レガシーマイグレーションとは?4つの課題や成功の鍵、AI活用の動向を解説

 近年、企業の競争力を左右する要素として、IT基盤の柔軟性と俊敏性の重要度がますます高まっています。特に、長年にわたり業務を支えてきたレガシーシステムは、技術的負債や人材不足といった課題を抱えており、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の大きな障壁となっています。
 本記事では、こうした背景を踏まえ、レガシーマイグレーションの基本的な考え方から、よくある課題、成功に導くためのポイント、そしてAIの活用によってレガシーマイグレーションが短期間・高品質・低コストで実現できるようになっている現状までを網羅的に解説します。

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レガシーマイグレーションとは

レガシーマイグレーションとは

 レガシーマイグレーションとは、主にメインフレームを用いて構築された、以前からある遺産とも言える情報システム(レガシーシステム)を新しいテクノロジーを用いたシステムに置き換えることです。通常はオープンで標準的なシステムに移行することを指し、クラウドへの移行も選択肢の1つとなっています。

モダナイゼーションとの違い

 レガシーマイグレーションと関連する用語として、「モダナイゼーション」という用語があります。
 モダナイゼーション(modernization)とは、英語で「近代化」を意味し、IT分野においてはレガシーシステムを業務プロセスの変革を伴ってモダンな構造へと抜本的に作り替えることを指します。
 一方で、マイグレーション(migration)は英語で「移住」や「移動」を意味し、IT分野ではシステムを別の環境に移行することを指します。レガシーマイグレーションは、レガシーシステムを別の環境に移行することを指しますが、業務プロセスの変革を伴わないという点がモダナイゼーションとは異なります。

レガシーシステムが抱える課題

 レガシーシステムは古い技術や仕組みで構築されたシステムであり、多くの課題を抱えています。

複雑化・ブラックボックス化

 レガシーシステムは、長年の運用によって複雑化・ブラックボックス化しており、新技術の導入や業務改善などのDXの推進を阻む技術的負債となっています。これにより、システム改修のたびに高コスト・高リスクがともない、企業の俊敏性や競争力を著しく低下させています。

技術者の不足

 レガシーシステムに精通した技術者の高齢化や退職により、保守・運用を担える人材の確保が困難になっています。これにより、保守・運用体制が手薄になり、システムトラブルやセキュリティ事故などのリスクが高まっています。また、企業はレガシーシステムに精通した若手技術者の育成に消極的であるため、ベテラン技術者の暗黙知が若手技術者に継承されにくい状況が属人化・ブラックボックス化を助長しています。

保守コストの増加

 老朽化・肥大化したシステムは、保守・運用に多大なコストを要します。特に、ベンダーロックインや多重下請け構造によって、非効率な保守体制が常態化しており、企業のIT予算の大半が既存システムの維持に費やされている状況です。これが新規投資やイノベーションの阻害要因となっています。

レガシーシステムからの脱却が求められる市場背景

 日本企業は、急速に進化するデジタル技術への対応が求められており、旧来のレガシーシステムからの脱却が急務となっています。背景には、経営の柔軟性や競争力の向上を目指すDXの推進があります。特に、「2025年の崖」と呼ばれる課題が、企業のシステム刷新を後押しする大きな要因となっています。

『2025年の崖』が鳴らした警鐘

 2018年に経済産業省が「DXレポート ~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~」を公開しました。レポートの中で使われた「2025年の崖」という言葉は、老朽化・複雑化したレガシーシステムがDX推進の障害となり、企業の競争力低下や2025年以降に最大12兆円の経済損失を招く可能性があるという課題について警鐘を鳴らすものでした。レポートでは、以下のような課題が挙げられました。

  • ブラックボックス化した状態ではデータ活用が進まずDXが実現できない
  • ブラックボックス化した状態を解消できない場合、システムの維持管理費が高額化する
  • 技術者の高齢化や退職などにより保守困難なシステムが増加する
  • レガシー基盤の中には製造・販売・サポート終了を予定しているものもあり、システムの見直しが必要

『2025年の崖』を迎えて

 その後2025年を迎え、経済産業省は「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」(2025年5月28日)を公開しました。このレポートでは、以下のような状況が報告されました。

  • 産業界のDXおよびレガシーシステム脱却の進捗は依然としてスピード感に欠ける
  • レガシーシステムの移行にあたり事業に影響を及ぼす問題事例が発生している
  • レガシーシステムが足枷となり最新のデジタル技術の活用がスムーズに進められない問題が発生している

 また、レポートでは、企業の経営層に対してIT資産の可視化・内製化・標準化対応・人材育成などの対策を強く求めています。

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引用・参照元:

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レガシーマイグレーションを進める目的・必要性

 レガシーシステムからの脱却により、変化に強い柔軟なIT基盤を構築し、競争力のあるサービス提供が可能になります。

運用・保守性の向上、新技術との連携

 レガシーシステムは古い基盤・技術の制約により新たな機能の追加や新技術との連携や組み込みが困難ですが、モダンな基盤・技術を利用することにより、機能の追加・改修や、新技術の活用が容易となります。

