人的資本経営とは?注目される背景から情報開示の進め方まで

 人的資本経営は、企業の持続的な成長と価値向上を実現するための重要な経営アプローチとして注目を集めています。生産年齢人口の減少や無形資産の重要性の高まりを背景に、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、戦略的に活用する考え方が広がっています。 しかし、多くの企業では以下のような課題に直面しています。

  • 具体的にどのような効果が期待できるのか
  • 経営戦略と人的資本戦略をどのように連携させるべきか
  • 人的資本投資をどう企業価値向上につなげるか


本記事では、人的資本経営の基本概念や注目される背景を整理したうえで、企業価値向上につながる実践方法を解説します。また、人的資本の可視化と開示の進め方、経営戦略と人材戦略を連動させるためのステップについても詳しく紹介します。

人的資本経営の本質を理解し、自社の持続的成長につなげるための指針として、ぜひご活用ください。

人的資本経営とは?

人的資本経営は、企業の持続的成長と価値創造の源泉として「人材」を戦略的に位置づける経営アプローチです。本章では、人的資本経営の本質を以下の4つの観点から解説します。

  • 人的資本経営の定義
  • 「人材版伊藤レポート」による普及と発展
  • 従来の人材戦略との本質的な違い
  • 人的資本開示のこれまでの流れ

人的資本経営の定義

人的資本経営とは、「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」です。

引用:人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~│経済産業省

従来の「人件費(コスト)」という発想から脱却し、企業の持続的競争力の源泉として人材を捉え直す考え方といえます。

この考え方の根幹には、人的資本への投資が企業の中長期的な価値向上と価値創造に直結するという認識があります。人的資本への投資を企業の中長期的な成長と価値創造につなげるために、以下の3つの要素が重要です。

  • 戦略的な人材ポートフォリオの構築:経営戦略の実現に必要な人材の質と量を明確にし、計画的に確保・育成する

  • 人的資本投資の最適化:人材育成、健康経営、働き方改革など、人的資本の価値を引き出す人的資本投資を戦略的に行う

  • 人的資本情報の可視化と開示:人的資本に関する情報を定量的・定性的に把握し、ステークホルダーに適切に開示する

人的資本経営を実践することで、従業員一人ひとりが持つ価値を引き出すとともに、組織力を最大化し、企業全体の生産性向上と持続的な価値創造につながります。

関連レポート:

企業価値向上を実現する人的資本経営の基礎知識 2024年08月26日 | 大和総研 | 小林 一樹

「人材版伊藤レポート」による普及と発展

人的資本経営の考え方が広まるきっかけとなったのが、2020年に公表された「人材版伊藤レポート」です。これは、経済産業省の「人的資本経営の実現に向けた検討会」がまとめた報告書です。企業と投資家の持続的かつ良好な関係構築の重要性を示しています。

このレポートは、企業と投資家の対話を促進し、持続的な企業価値創造を実現するための人的資本経営の枠組みを提示しました。その中核となる考え方として、「3つの視点」と「5つの共通要素」が示されています。


表1. 人的資本経営の枠組み
3つの視点 5つの共通要素
● 経営戦略と人材戦略の連動
● As is-To beギャップの定量把握     
● 企業文化への定着
- 動的な人材ポートフォリオ
- 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン     
- リスキル・学び直し
- 従業員エンゲージメント
- 時間や場所にとらわれない働き方

出所:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~│経済産業省


2022年には「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」と「価値協創ガイダンス2.0」が策定され、サステナビリティと人的資本経営の統合的なアプローチが提唱されています。

これらの政策的な後押しにより、人的資本経営は企業の競争力強化と持続的成長のための不可欠な要素として認識されるようになっています。

従来の人材戦略との本質的な違い

人的資本経営は、従来の人材戦略とは本質的に異なるアプローチを採用しています。

その違いは以下です。

  • 人材はコストから資本へ

これまで人件費として扱われていた人材を、企業の成長を支える資本とみなし、投資の対象とする考え方に転換


大和総研の小林主任コンサルタントは「近年、企業において人材が管理対象から投資対象に移行しています。人的資本経営は、人材の持つ力を引き出して更に高めていこうという考え方です。」と話します。

