若者の早期離職と長時間労働の是正

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2017年07月03日

  • 菅原 佑香

7月に入り、研修を終えて、いよいよ実際の職場で本格的に仕事を始めたという新入社員も少なくないだろう。

日本生産性本部から発表された「2017年度 新入社員 春の意識調査」(※1)によれば、今年の新入社員は、第一志望での入社が2000年代で最高の79.5%を記録した。ただ、「条件の良い会社があれば、さっさと移る方が得だ」と考える割合が昨年より上昇し36.2%となっている。希望通りに就職しながらも、より条件が良い会社があれば離転職を検討するといった、就職した会社にこだわりを持たない志向性も垣間見られる。こうした若者の意識は、彼ら自身の能力・適性に合った仕事を追求していくというキャリア意識の高さとも捉えられる一方で、最近の社会情勢が影響しているようにも考えられる。

若者の早期離職の課題は、90年代から「七五三現象」とも呼ばれ、就職して3年以内に中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が離職すると言われてきた。しかし、社会的評価を得られるような一定程度の知識や経験を得たうえでの離転職であれば良いが、3年以内の早期離職は安定雇用につながりにくく、若者にとってのその後のキャリア形成を難しくさせてしまう側面が指摘されている。

労働政策研究・研修機構の調査によれば、新卒3年以内離職者にみる「初めての正社員勤務先」を離職した理由(複数回答)で回答割合が男性で最も高く、女性でも僅差で第2位であるのは、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかったため」である(図表)。これとの関係性が推察される「肉体的・精神的に健康を損ねたため」という理由が男性で第2位、女性で第1位であることを考えると、心身を壊してまでも働かざるを得ないような長時間労働を是正していく必要性を改めて感じる。若者にとっては、初めて就職した会社の3年間をどのように過ごし、知識と経験を得られるかは、その後のキャリア形成に大きな影響を及ぼすものであり、彼らにとっての大切なキャリア形成のタイミングであろう。

現在、政府は「働き方改革」の中で、労働者の健康確保や生産性向上、ワーク・ライフ・バランスの改善の目的のもと、長時間労働の是正に向けて、罰則付き時間外労働の上限規制等の導入を検討している。長時間労働の是正によって、若者が、自分の能力を十分に発揮し、希望を持って働き続けられるような社会が実現されること、そして、それによって彼らにとって望ましくないケースになるような早期離職が少しでも減少することを期待したい。

新卒3年以内離職者の「初めての正社員勤務先」を離職した理由(複数回答)

(※1)公益財団法人 日本生産性本部「2017年度 新入社員 春の意識調査」(2017年5月18日)

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