運用・保守コスト削減

 システムの標準化や内製化が進み、長期的なITコストの削減が可能になります。特に、ベンダーロックインの解消や属人化の排除により、効率的な運用体制が構築されます。

属人化の解消

 ブラックボックス化したシステムの構造を明確にすることができるため、文書化されておらず特定の有識者の暗黙知に依存していた状況から脱却できます。

人材確保

 モダンな基盤や言語を扱える技術者の数はレガシーな基盤や言語に精通した技術者の数よりも圧倒的に多いため、運用・保守に必要な人材を確保しやすくなります。

IT資産の整理

 レガシーマイグレーションは、企業が保有するIT資産の可視化と整理を促進する機会となります。これにより、将来的なシステム拡張や再構築の計画が立てやすくなり、ITガバナンスの強化にもつながります。

レガシーシステム脱却の手法

 レガシーシステムを脱却するための手法は複数あり、システムの特性や課題に応じて適切な手法を選択することが重要です。ここでは、レガシーマイグレーションだけでなくモダナイゼーションも含め、レガシーシステムを脱却するための手法を紹介します。

モダナイゼーションの手法

リビルド

 ビジネスや業務を起点に、業務ロジックやプラットフォームを含めたシステム全体を抜本的に作り直す手法です。5年後・10年後もサスティナブルに事業環境の変化に対応が必要なコア業務などに適用されます。

レガシーマイグレーションの手法

リライト

 アプリケーションのロジックを変更することなく、プログラミング言語とプラットフォームを移行する手法です。塩漬けやスリム化(廃止)はできない重要業務に対して、移行のリスクを抑えて早期にレガシーシステムから脱却したい場合などに適用されます。
  (例)COBOL ⇒ Java、メインフレーム ⇒ 分散系 / クラウド

リホスト

 アプリケーションの言語や処理ロジックはそのままに、ハードウェアやミドルウェアなどのプラットフォームのみを移行する手法です。ハードウェアやミドルウェアのベンダーサポートが終了する場合などに適用されます。
  (例)メインフレーム ⇒ 分散系 / クラウド

塩漬け

 システムの更改を行わず、レガシー環境のまま利用を継続する手法です。たとえば、法制度の廃止によりシステムの利用終了が予定されている場合など、コストをかけて更改することが合理的でないケースに適用されます。

スリム化(廃止)

 時代の変化とともに不要と判断した業務およびシステムを廃止する手法です。多少の業務影響を許容し、業務整理を行う必要があります。

 これらを表で示すと下図のようになります。

表. レガシーシステム脱却の手法と特徴

(出所:大和総研作成)

コラム:レガシーマイグレーション市場の動向と最適なアプローチ手法

 近年のレガシーマイグレーション市場では、比較的リスクが低く、コストも抑えられるリホスト型マイグレーションの採用が増えています。確かにリホストはメインフレームからの脱却という点で効果がありますが、COBOL資産を新環境へ移行する際には、言語特有の保守性や拡張性の制約が残るケースが多く見られます。
 そのため、大和総研ではリライト型マイグレーションツールの活用を推奨しています。リライトでは、コード変換の品質を担保しながらシステム構造を最適化できるため、移行後も安定した保守運用を実現し、長期的なシステム資産の価値を維持することが可能です。
 ただし、最終的には、対象資産の特性やユースケースに応じて、リホスト・リライト・リビルドなどの手法を適切に使い分けることが重要です。各社の経営戦略や業務要件に合わせて最適な移行アプローチを選択することこそが、真のレガシー脱却への第一歩であると考えています。

レガシーマイグレーションにおける課題

 レガシーシステムのマイグレーションを行う方針を決定し、いざプロジェクトを推進する段階になっても、レガシーシステムの刷新は難易度が高く、プロジェクトが途中で頓挫してしまう場合があります。多くの企業が直面するレガシーマイグレーションの課題は大きく4つあります。

コストが高額

 レガシーシステムは、企業の基幹業務に深く結びついていること、規模が巨大であることが多い傾向にあります。そのため、既存システムの現状分析や影響調査に多くの工数と専門知識が必要になり、移行には大規模な投資が必要になる場合が多くあります。
 また、業務に影響が出ないよう、新旧システムを並行稼働させる場合、運用・保守のコストが二重に発生することになります。

プロジェクトの長期化

 レガシーマイグレーションは、現行業務の理解、設計の再構築、テスト、移行後の安定運用まで多くの工程をともないます。業務に支障が出ないよう新旧システムの並行稼働や段階的な移行が必要となる場合も多く、プロジェクトが長期化する傾向があります。
 また、社内の意思決定やベンダーとの調整に時間を要することがあります。

人材の確保が困難

 現在、市場全体で、メインフレームやCOBOLなどのレガシーシステム・レガシー言語に熟練した技術者が高齢化などにより減少しています。メインフレームなどは今後市場が縮小していくため、企業は若手技術者の人材育成にも消極的で、限られた高齢の技術者に複数の案件が集中しており、逼迫した状況です。

