PROJECT
人的資本経営支援ソリューション「Hearbit(ハービット)」開発
プロジェクトメンバー
-
浅野 亨子
2002年入社
ヘルステック本部
ヘルステック企画部
MEMBER.01 - システム
-
明瀨 遼司
2022年入社
ヘルステック本部
ヘルステック企画部
MEMBER.02 - システム
-
池谷 友弥
2021年入社
フロンティア研究開発センター
デジタルソリューション研究開発部
MEMBER.03 - システム
-
石橋 未来
2002年入社
調査本部
政策調査部
MEMBER.04 - リサーチ
はじめに
「人的資本経営」を支援するサービスで、健康な社会づくりに貢献
少子高齢化による労働力不足は、日本の深刻な社会課題の1つです。そうした背景のもと、働く人を「資産」として捉え、人材に投資することでその価値を最大化し、企業価値の向上を目指す「人的資本経営」に取り組む企業が増えています。しかし、企業がこれを推進するにはさまざまな課題も。健康保険組合(以下、健保)向け基幹システムにおいて国内トップシェアを誇る大和総研はこの課題に着目し、人的資本経営支援ソリューション「Hearbit」を開発しました。その開発プロジェクトについて、メンバーが語ります。
QUESTION.01
プロジェクトの概要について教えてください
健保向けシステムの実績をベースに、
企業の人的資本経営をサポート
企業の人的資本経営を
「Hearbit」は人的資本経営に取り組む企業・健保と、その企業で働く従業員の両方を支えるソリューションです。従業員向けアプリ「Hearbit」では健康やウェルビーイング向上につながるさまざまなサービスを利用できます。
「Hearbit」の利用料は企業・健保に負担いただき、従業員には福利厚生の一環としてアプリが無償提供(一部例外あり)されます。健康増進につながるさまざまなコンテンツを気軽に利用することができ、楽しみながら続けていただけるように、利用頻度に応じてポイントが貯まる仕組みの導入も考えています。
このソリューションの企画が始まったのは2024年4月。そこからおよそ1年半の開発期間を経てローンチを迎えました。「Hearbit」は、Habit(習慣)、Hear(日々の小さな悩みやデータに耳を傾ける)、Heart(改善と変化への寄り添い、見守り)、bit(変化を起こす小さなチャレンジ)といった意味を込めて名付けられました。
「Hearbit」には、アプリの利用データと健診データや労務データを安全に統合することにより、生活習慣病の将来リスクをいち早く察知して予防につなげるAIシステムを搭載しています。特に糖尿病・高血圧・脂質異常症は生活習慣病のなかでも初期に発症する疾患。こうした病気を早めに見つけることで、従業員の健康を守る仕組みです。
QUESTION.02
プロジェクトの社会的意義はどのような部分にありますか
生活習慣病予防や医療費適正化を実現し、
持続可能な社会保障制度を構築
持続可能な
2023年3月期決算以降、上場企業には有価証券報告書において「人的資本」に関する情報開示が義務付けられ、従業員への投資をどの程度行っているかが企業価値を評価する重要な指標の1つになりました。こうした国の方針を受け、人的資本経営を積極的に推進する企業では、その基盤である健康経営に取り組む動きが広がっています。しかし、どのような健康施策が自社の従業員に有効なのかを具体的に把握できている企業はまだ多くありません。「Hearbit」によって投資の効果を可視化することは、企業にとっても従業員にとっても大きな意義があります。
私たちは大和証券グループの一員として、金融・健保分野において豊富な実績と信頼を築いてきました。そうしたバックグラウンドを活かしながら、健保向け基幹システムの提供において国内トップの実績を持ち、近年はヘルステック分野に注力しています。「Hearbit」はそんな大和総研だからこそ実現できるソリューション。健康アプリは数あれど、このように健保システムや人事データ、他の健康アプリと連携して高精度な分析とモニタリングができるサービスは、他社ではなかなか実現できないでしょう。
「Hearbit」は社会全体の健康づくりに貢献するサービスです。アプリを活用することで一人ひとりが生活習慣を見直し、健康を意識するきっかけになると考えています。その積み重ねは、生活習慣病の予防や医療費の適正化といった社会課題の解決にもつながり、健康寿命の延伸や持続可能な社会保障制度の実現にも寄与します。
