データヘルス計画とは?目的や策定ポイントをわかりやすく解説

 データヘルス計画は、健康保険組合が加入者の健康データを活用して、効率的な保健事業を実施するための取り組みです。企業と健康保険組合が連携することで、加入者の健康増進と医療費適正化を同時に実現できます。

本記事の前半では、データヘルス計画の概要や目的、企業と健康保険組合が連携して推進する「コラボヘルス」のメリットを解説します。後半では、効果的なデータヘルス計画を策定・実行するためのポイントをご紹介します。

データヘルス計画とは?

 まずはデータヘルス計画の概要を説明します。以下の項目に沿って解説します。

  • データヘルス計画の目的
  • 厚生労働省が推進する取り組み
  • 2024年度より第3期データヘルス計画がスタート
  • データヘルス計画の根拠法令と策定する運営主体

データヘルス計画の目的

データヘルス計画の目的は、健康保険組合が加入者(企業の従業員とその家族)の健康データを活用・分析し、効率的かつ効果的な保健事業を実施することです。

具体的には、健診結果データや医療情報(レセプト)などを分析し、加入者の健康課題に応じた保健指導や予防・健康づくりを行います。例えば、病気の罹患や重症化を予防することで限りある医療資源を必要以上に消費せず、保健事業を効果的に実施できるようになります。

厚生労働省が推進する取り組み

データヘルス計画は、厚生労働省が2015年度から、保健事業の運営・実施主体である保険者に対して実施を義務付けている取り組みです。

保険者は、データヘルス計画の策定及び実施を通じて、加入者の健康増進を実現することが求められています。その結果、医療費の適正化や加入者の人生の質の向上、事業主にとっては人的資本経営(※健康経営)にプラスになることなどが期待されています。

保険加入者の健康データを活用・分析し、個人の状況に応じて効率的な保健指導や予防・健康づくりを行います。ここでいう「健康データ」に該当するのは、健診結果の情報や医療情報(レセプト)などです。

※ 健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

2024年度より第3期データヘルス計画がスタート

データヘルス計画は2015年度から始まり、以下の通り期間が定められています。

  • 第1期…2015年度〜2017年度
  • 第2期…2018年度〜2023年度
  • 第3期…2024年度〜2029年度

2024年度から開始された第3期データヘルス計画においては、これまでの実績を精査した上で、策定された計画に対する具体的な成果(アウトカム)を明示することが求められています。

保健事業全体の目的と目標を踏まえ、それぞれの事業の目標を定期的に評価し、改善していくこととなります。開始から3年後の中間報告、6年後の最終報告で具体的な成果を出すためには、早期に課題を発見することが大切です。定点で成果を把握し、保健事業の見直しを行うことが欠かせません。

大和総研では、健康保険組合向けに、第3期データヘルス計画実行を支援するサービスを提供しています。各年度の成果や実施量を定量的に把握し、それぞれの事業の目標の評価・改善をサポートするサービスです。第3期データヘルス計画の作成・実行でお困りの方は、下記よりお問い合わせください。

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データヘルス計画の根拠法令と策定する運営主体

データヘルス計画の根拠法令及び指針には以下の3つがあります。

  1. 国民健康保険法に基づく保健事業の実施等に関する指針
  2. 健康保険法に基づく保健事業の実施等に関する指針
  3. 高齢者の医療の確保に関する法律に基づく保健事業の実施等に関する指針

①を担うのは都道府県及び市町村が保険者となる市町村国保、または業種ごとに組織される国民健康保険組合です。②を担うのは全国健康保険協会(協会けんぽ)と健康保険組合保険者の2種類、そして③を担うのは後期高齢者医療広域連合です。

これら保健事業の運営主体である保険者が、データヘルス計画を策定します。以降の記事では、健康保険組合に焦点を当てて解説をしていきます。

なお、データヘルス計画策定の手引きについては、厚生労働省のホームページでご確認ください。

データヘルス計画が推進されている背景

データヘルス計画が推進されている背景について次の2点から解説します。

  • 人的資本への投資としての健康管理
  • 健康寿命延伸の国家戦略

人的資本への投資としての健康管理

女性や高齢者の就業が増加する一方、少子高齢化により労働力人口の拡大は限界を迎えています。今後は、従業員一人ひとりのパフォーマンス向上がより求められるようになります。

このような状況下、企業においては従来型の物的投資にとどまらない、人的資本への戦略的投資が注目を集めています。

人的資本への投資とは、従来の「人件費(コスト)」という発想から脱却し、企業の持続的競争力の源泉として人材を『資本』として捉え直し、その価値を最大化するために投資することです。

