にフィンランドで導入され、その後、スウェーデン、ノルウェー、フランスなどでも導入されています。もう一つの代表的な方法としては、排出量取引制度(キャップ・アンド・トレード)があります。これは政府が排出枠を定め、排出枠を無償あるいは有償で付与し、排出枠の過不足については市場で売買できるようにするものです。2005年にEU域内排出取引制度として開始されています(※2)(※3)。
 日本においては、これまで化石燃料に対する課税として、石油石炭税、揮発油税・地方揮発油税(ガソリン税)などが課されてきましたが、2023年5月に成立した「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」に基づいて、「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」が定められ、「成長志向型カーボンプライシング構想」が打ち出されています。
 「成長志向型カーボンプライシング構想」は、2030年度の温室効果ガス46%削減、2050年のカーボンニュートラルという国際公約の達成を目指しつつ、産業競争力の強化と経済成長を目指すというものです。「GX経済移行債」の発行等により、GX経済移行に向けて、企業による先行投資の支援を行うとともに、カーボンプライシングを段階的に導入することが予定されています。企業の自主参加による「排出量取引制度」の本格稼働、発電事業者に対する「有償オークション」の段階的な導入、「炭素に対する賦課金」の導入といった複数の方法を、中長期的に進めていくところに特徴があります(※4)。

参考文献

(※1)経済産業省 「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等に関する研究会 中間整理」(2021年8月)https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_neutral_jitsugen/20210825_report.html
(※2)有村俊秀、日引聡著『入門 環境経済学 脱炭素時代の課題と最適解 新版』(2023年、中公新書)
(※3)ウィリアム・ノードハウス著/藤崎香里訳『気候カジノ 経済学から見た地球温暖化問題の最適解』(2015年、日経BP社)
(※4)内閣官房「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/pdf/gx_jikkou_kaigi1222.pdf

関連する事業・ソリューション

サステナビリティ、気候変動対応

ニュースリリース

大和総研、国内全拠点で使用する電力を100%再生可能エネルギーへ切り替え

レポート・コラム

2024年2月7日
政府が推進するグリーントランスフォーメーション(GX)実現への道筋と課題 2024年02月07日 | 大和総研 | 依田 宏樹

2022年3月16日
戦略ツールとしてのインターナルカーボンプライシング 2022年03月16日 | 大和総研 | 吉村 浩志

2021年11月8日
カーボンプライシング導入の影響 2021年11月08日 | 大和総研 | 和田 恵