また、これまでの人事戦略との具体的な違いについて小林主任コンサルタントは「以前から人を大事にする経営や企業文化はありました。ただ、これらは社内の人事戦略などに留まる内部的な使われ方をしていました。これに対し人的資本経営では、外部の投資家や転職等の労働市場に情報を発信し、企業の価値を示す役割も担っています。

例えば投資家向けには、企業価値に人材の価値がどうつながるのかを対外的にも示す必要がありますし、転職市場では、自社に就労することでどのようなスキルを身に付られるか、どのような体験ができるかを対外的に示すことが企業に求められているといえます。」と指摘しています。

人的資本経営では、これまで人件費として扱われていた人材を、企業の成長を支える資本とみなし、投資の対象とする考え方に転換するアプローチが必要になります。

人的資本開示のこれまでの流れ

人的資本経営の情報開示とは、企業の人的資本に関する情報を社内外に公表することです。近年、ESG投資(環境・社会・ガバナンスに配慮した投資)の広がりにより、企業に対して人的資本に対する情報発信が求められるようになりました。詳しくは人的資本・健康経営シリーズのコラム記事をご覧ください。

関連レポート:

ESG投資において注目される人的資本(人的資本・健康経営シリーズ②) 2021年10月27日 | 大和総研 | 太田 珠美

具体的には、以下の通りです。


表2. 人的資本開示基準の整備
   年  内容
  2013年   国際統合報告協議会(現:IFRS財団)が国際統合報告フレームワークを公表
  2018年 EUで非財務情報開示指令(NFRD)が施行
※2024年から企業サステナビリティ報告指令(CSRD)が段階的に施行   
  2019年 国際標準化機構(ISO)がISO30414:社内外への人的資本レポーティングのガイドラインを公表    
  2020年 米国証券取引委員会(SEC)が人的資本に関する情報開示を義務化
  2023年 企業内容等の開示に関する内閣府令等が改正、
有価証券報告書における人的資本開示が義務化
  2024年 国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が人的資本に関するリサーチプロジェクトを開始

出所:大和総研作成


日本では、2023年3月期から「有価証券報告書」での人的資本情報の開示が義務化され、企業にデータの可視化と発信が求められるようになりました。そのため、大和総研をはじめとするシンクタンクやコンサルティング企業が、企業の人的資本戦略を支援しています。

人的資本開示の重要性は今後さらに高まり、データを活用した戦略的な経営が求められるでしょう。経営戦略と人材戦略のつながりを示し、データを活用した定量的な情報を透明性をもって発信することで、企業価値の向上と持続的な成長が期待できます。

人的資本経営が求められる背景

企業を取り巻く環境変化により、人材の確保・育成・最適配置が経営上の最重要課題となっています。特に人口動態の変化、デジタル化などへの対応が、人的資本経営の必要性を高めています。

本章では、人的資本経営の重要性が高まる4つの背景要因を解説します。

  • 投資家の評価軸の変化(ESG投資の浸透)
  • 多様な働き方の加速
  • SDGsの目標達成に向けた社会的要請
  • DX推進と人材戦略の融合

投資家の評価軸の変化(ESG投資の浸透)

投資家の企業評価軸が財務情報に加え、非財務情報も重要視されるようになり、人的資本の価値と管理体制が企業評価の重要要素となっています。

ESG投資(環境・社会・ガバナンスに配慮した投資)の広がりにより、企業には人的資本の適切な管理と開示が求められています。上場企業の役員層と人事部長を対象とした調査では、ESG投資への理解度が85.4%、人的資本経営への理解度が75.8%と高い水準を示しています。