この投資においては、個々のスキルや能力、経験を高める観点だけではなく、精神的・身体的な健康を維持・向上させる観点も重視されています。

企業の具体的な取り組みとして、健康診断の実施、健康促進プログラムの提供、メンタルヘルスのサポート、健康的な職場環境の整備、ワークライフバランスの促進、従業員のライフログ(睡眠、歩数、食事など)を記録するPHR(Personal Health Record)の導入、などが挙げられます。

健康寿命延伸の国家戦略

高齢化社会の進行に伴い、個々の生活の質を高め、持続可能な社会を実現するためにも、健康寿命を延ばすことが国の重要課題として位置づけられています。

第2次安倍内閣の経済政策(アベノミクス)の成長戦略に当たる日本再興戦略では、戦略市場創造プランの一環として「国民の健康寿命の延伸」が掲げられました。

2024年6月21日には「経済財政運営と改革の基本方針2024〜賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現〜」(以降、骨太方針2024)が閣議決定されました。この中では、中長期的に持続可能な経済社会の実現に向けた、主要分野ごとの基本方針と重要課題の一つとして、予防・重症化予防・健康づくりの推進が掲げられています。

出所:経済財政運営と改革の基本方針 2024 について│内閣府

データヘルス計画の効果

データヘルス計画の主な効果は、以下の通りです。

  • 医療リソースの適切な配分
  • 健康の維持・増進

医療リソースの適切な配分

データヘルス計画を通じて従業員の健康状態を包括的に把握し、予防・健康管理に重点を置いた施策を展開することにより、医療リソースの最適な配分が実現されます。

日本の医療制度を持続可能なものとするためには、限りある医療リソースを適切に配分し、必要な人に必要な医療が行き渡る仕組みを整えることが不可欠です。

データヘルス計画による生活習慣病の予防や重症化防止の取り組みは、医療機関の負担軽減と社会全体の健康水準向上に寄与するものです。

出所:令和5年度 健康保険組合 決算見込(概要)について-5年度決算見込と今後の財政見通しについて-│健康保険組合連合会

健康寿命の延伸

データヘルス計画の推進により、健康寿命の延伸も期待できます。

前述の「骨太方針2024」でも、「健康寿命を延伸し、生涯活躍社会を実現する」ための取り組みとして、予防・重症化予防・健康づくりの推進が掲げられています。

出所:経済財政運営と改革の基本方針2024 について│内閣府

健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことです。

厚生労働省の2022年のデータによると、日本の平均寿命は男性81.05歳、女性87.09歳であり、健康寿命との差はそれぞれ約9年、約12年とされています。この差を縮めることが重要な課題とされており、健康寿命の延伸は、生活の質(QOL)の向上や医療・介護費の抑制にも寄与すると考えられます。

予防医療や生活習慣の改善を適切にサポートすることは、加入者の健康寿命を延ばすことに直結します。健康寿命の延伸により、現在の課題である健康寿命と平均寿命の乖離が縮小されることが期待されます。

出所:平均寿命と健康寿命|厚生労働省

データヘルス計画に企業が関わるメリット

健康保険組合が主体となって策定・実施するデータヘルス計画ですが、企業が積極的に関わることで、以下のようなメリットが得られます。

  1. 効率的な健康経営を推進できる
  2. 事業の質・生産性を向上できる
  3. 健康経営優良法人に認定される可能性が高まる

それぞれ詳しく解説します。

1.効率的な健康経営を推進できる

健康経営とは、企業が従業員の健康管理を経営的な視点で捉えて、健康保持・健康増進への取り組みを戦略的に実践することです。

健康経営の実践において、データヘルス計画の統計データをうまく活用できれば、効率よく推進することが可能となります。この活用で重視されているのが、健康保険組合と企業が連携をするコラボヘルスです。

企業は、残業時間や年次有給休暇消化率、病欠日数など人事・労務に関するデータを蓄積しています。一方、健康保険組合は、健康づくりや疾病予防のノウハウや健診結果データ、医療情報等の豊富なデータを保有しています。これらを連携させ、かつ企業と健康保険組合の協力体制を構築し、役割分担することで効果的なコラボヘルスの実現が可能となります。

具体例には前者が健康づくりのための施策実施や職場環境の整備を担当し、後者は健康データの分析や特定健診・特定保健指導を担います。企業は効率よく健康経営を実施できるようになり、健康保険組合としてもデータヘルスをスムーズに実施できるようになるというメリットがあります。

※ 健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

2.事業の質・生産性を向上できる

健康管理が行われることで、従業員の健康リスクの低下につながります。また、プレゼンティーイズム(出社しているが健康問題により業務効率が低下している状態)の改善が見込まれることで、企業全体の生産性が高まります。

