GX経済移行債は、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」(2023年成立)に基づき、日本政府が発行する債券です。10年間で20兆円規模のGX経済移行債の発行が見込まれています。債券発行により調達する資金は、同期間での150兆円超の官民によるGX(グリーントランスフォーメーション)投資の実現に向けた、政府による先行投資支援の財源となります。なお、GX経済移行債の償還財源は、カーボンプライシング制度の導入で将来的に得られる資金(化石燃料賦課金や特定事業者負担金)が充当されます。
GX経済移行債は、他の国債と同一の金融商品として統合して発行されるか、もしくは、国際基準への準拠について第三者評価機関からセカンド・パーティー・オピニオンを受け、クライメート・トランジション利付国債(CT国債)として発行(個別発行)されます。初年度となる2023年度の入札では計1.6兆円程度、2024年度は計1.4兆円程度発行され、2025年度は計1.2兆円の発行が予定されています(各年度とも、10年債と5年債)(※1)。いずれもCT国債での発行です。
CT国債は、世界初の政府によるトランジション・ボンドです。日本は産業構造上、再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギーに一気に転換することが難しいため、移行の実現に必要となる資金を調達するトランジション・ボンドが選択されました。
日本政府が2023年11月に公表したクライメート・トランジション・ボンド・フレームワーク(※2)では、調達資金の使途は、「適格クライテリア」のうち、「基本的条件」を満たす適格事業とされています。適格クライテリアとしては、エネルギー供給側では、再生可能エネルギーの主力電源化など5項目が、エネルギー需要側では、徹底した省エネルギーの推進、製造業の構造転換(燃料・原料転換)など16項目が挙げられています(重複する項目あり)。また、基本条件としては、①民間のみでは投資判断が真に困難な事業、②GX達成に不可欠な産業競争力強化・経済成長・排出削減に貢献するもの、③企業投資・需要側の行動を変える規制・制度面との一体性、④国内の人的・物的投資拡大につながるもの、が挙げられています。
上記に加え、産業競争力強化・経済成長に係る要件(3つ)と、排出削減に係る要件(3つ)の双方について、それぞれ一つずつを満たす類型に適合する事業を支援対象候補として、優先順位付けが行われています。
CT国債の発行により調達した資金は、これまで水素還元製鉄等の革新的技術の研究開発などが含まれるグリーンイノベーション(GI)基金(※3)や、蓄電池の製造サプライチェーン強靭化支援等に充当されています。今後は、政府による先行投資をいかに民間投資につなげていくかが課題となります。
参考文献
(※1)財務省ウェブサイト「クライメート・トランジション利付国債」https://www.mof.go.jp/jgbs/topics/JapanClimateTransitionBonds/index.html
(※2)日本政府が発行するCT国債について、発行体の移行戦略やそれに基づく資金使途等などのルールをICMA(国際資本市場協会)のグリーンボンド原則等の国際基準に沿って定めた枠組み。
(※3)2050年カーボンニュートラル実現に向けて、経済産業省がNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)に設置した基金。一定条件を満たす企業等に対し、最長10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援する。
レポート・コラム
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