「税収が過去最高更新」でも厳しい25年度のPB黒字化

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2023年10月11日

2022年度の国の税収は71兆円と3年連続で過去最高を更新した。景気回復に加え、物価高が消費税収を押し上げたことも一因だ。経済活動が正常化し、賃上げも加速した23年度の税収は一段と増加する可能性が高い。

政府は国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を25年度に黒字化させる財政健全化目標を掲げているが、こうした状況を受け、目標達成が視野に入りつつあるとの見方が広がっている。内閣府が23年7月に公表した「中長期の経済財政に関する試算」によると、高い経済成長率を想定した「成長実現ケース」では、26年度にPBが黒字化する見通しだ。さらに「これまでと同様の歳出効率化努力」を続ければ、黒字化の時期は25年度と1年程度早まるという。

だがデフレ脱却などで税収が堅調に増加し、政府がこれまでと同様の歳出効率化を続けても、25年度のPB黒字化は厳しい。成長実現ケースは歳出面でかなり楽観的な想定が置かれているからだ。

成長実現ケースでは、国の一般会計における25年度のPB対象経費を88.9兆円と見込んでいる。これは22年度の実績額を20兆円も下回る水準だ。新型コロナウイルス禍やロシアのウクライナ侵攻、記録的な物価高などに対応するため歳出は大幅に増加したが、これを25年度までに調整することが暗に想定されている。ワクチンや病床確保などのコロナ関連予算は大幅減が見込まれるものの、社会保障分野を除いても15兆円近い歳出削減が必要だ。

岸田政権は今後3年間を、持続的な賃上げや活発な投資がけん引する「適温経済」に移行するための「変革期間」と位置づけ、労働市場改革や投資促進、スタートアップ育成などに重点的に取り組む方針である。また、これらを加速させるための経済対策を10月中に取りまとめる。歳出水準が変革期間中に高止まりすればPBは黒字化せず、財政健全化目標はまた先送りされることになろう。

デフレ脱却は現実味を帯びており、財政面から後押しする重要性は大きい。だが、これまで財政状況が悪くとも経済への悪影響が目立たなかったのは、デフレで消費や投資が停滞した「冷温経済」の下で低金利環境が維持されたためである。「適温経済」に移行すれば日銀の金融政策は正常化し、国債市場の金利に上昇圧力がかかる。政府は「適温経済」への移行だけでなく、財政健全化もバランスよく進めるべきだ。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司