PROJECT
新NISA施行に伴う政策提言と大規模システム改修
プロジェクトメンバー
-
是枝 俊悟
2008年入社
調査本部 金融調査部 兼
金融システム事業本部
金融ITコンサルティング部- リサーチ
-
田所 大
2009年入社
金融システム事業本部
基幹システムプラットフォーム部- システム
-
野田 康洋
2013年入社
大和証券システム本部
リテール基幹システム第一部- システム
-
菅野 早紀
2019年入社
大和証券システム本部
リテール基幹システム第一部- システム
-
五十嵐 真吾
2021年入社
金融システム事業本部
金融フロントシステム部- システム
-
二村 彰範
2019年入社
金融システム事業本部
金融基幹システム部- システム
はじめに
国民の資産形成を支えるミッションクリティカルな大規模案件
「国民の安定的な資産形成を支援する」という大号令のもと、2024年1月に大幅な税制改革が行われたNISA制度。「新しいNISA」(以下、新NISA)のスタートに伴い、大和総研では政府への提言活動をはじめ、「ダイワのオンライントレード」等の大規模システムの改修に取り組みました。このミッションクリティカルな一大プロジェクトに参加した6名のメンバーが、当時を振り返ります。
NISA制度の変更点
2023年以前のNISA制度 | ||
---|---|---|
一般NISA | つみたてNISA | |
制度併用 | 不可 | |
年間投資上限額 | 120万円 | 40万円 |
累計投資上限 | なし | |
非課税保有期間 | 5年間 | 20年間 |
制度終了 | 〜2023年末 | 〜2042年末 |
2024年以降のNISA制度 | ||
---|---|---|
成長投資枠 | つみたて投資枠 | |
制度併用 | 可能 | |
年間投資上限額 | 240万円 | 120万円 |
累計投資上限 | 1800万円 | |
非課税保有期間 | 無期限 | |
制度終了 | 無期限(恒久化) |
システム改修における対応ポイント
- 1NISA制度の恒久化
- 2非課税保有期間の無期限化
- 3累計投資上限の新設
- 4従来の一般NISA・つみたてNISAの一体化
- 5年間投資上限額の拡大
- 6成長投資枠における投資対象の制約
QUESTION.01
プロジェクトの大まかな概要について教えてください
NISA制度の拡充・恒久化をシンクタンクとして支援
2024年1月から新NISA制度が施行されました。これは貯蓄から投資へと家計の資産を振り向けることで、国民の資産所得増加を促すための税制改正です。既存のNISA制度と比べると投資上限額が大きく拡充されるとともに、投資可能期間の制限なく、ずっと利用できる制度へと恒久化された点も大きな改正ポイントでした。この変化に伴い、大和総研はシンクタンクとして主に2つの側面から制度改革をサポートしました。1つは、リサーチ部門に所属する私たちが中心となり、税制改正の具体的な在り方を政府に提言することです。
新制度の
大和総研が行ったもう1つの取り組みは、大和証券をはじめとする金融機関に向けた大規模な証券取引システムの改修です。私たちシステム部門のメンバーが中心となり、新制度にフィットするシステムへとつくり変えていきました。
大和証券向け
NISA制度の改正が検討され始めた2022年春から大和総研では情報収集やお客様への情報提供活動を始め、2022年12月に政府から税制改正大綱が発表されると、そこからシステム改修プロジェクトがスタート。およそ1年後の2023年12月下旬には新制度に対応したシステムをリリースしました。
大和証券向け
要件定義フェーズから構築まで、プロジェクトに携わったメンバーは国内外のパートナー企業も含めて約200名程度。大和総研社内でもかなり大規模なプロジェクトだったといえます。
大和証券向け
QUESTION.02
プロジェクトでの役割を聞かせてください
部門を超えた連携
システムの構成
各専門領域のプロフェッショナルが集結
私は日頃から証券税制をはじめとした金融制度の調査・情報発信に取り組んでいます。今回のプロジェクトでは、主に新NISAの検討段階である初期フェーズから活動しました。具体的には、2022年5月に首相からNISA制度を抜本的に拡充する方向性が示されて以降、最新の動向を大和総研のリサーチ部門だけでなくシステム部門にも連携することで、システム改修の段取りに貢献するとともに、官公庁や国会議員等に向けた大和証券グループとしての提言作成の取りまとめ役を担いました。 さらに、金融制度の専門家として大和証券グループ以外の金融機関に向けた情報提供にも取り組みました。
新制度の
大和証券のお客様がオンラインで証券取引を行うための売買注文システム「ダイワのオンライントレード(以下、DOT)」の改修におけるチームリーダーとして、要件定義から設計、開発、保守までを一気通貫で担いました。大和証券とともにシステム要件を整理し、国内外の開発パートナー企業の管理や成果物のレビュー、スケジュール管理等をすることが主な役割でした。
大和証券向け
私は大和証券システムを構築し始めた当初から稼働し続けている基幹システムを担当しています。中でも、システム利用者から見える部分にあたるフロント領域を設計・構築するチームのリーダーを務めました。株式や投信の受発注機能を新制度に合わせて改修することや、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」が併用可能となり非課税枠を一本化する対応を行うことが、私の主な担当範囲でした。