QUESTION.03
プロジェクトでの役割を聞かせてください
アプリ開発チームにデータサイエンティスト、医療・介護分野の研究者も集結
私は、働く人を支えるためにどんなサービスを提供するか、といったコンテンツ企画を担当しました。世の中にあるヘルケアサービスやアプリを広く調査し、健康増進・ウェルビーイング向上につながるもの、そしてユーザーが使いたいと思うであろうものをピックアップ。そのサービスを運営する事業者にアクセスし、提携の交渉を行うという役割です。
私は提携アプリ開発チームのチームリーダを務めています。浅野さんたちが交渉して提携が決まった事業者と開発スケジュールの調整や要件の説明を行い、最終的に「Hearbit」と円滑に連携できるよう技術的なサポートを行っています。このほかにも、セキュリティや個人情報保護法の観点を踏まえた技術審査や、ユーザーからのQA対応といった幅広い業務を担当しています。
データサイエンティストとして「Hearbit」に搭載するAIシステムの開発に取り組みました。健診データ、労務データ、そして健康活動のデータを組み合わせて、健康スコアを算出したり、病気のリスクを検知するためのAIです。AIによる予測結果を法的・医学的な視点から正しい表現で伝えるための設計に注力し、共同研究を行う大学の医師からの見解を参考にしたり、法律の専門家から知見をお借りするなどしています。「Hearbit」に蓄積されるデータを活用した新たなAIモデルや、健康への投資が企業価値にどう結びつくかの独自指標の開発も進められています。
私は医療・介護分野を中心とした社会保障の調査・分析に長く携わってきました。その経験を活かして健康経営や人的資本経営に関する分析レポートを執筆し、「Hearbit」のブランド価値の向上に取り組んでいます。特に、戦略的な発信を担い、この新しいソリューションの価値や効果がしっかり伝わるよう工夫を重ねています。大学との共同研究に関しては、自部門のエコノミストらの視点を活かしたサポートも行っています。
QUESTION.04
どのような取り組みや苦労がありましたか
新規事業ならではの難しさとおもしろさ
発生源が複数あるデータを扱うため、前提となる情報の粒度を揃えることが難しく、予測の多様性を担保することに苦労しました。データから導き出されるリスクをユーザーに伝える表現においても、意味の整合はもちろん、表現の強弱や断定を避けつつも異変を認知してもらうための言葉選びなど、納得感のある基準づくりには時間がかかりました。
「Hearbit」は企業や健保などの組織を通じて、働く従業員に提供されるBtoBtoE(Business to Business to Employee)型のアプリ。BtoBのシステム開発では豊富な実績を持つ大和総研ですが、今回の開発ではこれまでと勝手が異なる部分もありましたね。年代もさまざまな不特定多数のユーザーがスムーズに使えるよう意識してつくり、マニュアルもシンプルに分かりやすくしました。
コンテンツとなるサービスを運営する事業者と提携を結ぶまでには、さまざまな交渉を重ねる必要がありました。なかには提携のメリットを理解してもらえず、話し合いが難航したケースも。スタートアップ企業が多かったので、提携にあたる対応のリソースを割けないといった事情もありました。また、こうした交渉を何社も並行して行う上では、限られた時間・予算・メンバーのなかで効率よく進めなければならない点にも苦労しました。
QUESTION.05
関係者とはどのように連携して進めましたか
社内外の専門家との連携が重要な鍵
さきほども触れたように医師や法律の専門家との連携が重要な鍵を握りました。そうした関係先との調整は他部門が丁寧に進めてくれて、素早くフィードバックが届く体制でした。おかげで仮説検証から改修までのサイクルが短くなり、私たちが実装判断するスピードも上がりましたね。私自身は健康データ予測AIの開発に初めて挑戦しましたが、変化の多い環境のなか、モデル設計やデータ仕様、運用手順を同時並行で固めていく経験はとても刺激的でした。
