あらゆる世代がプログラミングを学ぶことの意義

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2023年04月07日

プログラミングの重要性が叫ばれて久しい。Python(※1)やRなどのプログラミング言語の習得はデータサイエンスをはじめ社会全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に欠かせないものとなっている。

そうした時代背景があるものの、世代によるのかもしれないが、その習得はかなりハードルが高いものであると個人的には感じる。実際、慣れていないとPythonなどを使ってデータを読み込んで整形し、分析可能な形に持っていく(いわゆる前処理)だけでも非常に時間が掛かってしまう。日常でよく使われる表計算ソフトやその他の統計ソフトは非常に直観的な操作が可能であり、グラフ作成などの作業が簡単にできてしまうため、わざわざプログラミングを習得する意味はどこにあるのか、とつい考えてしまいがちだ。

しかし、表計算ソフトやその他の統計ソフトは使えるデータの量や種類が限られている。分析の幅にも制限があるし、直観的な操作の裏返しでかなりの面で人力に頼らざるを得ないところも多く、それゆえ入力ミスも発生しやすい。その反面、Pythonなどのプログラミングができると、テキストや画像・音声・映像などを新たにデータとして取り込むことができるだけでなく、ワードクラウドなどの新しい可視化や、より精度の高い予測も可能になる。さらには、従来なら手入力などに頼って入力ミスも生じやすかった作業、例えば大量のPDFファイルに掲載される表データを活用しようとする場合でも、プログラミングによってそれらを一括して読み込んで扱いやすいエクセルの形に自動的に整形してくれるので、入力ミスも減って生産性を上げることが可能だ。これらのデータ分析の汎用性の高さや処理の自動化というメリットを理解できれば、苦労してプログラミングのスキルを習得するコストを回収できるかもしれない。

経済・社会の現状や課題の把握にはデータが必要だが、実際にはそうした統計が整備されていないことも多く、これまで必ずしも十分な分析ができていなかった面がある。ところが最近では経済分析でも、プログラミングにより様々なデータを取り込めるというメリットを活かして、これまでデータの制約等で難しかったリアルタイム予測、テキストデータを使った景況感の変化の背景を探る分析、画像データによる途上国の経済実態の把握といったように、プログラミングの利点を享受できる場面が広がりつつある(※2)。

さらに、経営層などの上の世代が進んでプログラミングを学ぶことは、組織のDX推進を後押しする効果も期待できるのではないか。DXがなかなか進まない一因として、DXに適した形で専門人材を育成し、それをシステムや組織の面から支える仕組みが構築できていない点が挙げられる。専門人材がいてもデータがないと動けないし、高負荷に耐えるマシンがないと深層学習モデルを回せない。経営層にとってプログラミングの過程で生じる様々な作業について具体的なイメージが湧きにくいと、部分的なDXにとどまるなど絵に描いた餅となりやすく、組織として機能するDXとはなりにくい。その点で、実際にプログラミングの経験をして具体的なイメージを掴むことは、本格的なDX推進の第一歩となるのではないかと思う。

あらゆる世代がプログラミングに触れることはとても大変なことかもしれないが、現場との認識の齟齬をなくし、様々な経済・社会的な課題解決を進めていくためにも、やはり必要なことではないかと考えている。

(※1)Pythonは Python Software Foundationの登録商標です。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