引用:パーソル総合研究所「人的資本情報開示に関する実態調査」2022年5月


大和総研の太田主任研究員は「ESG投資が広がり、投資家からの要請に応えるべく、企業は人的資本に関する情報開示を充実させています。人的資本開示基準の整備は各国・地域で進んできましたが、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が国際的な人的資本に関する情報開示基準を策定する動きも出ています。」と指摘します。

投資家は企業の持続的成長力を評価する上で、人的資本の質と経営戦略における位置づけを重視しています。企業が適切な人的資本管理体制を構築し、その情報を効果的に開示することが、投資家からの評価の適正化につながります。

多様な働き方の加速

労働市場の構造変化と働き方の多様化が進み、従来の画一的な人材管理では企業の競争力維持が困難になっています。

非正規雇用や外国人従業員の増加に加え、コロナ禍を契機とした働き方の変革が加速しています。これに対応するため、企業は以下の施策を進める必要があります。


表3. 働き方の多様化施策
施策 具体的内容
柔軟な働き方の拡大 - フレックスタイム制の導入
- リモートワーク・テレワーク・ハイブリッドワークの普及
- 副業・兼業制度の推進
副業・兼業制度の推進 - 多様な人材の活躍
- 女性・外国人・シニア層・障がい者の雇用拡大
それぞれのニーズに応じた働き方の提供  - 個別対応の人事評価制度の採用
- 職務内容やキャリア志向に応じた柔軟で公正な評価基準の構築  

出所:大和総研作成


多様な人材が能力を最大限に発揮できる環境整備は、組織の創造性と生産性を高め、企業の中長期的な企業価値向上の基盤となります。

SDGsの目標達成に向けた社会的要請

SDGs(持続可能な開発目標)の目標8「働きがいも経済成長も」の達成に向けて、企業の人的資本経営への取り組みが注目されています。

人的資本経営は、「すべての人が持続可能な経済成長のもと、生産的な雇用と働きがいのある仕事を得る」というSDGsの理念と直結します。企業が従業員の能力開発と働きがいのある環境整備に取り組むことは、社会全体の持続可能な発展につながります。

具体的な取り組みとしては、従業員のスキル向上支援、心理的安全性の確保された職場環境の整備、公正な評価・報酬制度の導入、健康経営の推進などが挙げられます。これらは企業の社会的責任の遂行であると同時に、優秀な人材の獲得・定着にも寄与します。

関連レポート:

男女間賃金格差の情報開示 2023年04月21日 | 大和総研 | 中 澪 | 藤野 大輝

女性役員比率の現状と今後の課題 2024年10月18日 | 大和総研 | 藤野 大輝 | 大和 敦

DX推進と人的資本戦略の融合

社会の変化の一つとしてデジタル化が進展するなか、経営戦略としてDX推進を掲げる企業が多いことから、人材戦略を考える際にもDX推進を考慮する必要性が高まっています。

DXの推進には、経営戦略と人的資本戦略の連動が不可欠です。DXを単なる業務効率化ではなく企業変革の原動力とするためには、適切な人的資本戦略が必要です。具体的には、

  • デジタル人材の戦略的確保・育成(社外採用とリスキリングの適切な組み合わせ)
  • DXと働き方改革の融合(リモートワークとデジタルツールの活用による生産性向上)
  • 経営層レベルでの連携強化(CHRO、CIO/CDOの協働による全社戦略の統合)

DXと人的資本経営を連動させることで、変化に強い組織基盤を構築し、不確実性の高い経営環境においても持続的な成長を実現できます。今後は、全社的なリスキリング推進と、デジタル時代に求められる新しいリーダーシップ育成が重要な課題となります。

人的資本経営の期待効果

人的資本経営の実践は、企業に多面的かつ持続的な価値をもたらします。本章では、人的資本経営の導入により期待できる主要な効果を、企業・従業員・投資家の三者の視点から解説します。