大和証券向け
野田さんと同じ基幹システムのなかでも、私はバック機能と呼ばれる領域の構築を担当しました。具体的には残高管理や法定帳簿・顧客帳票の作成と管理を行う機能の改修におけるチームリーダーを務めました。
大和証券向け
「DOT」は大和証券向けのシステムですが、私が担当したのは大和証券グループ以外の証券会社に提供しているオンライトレードシステム「WB4」の改修です。10社以上の証券会社が利用しているシステムであり、各社の要望に応じて一部カスタマイズを行いながら提供しているため、システムの構成としては少し複雑になっています。
グループ外向け
五十嵐さんが担当した「WB4」は投資家の方が実際の取引をする際に利用するシステムですが、私はその裏側で稼働する基幹システム「SONAR-MF」を担うチームでサブリーダーを務めました。受発注・口座・残高等を管理する機能があり、それらすべての要件定義からシステムリリースまで、リーダーとともに対応方針を決定し、推進しました。
グループ外向け
QUESTION.03
どのような取り組みや苦労がありましたか
決められた期日までに間違いなくシステム更改を遂行する苦労
人生100年時代にふさわしい家計の安定的な資産形成を支援していくためには、NISA制度をどう見直すべきか。日本を代表するシンクタンクとして、金融庁や日本証券業協会に対し、根拠ある提言を実現することは重大なミッションでした。さまざまな情報や専門家の意見を集約して提言の骨子をまとめ、金融庁や内閣官房の幹部に向けた説明の場にも同席。非常に重要な役割を担う緊張感がありました。ちなみに調査本部長の熊谷亮丸は、政府審議会でも多数の要職に就いており、NISA制度の拡充のあり方を決める資産所得倍増分科会の委員も担っていました。
新制度の
昨今のシステム開発は開発効率を向上させるためにAPI(※1)を利用したり、拡張性や柔軟性を高めるためにマイクロサービス化(※2)させるなどの傾向があり、単独のシステムだけでは完結しなくなっています。今回の案件も同様で、他システムと連携して処理する部分が一定数あり、その接続テストには苦労しました。
※1 Application Programming Interfaceの略称。ソフトウェアやプログラム同士をつなぐインターフェースのこと。
※2 小規模なサービス同士を連係させることで、ひとつの大きなアプリケーションやシステムを構築する技法のこと。
大和証券向け
一番苦労した点といえば、やはりスケジュール管理です。新NISAは2024年1月から開始となることが決まっていたため、システムの改修を間に合わせることはマストであり、遅延は絶対に許されませんでした。タイトなスケジュールのなかで何度か調整が必要な場面もありました。また、新たにシステムを構築するのではなく、稼働中の現行システムの改修だからこその難しさも感じました。必要な要件を取り込みつつも既存ロジックを壊さないよう、綿密な調査・設計が求められるのです。
大和証券向け
私が関わったバックシステムは一定量のデータを集めて、夜間に一括処理するバッチ処理が動いています。また、システムを利用した業務が少ない時間帯に作業した方が安全といった理由から、夜に確認作業を行うこともしばしば。連日の夜間対応は大変でしたが、チーム一丸となって乗り越えました。また、新NISAは各種メディアでも大きく取り上げられるなど、社会的な注目度が非常に高いテーマだったので、リリース時には特に緊張しましたね。
大和証券向け
大規模プロジェクトを完遂させるには粘り強さが必須です。実際にシステム同士を接続するテスト段階になって問題が判明し、開発をやり直す場面がありましたが、持ち前の粘り強さを発揮して乗り切ってきました。他システムのチームメンバーやパートナー企業、実際にシステムを利用いただいている証券会社の担当者の方など、関わるステークホルダーも非常に多かったので、認識合わせやスケジュール調整は大変でしたが、学ぶことが多かったです。
グループ外向け
QUESTION.04
関係者とはどのように連携して進めましたか
大規模案件だからこそ多様な関係者と連携
新NISAの税制改正大綱が発表され、大和総研内でもシステム改修がスタートしてからは、システム部門から上がってくる不明点を解消するための外部との橋渡し的な活動に取り組みました。法令等を読み込んだ上で金融庁や日本証券業協会と繰り返し確認を行い、システム開発上の不明点を明確にしていくのが私の役割でした。
新制度の
是枝さんたち金融調査部の方から発信される新制度に関するレポートを読み込んだり、定期的に開催される「中長期制度動向サマリー説明会」で新NISAについての説明があったりしたので、システム改修のポイントを検討する上で参考になりました。
大和証券向け
私と野田さんが所属するリテール基幹システム第一部は、このプロジェクトの主幹部門。PMを務めていたのも上司なので、困った時に相談しやすかったです。例えばスケジュールに遅れが出てしまった場合もすぐに報告。するとPMが大和証券の担当者の方と相談の場を設けてくれて、問題を解決することができました。
大和証券向け