ブラックボックス化したシステムの変換が困難

 レガシーシステムは業務に密接に関わっており、業務ロジックが複雑で、文書化されていない場合が多くあります。他システムとの連携や依存関係が多く、単純な置き換えができないことも移行の障害となります。

複雑なCOBOLのコード変換

 代表的なレガシーシステムであるメインフレームで主に使われるCOBOLで書かれた既存の業務ロジックは、構造が古く、設計書が不十分な場合が多いため、他言語への変換が技術面でも運用面でも困難です。COBOLプログラムを技術者の多いJavaのプログラムに変換しようと変換ツールを用いても、JaBOLと呼ばれるようなCOBOLの構造を引き継いだコードが出力されることがあります。その場合、COBOLとJavaの両方の知識を持つ技術者が必要になり、保守性が低下し、結果的に新システムがレガシー化するリスクが生まれます。

レガシーマイグレーションを成功に導くポイント

経営戦略やIT戦略を踏まえた対応策の見極め

 レガシーシステムは企業の中枢を担うシステムである場合が多く、マイグレーションには大規模な投資を要します。経営戦略やIT戦略を踏まえ、注力する事業領域や新技術の取り込みなど将来の目指す姿を見据えて対応策を選ぶことが重要です。対象のレガシーシステムだけでなく、関連するシステム、場合によっては社内全体のシステムを俯瞰して、システムの特性や利用形態に応じた選別が必要となります。

AIと人の適材適所の分担

 近年、生成AIやAIエージェントの技術進化により、AIを用いたコード解析・変換・検証などが可能なソリューションが提供されています。大規模なレガシーシステムのマイグレーションは作業量が多く、人手では対応しきれずプロジェクトが頓挫するというケースもありますが、人が行うべき領域とAIに任せる領域を見極めて適切にAIを活用することで、効率化と品質向上を両立させ、プロジェクトの完遂を現実的なものにすることができます。
 例えば、以下のような考え方でAIと人の対応領域を分担できます。

  • 「リビルド」は、将来的なビジネスや業務のあり方を見据えて戦略的に検討すべきであり、AIではなく人が思考して作り替えるべき領域
  • 「リライト」は、業務ロジックの変更を行わない限りは安全・確実に移行ができれば良いため、AIを活用して低コストである程度機械的に進めることが可能な領域
  • 「スリム化」は、業務の整理(BPR:業務プロセスの抜本的な見直し)が必要となるため、人が担うべき領域

 このように、人が行うべき領域とAIに任せるべき領域を見極め、AIに任せるべき領域については適切なAIソリューションを活用することで、安全・確実な移行とコストと期間の削減を実現し、浮いた人的リソースをより戦略的な領域に集中させることが可能となります。

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レガシーシステム脱却におすすめのソリューション・サービス

Smartrans

 Smartransは、大和総研が提供する自律検証型AIマイグレーションツールです。コード変換にとどまらず、設計・実装・テスト・現新一致検証・ドキュメント自動生成などの工程をAIエージェントが自律的に検証を繰り返しながら実行し、属人化の解消とコスト削減を実現します。コード変換においては、COBOLからJavaへの変換をはじめ、変換前後の言語の制約がないAny-to-Any変換に対応しています。
 レガシーマイグレーションにおいて人が実施すべき領域とAIに任せるべき領域を見極め、AIに任せられる部分をSmartransに任せる適材適所の戦略が実行可能となり、レガシーマイグレーションプロジェクトの完遂を現実的なものとします。

 Smartrans|大和総研
 

レガシー脱却ソリューション

 大和総研では、IT戦略策定やレガシーシステム脱却の方針や手法の検討といった上流工程から、レガシーシステム脱却の実行、さらにその先の運用保守まで、ワンストップで支援するソリューションを提供しています。

 レガシーシステム脱却ソリューション|大和総研
 

メインフレームシェアードサービス

 メインフレームの完全脱却が難しい企業向けに、メインフレームシェアードサービスを提供しています。大和総研のデータセンターに設置されたメインフレームを論理的・仮想的に区画分割し、複数企業で共同利用することで、コスト削減・技術者不足の解消・高セキュリティの維持を実現するサービスです。

 メインフレームシェアードサービス|大和総研
 

レガシーシステムのリスクを正しく理解し、最適な移行戦略を立てよう

 レガシーシステムは、長年にわたり業務を支えてきた重要な資産である一方で、技術的負債や運用コストの増加、セキュリティリスクなど、無視できない課題も抱えています。これらのリスクを正しく理解し、現状の業務や将来のビジネス戦略に照らして最適な移行方針を検討し、関係者との合意形成を図りながら計画的に進めることが成功の鍵となります。
 今こそ、将来のあるべき姿を見据え、レガシーシステムから持続可能なIT基盤への転換を図るタイミングです。

お問い合わせ

レガシー脱却に関するご相談は、以下リンクよりお問い合わせください。
https://it-solution.dir.co.jp/l/973193/2022-05-13/322c

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