企業の社会的責任(CSR)

 CSR(企業の社会的責任)とは、自社のビジネスが環境や社会に与える影響に責任を持つ企業行動のあり方を指す言葉です。日本では2000年代以降にCSR活動が本格的に展開されるようになりました。ここでは、CSRとは何か、ESGやSDGsなどとの関係、国際標準、企業にとっての取り組む意義、そして企業がCSR活動を推進する上でのポイントについて解説します。

CSRとは

 CSRとは、Corporate Social Responsibilityの頭文字をとったもので、「企業の社会的責任」と訳されるのが一般的です。一例として、経済産業省は「企業が社会や環境と共存し、持続可能な成長を図るため、その活動の影響について責任をとる企業行動であり、企業を取り巻く様々なステークホルダー(利害関係者)からの信頼を得るための企業のあり方」を指すもの、と説明しています(*)。CSR活動の例としては、環境に配慮した商品の開発や生産体制の構築、サプライチェーンにおける人権侵害の防止、法令順守や情報開示を通じた透明性の確保から、自然保護や社会貢献のための活動まで、ビジネスの内外における多岐に亘る活動が挙げられます。

 そのため、CSRはSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けた企業の取り組みや、経済的な利益と社会的な価値の両方を同時に創出することを目指すCSV(共通価値の創造)の考え方と重なるところがあります。CSRに取り組むことで、環境・社会・ガバナンス要素を投資判断に組み込むESG投資を行う投資家に評価されることも考えられます。企業行動としてのCSR、投資家にとってのESG、国際開発目標であるSDGs、経営理念としてのCSVは、それぞれ異なる概念ではあるものの、企業活動、経済、そして社会全体のサステナビリティを高めるための大きな枠組みとして捉えられます。

CSRの国際標準であるISO26000

 企業ごとの独自性が色濃く出やすいCSRですが、一般的な指針としての国際標準は存在します。2010年、国際標準化機構(ISO)は、組織の社会的責任に関する国際規格としてISO26000を発行しました。ISO26000では「社会的責任の原則」として、「説明責任」、「透明性」、「倫理的な行動」、「ステークホルダーの利害の尊重」、「法の支配の尊重」、「国際行動規範の尊重」、「人権の尊重」の7項目が挙げられています。これらは、組織が社会的責任を果たすために不可欠なものであると当時に、外部からの評価や検証において重視される点でもあります。もっとも、ISO26000は企業やその他の組織に向けて指針を提供するものであり、認証の取得が求められるものではありません。また、2012年にはISO26000を基に(技術的内容および構成を変更することなく)、日本独自の規格として日本産業規格(JIS)Z26000(JISZ26000)が作成されています。

CSRはステークホルダーからの信頼獲得につながる

 CSRに対するステークホルダーの関心は、グローバル化と情報技術の革新という大きな潮流の中で、欧米を中心に強まってきました。企業が国境を超えて事業を展開し、サプライチェーンを複雑化・高度化する過程で、事業を行う国々における環境破壊や、労働者の人権侵害が発生しました。同時に、インターネットの普及に代表される情報技術の発展は、そのような問題を瞬時に世界に伝えました。市民団体や非政府組織(NGO)などを含め、企業を取り巻く様々なステークホルダーからの批判が高まり、デモや抗議活動の様子がメディアを通じて拡散され、問題が可視化されていきます。

 このような流れの中で、企業にとってより直接的な影響を及ぼすステークホルダーである投資家(株主)や消費者(顧客)、労働者(従業員)の意識や行動の変容も顕在化していきます。投資家に生じた変化は、社会的責任投資(SRI)の拡大という形をとって現れ、企業にはCSRの取り組みとその内容を投資家に適切に伝えるための情報開示が要求されるようになりました。また、特に欧米においては、消費者の間で企業に対して環境や人権、労働面に配慮した製品やサービスを求める傾向が強まりました。労働者の視点からは、職場としての企業の選択においてCSRの取り組みが重視されるようになります。CSR活動への積極的な取り組みは、株主や顧客、従業員といったステークホルダーからの信頼を得ることにつながるという点で、企業にとって意義があります。

企業がCSR活動に取り組む上で重要なこと

 CSR活動をステークホルダーからの信頼獲得につなげるためには、いくつかのポイントがあると考えられます。まず、自社が企業活動を通じて社会的責任を果たす上での重要課題を整理し、それらと関連付けた取り組みとすることです。これは、CSRを企業活動の中で戦略的に位置付けるためにも重要な点です。次に、日本を含め国際的に広く共有された指針や原則を踏まえることです。CSR活動一般に関するものとしては前述のISO26000がありますが、特定の課題ごとに国際規範や行動基準が存在している場合もあります。そのため、取り組む課題ごとに対応を検討するのがよいでしょう。そして、取り組みの情報開示です。サステナビリティに関する各種の開示資料をはじめ、プレスリリースやウェブサイトなども活用することで、より幅広いステークホルダーに活動内容を伝えることができるでしょう。

参考文献

(*)経済産業省「企業会計、開示・対話、CSR(企業の社会的責任)について」参照。ステークホルダーに関する補足は大和総研追記。
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/index.html

レポート・コラム

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