国外の開発パートナー企業(以下、オフショア)に効率的に業務を進めてもらうために、3ヶ月間の海外出張を行いました。現地のオフショアメンバーに向けて新NISAの制度について説明したり、開発における疑問に回答したり。やはり対面で説明するとお互いの理解度が深まるので、有意義な出張になりました。
グループ外向け
QUESTION.05
どのような部分にやりがいを感じましたか
社会に大きな影響を与える案件だからこそ、やりがいも大きい
社会的に注目度の高い税制改正について、制度の内容を検討する段階から働きかけていけることはシンクタンクである大和総研ならではの仕事の魅力だと感じています。非常に重大なミッションだからこそ責任以上のやりがいを感じました。
新制度の
自分たちがつくったシステムを自身が利用者として触れられることは一つのやりがいです。また、NISA制度に関しては制度開始時の2014年には30歳未満のNISA口座開設は業界全体で30万件ほどでしたが、2024年現在は200万件以上に急増しており、社会的なニーズを満たす一助になれたことを嬉しく感じます。
大和証券向け
自分自身も利用するシステムだからこそ、いつにも増して「自分ごと」として仕事に打ち込むことができました。また、案件の完了を祝し、プロジェクトに関わったメンバーが一同に集まって「DIR Beer Bash!!」が開催され、社長や役員の皆さんから直接労いの言葉をいただけたことも達成感につながりました。
大和証券向け
私が携わった「SONAR-MF」はASPサービス(※3)形態でシステムを提供しており、多くのお客様にとってご利用いただきやすいように、汎用性やトレンドを踏まえたシステム開発を行っています。自信を持ってお客様に提供できるシステムにしようと、自分たちで考えてシステムの仕様を決めていく工程は非常に楽しく、自信にもなりました。
※3 Application Service Providerの略称。インターネット上でアプロケーションやソフトウェアを利用できるサービスのこと。
グループ外向け
QUESTION.06
プロジェクトを通じて得られたことを教えてください
いくつもの壁を乗り越えた先に、大きな学びがあった
入社以来、システム部門だけでなく経営企画部や大和証券への出向等、さまざまな経験をしてきましたが、今回初めてオンライントレードのシステム開発に携わりました。最初は苦労しましたが、周りの方のサポートのおかげで案件を完遂できたと感じています。プロジェクトを通じて社内外の人間関係が広がったことは大きな財産になりました。
大和証券向け
システム間結合テストが始まる頃、育児の忙しさも重なって体調を崩してしまいました。そんなピンチを救ってくれたのがPMやチームの方々。おかげで遅延なくテストを進めることができました。やはり困った時には早めに周囲の協力を求めることが大切だと改めて学んだ出来事です。
大和証券向け
私はそれまで、すでに要件が決まった下流工程を担当することが多かったのですが、今回は主幹部署のメンバーとして案件開始時から参画しました。制度に確実に対応できるよう整理した要件だけでなくシステムのレベルアップに向けた要件も含めて、システム要件へと落としこむフェーズに携わるのは初めてで苦労しました。それでも、案件の始まりから終わりまでを手がけることに大きなやりがいを感じ、貴重な経験となりました。
大和証券向け
プロジェクトの終盤では、システム同士を連携してテスト環境でデータ処理の流れを確認するテスト工程の主担当を務めました。システムの全体像や他システムとの連携処理を理解していなければ確認ができないため、私にとって難易度が高い業務でしたが、チャレンジングな機会をもらえたことで、自分の成長を実感できました。
グループ外向け
QUESTION.07
プロジェクトの今後の展望をお聞かせください
システムのレベルアップを通じて社会に価値を提供
システムリリース後の現在は、時間的な制約からプロジェクトスコープの対象外とした機能の実装を進めています。また、これまで以上にクラウドシステムの活用やマイナポータルとの連携等が想定されますので、さらにシステムの利便性を高めていくことになるでしょう。
大和証券向け
私たちが携わる基幹システムは巨大かつ複雑なので、保守開発にコストがかかる上に、拡張性が低いといった課題があります。それらを解決するための検討が進められており、新NISAのシステムも引き続き持続可能な形で進化してゆくはずです。
今回のプロジェクトを通して、「WB4」というシステムについてより広く深く知ることができました。最新のIT技術動向にもアンテナを張りながら、このサービスをレベルアップし、証券会社および投資家にとってさらに価値あるサービスを実現していきたいです。
グループ外向け
日本経済の発展を支えるべく、「絶対に止めてはならない」というミッションクリティカルな使命を背負ったシステムですが、NISA制度が恒久化された今、その提供価値と社会貢献度はますます大きくなっています。お客様のニーズや世の中の動きを汲み取りつつ、今後も社会を支えるシステムであり続けることを目指します。
グループ外向け
メンバーの関係図をみる
参考となるキーワード
AI・データサイエンスやIT全般の用語が学べる用語解説サイト「WOR(L)D」(ワード)を2022年12月23日に公開しました。
ぜひ、就職活動等でご活用ください。
記載された写真および原稿は2024年3月時点のものです。