フィジカルインターネット

 フィジカルインターネットとは、インターネットの原理を物流に応用した物流モデルです。

 2024年問題を待つまでもなく、物流には「将来はモノが運べなくなる」リスクが指摘されてきました。物流業界においてドライバー不足は深刻な問題で、何も手を打たなければトラック輸送における2030年の需給ギャップは34%に達すると指摘されています(※1)。せっかく、モノを作って売りたくても3割が運べなくなるということです。そこで、物流効率を高める観点から、物流モデルそのものを見直そうと、フィジカルインターネットという概念が提唱され、その実現に向けた研究や試験が続けられています。

 物流モデルは、過去の1対1のパイプライン型から、輸送効率の向上に向けてハブ&スコープ型へと進化してきました。ただし、どうしても「空気を運ぶ」とも言われる空トラックの解消には至りません。求貨求車のマッチングサービスはありますが、それも十分ではなく個々の企業での効率向上には限界があります。

 フィジカルインターネットの考え方は、その名の通りインターネットにあります。インターネットの特徴は、①複数端末からのデータをパケットに分けて一つの回線で共有する、②それぞれのネットワークを相互に接続し、パケットデータをリレーで送るというものですが、フィジカルインターネットはこの考え方を取り入れました。荷物は、標準コンテナで小分け(パケット)にされ、複数の物流会社がシェアするトラックで運ばれます。これらは、各拠点(ルーター)を介してつながった(相互接続された)複数事業者の輸送ネットワークにより最適なルートを経由して受け手に届きます。

 フィジカルインターネットが示す物流モデルは、他社間で連携する究極のシェアリングモデルです。現在も、複数荷主による共同輸送の動きは進んでいますが、フィジカルインターネットはこれを一般化し、物流全体に広げたモデルです。とはいえ、このモデルを実現するには、ルート全体をコントロールするデジタル基盤や物流データの整備、コンテナ等の標準化など多くの課題が残っています。

 2013年、EUにおいてフィジカルインターネットを推進するアライアンス(ALICE)が設立されました。EUにおける、ロジスティクス及びサプライチェーンイノベーションの包括的な促進を狙っています。日本でも、経済産業省が「フィジカルインターネット実現会議」の初回会議を2021年6月に開催し、実現に向けたロードマップも描いています。

 将来、物流企業は、フィジカルインターネットの上で、ネットワークインフラの提供や、様々な物流サービスをアプリケーションとして提供することになるのかもしれません。

参考文献

(※1)経済産業省「持続可能な物流の実現に向けた検討会」第3回検討会資料 「物流の2024年問題」の影響について(NX総合研究所) https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/sustainable_logistics/pdf/003_01_00.pdf

レポート・コラム

2022年5月17日
フィジカルインターネットによるビジネス変革 2022年05月17日 | 大和総研 | 神谷 孝