ブレインテック

 ブレインテックとは、脳科学と最先端のテクノロジーを組み合わせ、身体機能や脳機能の改善や拡張を行う技術、およびそれを応用した商品・サービス等のことです。
 本記事では、ブレインテックで取り扱う脳情報や、それを機械とやり取りするためのインターフェース、ブレインテックの活用事例について紹介します。

用語の概要

 ブレインテックとは、脳科学と最先端のテクノロジーを融合させ、人間の認知や判断、感情、行動を理解し、改善・操作するための技術です。また、このような技術を応用した商品やサービス、取り組みを指すこともあります。
 医療の場における患者の治療目的を中心に研究が進められていますが、近年それ以外の分野でも実用化に向けた取り組みが行われています。将来的には、ブレインテックによって身体機能や脳機能を向上させ、これまでにない体験を創出することができる可能性があると予想されています。

ブレインテックで取り扱う脳情報とは

 では、ブレインテックで取り扱う“脳情報”とは具体的に何でしょうか? 
 答えは、人間が受け取るすべての情報です。人間は目や耳等の器官(五官)によって外界の情報を受け取っていますが、それらは神経系を通じて脳に届けられ、脳で情報を解釈しています。したがって、脳情報を扱うということは、人間が外界から受け取るすべての情報を扱うことができる可能性を秘めているのです。

 ブレインテックでは、従来伝達することが難しい情報も取り扱うことができます。たとえば、人間は他人の感情を直接感じ取ることはできません。普段、私たちは他人の言葉や表情からその人の感情を推測していますが、それが本当の感情であるかどうかは分かりません。一方、ブレインテックでは、感情を脳の活動として読み取ることで、それを定量的に解釈したり、他人の脳に送信したりすることができるようになる可能性があると言われています。

 ブレインテックでは、従来人間が外界から情報を受け取っている五官だけでなく、五官から脳に繋がる神経系を使用することで、他人と感覚を共有したり、念じるだけで会話したり、といった新しい体験を創出します。神経系は大きく2つに分けられ、脳に近い中枢神経系と五官に近い末梢神経系があります。脳に近い方がより高度な活用が期待できますが、技術的なハードルも高くなります。

図1 脳が五官から受け取る情報
(注)医学的見地から作成した図ではありません。
(出所)大和総研作成

ブレインテックとインターフェース

 ブレインテックは脳情報を利用するため、脳情報を機械で読み込むあるいは書き込むためのインターフェースが必要です。そこで重要な役割を果たすのがブレインマシンインターフェース(BMI)です。BMIは、脳と機械を直接接続し、思考や意図に基づく情報の伝達や操作を可能にする技術で、ブレインテックにおけるさまざまな商品やサービスで利用されています。
 なお、BMIは重要な技術ではありますが、ブレインテックにおける必要条件ではありません。一般的には、BMIを使わなくても、脳科学とテクノロジーを組み合わせ、間接的に脳の状態を計測したり刺激したりする技術も、ブレインテックのひとつとされることが多いです。

図2 BMIのイメージ
(出所)Adobe stock

ブレインテックの活用事例

 ブレインテックを活用すると、どのようなことができるようになるのでしょうか。ここでは、国内の事例を2つ紹介します。

NeU

 NeU(ニュー)社は、2017年8月、東北大学加齢医学研究所 川島研究室の持つ認知脳科学の知見と、日立ハイテク社の携帯型脳計測技術を融合する形で設立された企業です。同社は、脳活動を計測するためのブレインマシンインターフェースを提供しているほか、人間の無意識的・直感的な反応を計測し、活用するニューロマーケティングのサービス等を提供しています。従来のアンケートやインタビュー等では捉えきれない本音を分析することができるとされています。

NTTドコモ

 NTTドコモ社は、5Gの次世代にあたる6Gの研究開発を進めています。同社では、6G時代に注目すべき技術のひとつにブレインテックを掲げており、ユースケースの可能性を検討しています。ブレインテック等の技術を6Gのネットワークと組み合わせることで、双方向のやり取りを実現し、さまざまなユースケースを提供できるとしています。2022年1月に同社が主催したイベントでは、「人間拡張基盤」の事例として、ネットワーク越しに人間の筋肉を操作するデモが行われました。