企業の競争力強化

人的資本経営の実践は、変化の激しい市場環境において企業の競争優位性を高めます。

デジタル変革時代において、企業が持続的に成長するには、DX人材の戦略的育成と従業員のエンゲージメント向上が不可欠です。人的資本経営はこれらの課題に包括的に対応し、企業競争力を強化します。

人的資本経営の実践により、経営戦略と人材戦略の一体化、人材の育成強化、組織の変革能力向上といった成果が得られ、企業の企業価値向上につながります。

従業員のエンゲージメントの向上

人的資本経営は従業員満足度と組織へのエンゲージメントを高め、生産性向上に寄与します。

企業がスキル開発機会の提供、健康管理支援、働き方の柔軟化などを戦略的に進めることで、従業員のモチベーションと組織への貢献意欲が高まります。特に健康経営やウェルビーイングの取り組みは、従業員の心身の健康を支え、中長期的なパフォーマンス向上につながります。


また、スキル開発の機会を増やすと、従業員のキャリア意識が向上し、組織へのエンゲージメントも高まるでしょう。

データを活用した施策と従業員の成長機会の提供を組み合わせると、エンゲージメントの向上が期待できます。

関連レポート:

人的資本経営におけるエンゲージメントの重要性 2024年10月11日 | 大和総研 | 岡本 紘和

投資家からの信頼獲得

人的資本経営の戦略的実践と適切な情報開示は、投資家からの信頼獲得と企業価値向上につながります。

ESG投資の拡大により、企業の人的資本管理体制が投資判断の重要指標となっています。責任投資原則(PRI)に署名する資産運用会社等は世界で5,000機関以上、日本でも141機関(2024年10月時点)に達しています。

引用:Principles for Responsible Investment

人的資本データの透明性と質が企業評価に直結しています。適切な人的資本開示により、投資家は企業の中長期的な成長力をより正確に評価できるようになります。

人的資本経営の実践における課題

人的資本経営は、その理念や重要性への理解が進む一方で、実践面では多くの企業が課題に直面しています。本章では、人的資本経営を推進する上での主要な課題とその克服アプローチを解説します。

経営戦略と人的資本戦略の乖離

人的資本経営の最大の障壁は、経営戦略と人的資本戦略の統合が不十分な点にあります。 経営戦略と人的資本戦略の整合性が十分でない企業が多く、この乖離により人的資本投資の効果最大化が妨げられています。

この課題を解決するための具体的アプローチとしては以下が挙げられます。

  • 戦略レベルでの統合強化:

 経営層と人事部門の定期的な戦略会議開催により、経営目標と人的資本戦略の連動性を高めます。

  • 共通KPIの設定:

 経営指標と人的資本指標を関連づけ、スキル向上率、離職率、エンゲージメントスコアなどを事業成果と紐づけて管理します。

  • 経営層の人材開発への関与強化:

 CEOやCxOが人材育成や組織改革に主体的に関わり、経営課題としての位置づけを明確にします。


戦略の連携強化には、人事部門のビジネス理解向上と、経営層の人的資本に対する深い理解が不可欠です。両者の協働により、企業の成長戦略を支える実効性のある人的資本経営が実現します。

社内外からの理解を得る難しさ

「人的資本投資=コスト」という認識が社内外に根強く、その企業価値向上への貢献が適切に理解されていない状況があります。特に短期的な業績向上圧力の中では、人的資本への投資が後回しにされがちです。

この課題に対応するアプローチとしては、

  • 社内向け理解促進策:

経営陣主導で人的資本投資の意義と効果を明確に説明し、全社的な理解を醸成します。人的資本投資がどのように企業価値に貢献するかの論理的道筋を示すことが重要です。

  • 社外向け情報発信の強化:

