Microsoft Azure 仮想マシンのクライアントOS展開におけるコスト比較

 こんにちは、大和総研システムインフラ第二部の井口です。

 大和総研ではクラウドを通じてお客様に価値を提供すべく、2021年度よりパブリッククラウドの推進組織(CCoE: Cloud Center of Excellence)を設置し、クラウド活用を推進しています。私はCCoEのメンバーとして、Microsoft Azureのさらなる活用のため、技術者の裾野を拡げる活動を推進しています。

 今回は、パブリッククラウドを利用したクライアントOSの構築に焦点を当て、Microsoft社のクラウドサービスである「Microsoft Azure」(以下、Azure)のIaaSやPaaSを活用したクライアントOSの展開におけるコスト比較を紹介したいと思います。

はじめに

 パブリッククラウドの2023年における市場シェアは、AWS:30%程度/Azure:20%程度/Google Cloud:10%程度(※)となっており、AWSの利用が拡がっていますが、WindowsなどのMicrosoft社の製品を利用するケースにおいては、以下2点の理由からAzureの活用が有効です。

  • 日本ではWindowsとOffice製品を使ったOA環境を構築している企業が多い傾向にあるため、M365のライセンスの割り当てなどにはAzureのMicrosoft Entra IDを使わざるを得ない状況となっており、Azureとの親和性が高い。
  • MicrosoftはWindowsの開発元であるためクライアントOS利用料の観点からも親和性が高い。

 Azureサービスを利用して仮想マシンを展開する場合、その利用コストがサービスの選択における重要な要素のひとつです。そこで、AzureのクライアントOSを展開する主なサービスについて、月額利用コストを比較しました。  

※(出所)publickey「グローバルのクラウドインフラ市場シェア、AWSがトップ維持、Google Cloudの成長率が高い。2023年第2四半期、Synergy ResearchとCanalysの調査結果」 https://www.publickey1.jp/blog/23/awsgoogle_cloud20232synergy_researchcanalys.html

Azureの仮想マシンサービス

 Azureの仮想マシンサービスの構成概要を図1に記載します。  

図1 Azureの仮想マシンサービスの構成概要(大和総研作成)

 それぞれのサービス概要は以下の通りです。

Azure Virtual Machines(以下、AVM)とは

 AVMは、AzureのIaaSでWindows仮想マシンを構築する一般的な方法です。AzureのデータセンターにあるHyper-Vで仮想化された仮想マシンを利用するサービスです。仮想マシンのサイズを選択してデプロイすることになるため、仮想マシンの利用用途に合わせたマシンスペックの設定が可能です。

Azure Virtual Desktop(以下、AVD)とは

 AVDは、DaaSで接続先となる仮想マシンをプールとして用意しておき、ユーザーからの接続に対して空いているリソースを割り当てるサービスです。AVD用に用意されたマルチセッションOSで仮想マシンを構築しておけば、1台の仮想マシンに複数のユーザーが利用することができます。

Azure VMware Solution(以下、AVS)とは

 AVSは、Azure上に構築されるVMwareプライベートクラウド環境で、Hyper-VではなくVMwareで仮想化された仮想マシンです。Azure Dedicated Hostとして構築されるため、オーバーコミットなどAzureデータセンターのリソースを最大限活用できます。また、VMware環境のバージョンアップなどのメンテナンスは、Microsoftが実施するマネージドサービスであるため、仮想マシンを展開する仮想基盤のみを利用でき、運用保守コストを抑えることができます。
 なお、AVSはAzure上のVMwareプライベートクラウドを指すサービスであり、「AVS上で稼働するVMware仮想マシン」が今回の比較対象です。本記事では、便宜上、「AVS上で稼働するVMware仮想マシン」をAVSと表現しています。

コスト比較の前提条件

 今回のコスト比較においては、以下のスペックの仮想マシンを前提条件に比較を行いました。

 ・ CPU:2vCPU

 ・ メモリ:8GB

 ・ ストレージ:128GB

 AVSのサービス利用が最低3ノード以上という条件を考慮し、168台の仮想マシンの利用としています。また、安全率を考慮し、AVDでは1VMあたり7Userの接続ユーザー数とし、AVSでは全リソースの80%以下で稼働可能な台数で比較しています。

コスト比較の結果

 ユーザーあたりの月額コストは、AVS < AVD < AVMの順に大きくなる結果となりました。一方で、前述の通り、AVSのサービス利用は最低3ノード以上という制約があります。この制約を考慮すると、約140台以下の条件ではコストの観点でAVSの利用のメリットはなくなりそうです。  

 また、AVDは1台に複数ユーザーが接続することでコストを抑えられていますので、約20台以下ではメリットが少なくなります。この場合は、AVMを利用しても良いでしょう。

 今回のコスト比較の結論としては、

 ・ 仮想マシン数が約140台以上:AVSが有利

 ・ 仮想マシン数が約20台から約140台の間:AVDが有利

 ・ 仮想マシン数が約20台以下:AVMが有利

となります。

 今回は台数に応じた利用コストの単純比較の結果をご紹介しました。実際の導入検討においては、メンテナンス性、制御、監査などの観点も含めて評価する必要があります。

 

表1 仮想マシンサービス別のコスト比較結果(大和総研作成)

※コストは2023年10月時点のサービス利用料と為替(1ドル=149.4円)をもとに計算した参考値

(出所)大和総研作成

Azure仮想マシンサービスと物理PCの比較

 参考までに、物理PC(Surface Pro 9 (CPU:MicrosoftSQ 3 RAM:8GB SSD:128GB))と比較した結果を以下の表に示します。

 

表2 仮想マシンと物理PCのコスト比較結果(大和総研作成)

※コストは2023年10月時点のサービス利用料と為替(1ドル=149.4円)をもとに計算した参考値

(出所)大和総研作成

 利用コストを比較すると、物理PCの方がコストが安いという結果となりました。

 しかし実際は、物理PCは利用ユーザーへの配送・交換・故障等に伴う輸送コストや各端末を利用するための電気代などが追加で必要となります。

 また、物理PCでは、業務で必要となるアプリケーションをあらかじめインストールしておく「端末キッティング」と呼ばれる作業が必要です。仮想マシンでは業務アプリケーションを導入して複製・展開することが可能ですが、物理PCでは1台ずつ「端末キッティング」してからユーザーに提供する必要があります。

 今回は「端末キッティング」のコストは省略していますが、実際にコストを比較する際は、物理PCの利用形態に応じて「端末キッティング」にかかるコストも合わせて試算しておく必要があるでしょう。

おわりに

 本記事ではAzureのサービス利用について、コストの観点から比較を行いました。導入台数規模によりコストが最も少なくなるサービスを選択することが有効であることがわかりました。今回はサービス利用コストの観点で比較しましたが、実際のクライアントOSの展開においては、初期導入コストや運用コストも検討する必要があります。企業活動をしていく上でクライアント管理は避けて通れません。最新のサービスを活用することで今よりコストを下げて利用できる場合もあるかもしれません。2023年10月調査時点では、クライアント環境として必要な仮想マシンが140台以上であるならばAzure VMware Solutionを利用して仮想クライアントOSを構築すると最もコストメリットを得られると考えられます。導入台数規模に応じて最もコストメリットを享受できるサービスを選択して環境を構築しましょう。

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