健康な従業員は仕事のパフォーマンスを上げやすく、事業の質や生産性を向上できます。また、病気や体調不良などによる欠勤(アブセンティーイズム)が減少することも、企業にとってプラスになるでしょう。

3.健康経営優良法人に認定される可能性が高まる

データヘルス計画の推進により、健康経営優良法人に認定される可能性が高まります。

健康経営優良法人は、2016年に経済産業省が創設した「健康経営優良法人認定制度」によって選出されます。

健康経営優良法人認定制度とは、「特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を『見える化』することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから社会的な評価を受けることができる環境を整備することを目的に、日本健康会議が認定する顕彰制度」です。

経済産業省は、健康経営の普及促進に向けて、健康・医療新産業協議会健康投資ワーキンググループ(日本健康会議健康経営500社ワーキンググループ及び中小10万社健康宣言ワーキンググループと合同開催)において「健康経営優良法人認定制度」の設計を行っています。

引用:健康経営優良法人認定制度│経済産業省

認定されることで健康管理への取り組みをアピールできるため、優秀な人材の確保やイメージアップにつながります。また、健康経営優良法人に認定された企業は、保険会社の保険料の割引を受けられたり、金融機関からの融資・金利の優遇を受けられたりするメリットもあります。

健康経営優良法人の申請で提出する「健康経営度調査票」には、保険者との連携について記入する設問があります。回答項目が多いほど評価点を得られやすいことから、データヘルス計画を推進する健康保険組合とのコラボヘルスを積極的に進めることは、認定取得の可能性を高める戦略として有効です。

データヘルス計画を策定・推進する際のポイント

健康保険組合がデータヘルス計画を策定するポイントは以下の通りです。

  • PDCAサイクルに基づいた計画立案
  • 適切なデータ分析の実施

PDCAサイクルに基づいた計画推進

データヘルス計画の推進は、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルに基づいて行うことが重要です。健康保険組合は、保健事業のサイクルを以下の流れで進めます。


表. PDCAサイクルに基づいたデータヘルス計画の推進
PDCAサイクル 内容
P:データ分析に基づく事業の立案 健康課題に応じた保健事業の設計
D:保健事業の実施 健康課題を解決するために設計した保健事業を実施
C:データ分析に基づく保健事業の効果検証・評価 計画策定時に設定した評価指標で目標達成と進捗を確認
A:次のサイクルに向けた保健事業の改善策の立案 健康課題を解決するために保健事業の構成が適していたかを確認

出所:データヘルス計画作成の手引き(第3期改訂版)│厚生労働省

上記を踏まえて、事前に重要業績評価指標(KPI)や目標値を定めておくことが大切です。

適切なデータ分析の実施

データヘルス計画において、健診やレセプトデータを積極的に活用することは欠かせません。 例えば以下のようなデータ活用により、事業の実効性を高められるでしょう。

  • 健康保険組合の医療費状況の詳細を把握して分析する
  • 健康リスクを階層化して分析する
  • 取り組みの効果が高い対象者を抽出して改善に活かす

企業と健康保険組合の協働によるコラボヘルスの推進

データヘルス計画を成功させるためには、企業と健康保険組合が協力し、コラボヘルスを推進することが重要です。

この連携体制により、企業による健康経営と健康保険組合によるデータヘルス計画の実効性を高め、相乗効果が期待できます。

健康保険組合が有効なデータヘルス計画を立案し、計画を推進するには、財源と人材の確保が欠かせません。特に財源については、企業が健康投資の重要性を理解し、積極的に協力することが重要です。

企業の理解が深まることで、健康保険組合と連携した健康施策への支援や、費用負担の調整が円滑に進む可能性があります。

また、企業が組織内の健康に対する文化を醸成することで、加入者である従業員やその家族への働きかけもしやすくなります。

大和総研では、人的資本経営・コラボヘルスの支援サービスを提供しています。従業員の健康増進と企業価値の向上の実現に向けた人的資本経営や、健康保険組合との連携によるコラボヘルスの推進を支援します。

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データヘルス計画の策定・計画の実行に関するご相談は「大和総研」まで

本記事では、データヘルス計画の概要や目的、企業と健康保険組合の連携によるメリットを解説しました。企業の成長には、従業員の健康が欠かせません。

健康保険組合が策定するデータヘルス計画に企業が積極的に関わることで、より効果的な健康経営を進められるようになります。

大和総研では、データヘルス計画の策定・実行をサポートしております。各年度での保健事業の成果・実施量を定量的に把握し、それぞれの事業の目標を評価・改善するサービスです。データヘルス計画の策定や計画の実行にお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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