社内外のネットワークを活かし、関係省庁の方々から政策動向を直接伺う機会を確保しました。その情報を踏まえ、「Hearbit」のコンセプトや方向性が国の方針としっかり合うように調整を進めてきました。予防・健康づくりにつながるさまざまなアプリを搭載した「Hearbit」を活用することで、日本が目指す健康寿命の延伸やウェルビーイングの向上、性別や年齢に関わらず生涯活躍できる社会の実現に貢献できると考えています。
アプリストアでの公開にあたっては、配信の実績を持つ部署に相談させていただきました。迅速かつ前向きに協力してもらえたので、とても心強かったですね。こうした社内連携のおかげで、スムーズに配信準備を進めることができました。
QUESTION.06
どのような部分にやりがいを感じましたか
多くの人の健康を支えながら、
企業の価値向上にも貢献する喜び
企業の
提携事業者のみなさんと誠実に対話を重ね、信頼関係を築きながら、双方にとって納得できる形を探っていく過程にやりがいを感じました。ときにはお互いの意見が合致しないこともありましたが、相手の想いや背景を丁寧にくみ取り、社内へ伝える“橋渡し役”として調整を続けました。交渉が難航していた事業者の方から「浅野さんがいなければ、この交渉は続けられなかった」と言っていただけたときは、努力が報われた思いでした。
専門性を活かしながら、健康経営や人的資本経営といった社会的に関心の高いテーマを調査・分析し、発信できることに大きなやりがいを感じています。特に「健康経営×テクノロジー」という新しい分野に挑戦できたことは、これまでの医療・介護分野での経験を広げる大きな一歩になりました。こうした取り組みが、企業や社会の価値向上につながっているという実感が、プロジェクトに携わる上でのモチベーションになっています。
「Hearbit」は健診データやアプリの利用データなど、個人の健康情報を統合・可視化して、利用者の行動変化を促すことを目指しています。自分たちの開発が、誰かの健康意識を変えるきっかけになる。そんな可能性を感じられるところに、大きなやりがいを感じています。こうしてたくさんのユーザーの健康を支えると同時に、企業の価値向上にも貢献できることが喜びです。
QUESTION.07
プロジェクトの今後の展望をお聞かせください
コンテンツを拡充するとともに、新たなAIモデルの構築も
大和総研がお付き合いしている健保組合は約450組合、対象となる従業員はおよそ700万人にのぼります。すでに多くの組合から「導入を検討したい」という声をいただいており、メディアからの取材依頼も増えています。利用が広がっていけば、社会全体の健康づくりに貢献できるサービスとして、より大きな存在感を発揮できるはずです。これからが本当に楽しみです。
今後は大学との共同研究を通じて、新たなAIモデルの構築を進めていきます。現在は糖尿病や高血圧の検知を中心にしていますが、将来的には動脈硬化や心疾患など、より長期的なリスクも予測できるようにしたいと考えています。そのために、より多くのデータを集め、長期間にわたる分析に耐えうるモデルをつくっていく予定です。「Hearbit」のデータを活用して、健康予測の精度をさらに高めていきたいです。
適切なデータ管理の下、「Hearbit」から得られるリアルタイムの健康関連のデータを活用することで、さらに精緻な分析やそれに基づく政策提言ができると考えています。また、AIを活用して、個々に最適なケアを提案する仕組みへと発展させることも期待しています。「Hearbit」を通じて収集されるデータを、より良い社会の構築につなげていきたいです。
アプリとしても、今後はより多様なサービスやコンテンツと連携し、使う人が「続けたい」「もっと活用したい」と思えるような形に育てていく予定です。
リリースを予定している企業・健保向けの管理ダッシュボード「Hearbit View」も、その展開を支えるサービスの一つです。
このダッシュボードでは、アプリの利用状況を可視化できるほか、健保の基幹システムと連携した健康診断データや、企業が保有する労働時間・ストレスチェックといった労務データを一元的に管理し、組織全体の健康状態を俯瞰的に把握できるようになります。
ヘルステック本部としても、「人的資本経営といえば大和総研」と言われるような存在を目指して、これからも挑戦を続けていきます。
参考
記載された写真および原稿は2025年10月時点のものです。



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