人的資本戦略を定量指標と具体的成果事例を交えてストーリー化し、投資家や顧客に効果的に伝達します。短期的効果だけでなく、中長期的な企業価値向上への貢献を説得力ある形で提示することが求められます。


人的資本投資の効果は短期間で明確に表れるとは限りませんが、一貫性のある戦略と丁寧な説明により、ステークホルダーの理解と支持を得ることができます。

企業文化変革が進まない現状

制度だけを変更しても、企業文化や評価の考え方が従来のままでは、人的資本経営の効果は限定的です。多様な働き方やD&I推進を導入しても、実質的な変化につながらないケースが少なくありません。

企業文化を変革するための具体的な施策として、以下の取り組みが考えられます。


表.4 企業文化を変革する具体的な施策
施策 具体的内容
● 評価制度の見直し - 勤務形態に依存しない成果・プロセス評価の導入
- 組織貢献とチームパフォーマンスを重視した評価基準の確立    
● 従業員の貢献の可視化と承認  - ピアボーナス制度等の導入による相互評価の促進
- 経営層からの適切なフィードバックと承認の仕組み化

出所:大和総研作成


人的資本経営の真の定着には、トップマネジメントのコミットメントと一貫したメッセージの発信が不可欠です。形式的な制度導入にとどまらず、企業理念と人材観の根本的な変革に取り組むことが求められます。

人的資本経営を実現する5ステップ

人的資本経営を効果的に推進するには、体系的かつ段階的なアプローチが必要です。本章では、経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」を参考に、人的資本経営を成功に導く5つのステップを解説します。

  • ステップ1:全社プロジェクト体制の構築
  • ステップ2:人的資本の現状分析と可視化
  • ステップ3:「As is - To be ギャップ」の定量把握
  • ステップ4:人的資本戦略とKPIの設定
  • ステップ5:経営戦略と連動した施策展開


それでは、具体的に見ていきましょう。

ステップ1:全社プロジェクト体制の構築

人的資本経営は全社的な経営課題であり、経営トップが主導する体制構築が不可欠です。 人的資本が企業価値の源泉であるという認識のもと、経営トップがリーダーシップを発揮し、全組織的な取り組みとして推進することが成功の鍵となります。

具体的には、

  • CEO・CHROをトップとするプロジェクト体制の確立
  • 経営会議や取締役会での定期的な議論の場の設定
  • 各部門の責任者を巻き込んだ横断的な推進体制の構築
  • プロジェクト事務局の設置による実行支援体制の整備


経営陣主導のプロジェクト体制により、人事部門だけでなく事業部門も含めた全社的な取り組みとして人的資本経営を位置づけることができます。これにより、経営戦略と人的資本戦略の一体化と全社的な意思統一が促進されます。


ステップ2:人的資本の現状分析と可視化

戦略策定の土台として、組織の人的資本の現状を客観的に把握し、可視化することが重要です。

人材データの体系的な収集・分析により、組織の強みと課題を明確にし、戦略的な意思決定の基盤を構築します。具体的なデータの棚卸しと活用方法は次の通りです。


表5. データの棚卸しと活用方法
 データ項目 活用方法
 所属 部門ごとの人材バランスの把握
 勤続年数 定着率分析、昇進・評価の指標
 異動履歴 キャリアパスの可視化
 職歴 社内外での経験の活用、適材適所の配置          
 キャリア 成長過程の分析、将来のリーダー育成
 有資格 専門スキルの活用、業務最適化
 研修受講情報   スキル習得状況の確認、育成方針策定
 実績 貢献度の可視化、評価の指標
 評価 適正な報酬・昇進の判断材料

出所:大和総研作成


これらのデータを統合的に分析することで、人的資本の強みと課題を明確にし、次のステップでのギャップ分析の基盤を構築します。既存のHRシステムやサーベイデータを活用しつつ、必要に応じて新たなデータ収集の仕組みを整備することが有効です。


ステップ3:「As is - To be ギャップ」の定量把握

現状と将来あるべき姿のギャップを定量的、定性的に把握し、必要な施策の方向性を明確にします。 中期経営計画や事業戦略を踏まえ、「将来必要な人材の質と量」と「現状の人材ポートフォリオ」のギャップを分析します。

  • 将来の事業構想に基づく人材要件の定義:

  事業戦略の実現に必要なスキル・経験・マインドセットを明確化

  • 中期的な人材ポートフォリオ計画の策定:

  部門・職種・スキル別の必要人材の質と量を具体化

  • ギャップ分析の実施と定量化:

  現状人材と将来必要人材のギャップを数値化し可視化


このギャップ分析は、経営陣で共有し、全社的な課題として認識を合わせることが重要です。ギャップを埋めるための大きな方向性について経営レベルでの合意を形成した上で、人事部門を中心に、事業部門とも連携して具体的な計画の策定を進めます。


ステップ4:人的資本戦略とKPIの設定

ギャップ分析に基づき、具体的な目標と評価指標を設定し、実行計画を策定します。 人的資本投資の成果を測定可能にするKPIと行動計画を策定することで、経営戦略と人的資本戦略の連携を強化し、進捗管理の基盤を構築します。

  • 人的資本に関する定量的・定性的KPIの設定
  • KPIの設定根拠と経営戦略との関連性の明確化
  • 部門ごとの目標と実行計画への落とし込み
  • 達成時期と中間マイルストーンの設定


人材版伊藤レポート2.0が指摘するように、KPIは単なる定量指標だけでなく、「企業理念や企業文化の浸透度、自社戦略の理解度、組織とのエンゲージメントレベル等の定性的な指標」も含めて総合的に設計することが重要です。これにより、数値だけでなく組織の質的変化も適切に評価できる仕組みを構築します。


ステップ5:経営戦略と連動した施策展開

設定した戦略とKPIに基づき、具体的な施策を実行します。施策は経営戦略との連動を常に意識し、優先順位をつけて展開します。

主要な施策領域としては以下の5つに区分できます。


表6.経営戦略と連動した施策展開
施策領域 具体的な施策
ガバナンス体制の強化   - 指名委員会への社外取締役登用
- 役員報酬と人的資本KPIの連動
- サクセッションプランの体系化
組織・企業文化の変革 - 企業理念と人的資本経営の一体化
- CEO・CHROと従業員の対話機会の創出
- 変革を促進する行動様式の定着
人材開発・育成の強化 - 戦略的リスキリングプログラムの展開
- 社内外の学習機会の拡充
- キャリア自立支援と公募制の拡大
採用・配置の最適化 - 動的な人材ポートフォリオ計画の運用
- 専門人材の戦略的獲得
- 多様な人材の活躍促進
働く環境の整備 - 健康経営とウェルビーイングの推進
- 業務のデジタル化によるリモートワーク環境の整備      
- 柔軟な働き方の促進

出所:大和総研作成


これらの施策を経営戦略と有機的に連携させながら推進し、定期的に進捗と効果を検証することで、人的資本経営の実効性を高めていきます。

人的資本経営の5ステップは、一度実施して終わりではなく、PDCAサイクルとして継続的に改善していくことが重要です。経営環境の変化や事業戦略の進化に応じて、人的資本戦略も柔軟に見直し、中長期的な企業価値向上につなげていきましょう。


人的資本経営の実践で企業価値を高めよう

人的資本経営の実践で企業価値を高めよう
本記事では、人的資本経営の重要性と実践ステップを解説しました。中長期的な企業価値の向上と競争力強化には、経営戦略と人的資本戦略の連携が不可欠です。

人的資本経営を効果的に推進するには「現状分析」「ギャップの把握」「戦略策定」「施策実行」という体系的なプロセスが重要です。これらを経営トップの主導で実践することで、人的資本の価値最大化と企業価値向上を実現できます。


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