「Go To キャンペーン」に見る需要喚起策の迷走

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2020年07月28日

2020年7月22日、政府は「Go To キャンペーン」事業を開始した。国内旅行を対象に代金の半額相当分を補助することが柱で、予算額は約1.7兆円と異例の規模で観光需要が喚起される。大都市を中心に新型コロナウイルス感染拡大が再び加速する中、人々の地域間移動が活発化することによる感染拡大への不安や懸念の声が全国的に強まったことから、制度開始直前になって東京都発着の旅行が事業から除外されるなど混乱を招いた。

緊急経済対策に盛り込まれた「Go To キャンペーン」は当初、新型コロナウイルス感染収束後の需要喚起策に位置付けられていた。しかしながら現実には感染収束に目途がつかなくなり、需要喚起策に対する考え方は曖昧になった。政府は「新しい生活様式」の実践を国民に呼びかけ、宿泊・飲食サービス業などの事業主に感染拡大防止策を要請しつつ、経済活動の水準を段階的に引き上げる考えを示したが、感染拡大防止と両立させる需要喚起策の在り方については明示されないままだ。

7月8日に原案が公表され、17日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」では、「感染の再拡大を防ぎ、国民の命と健康を守りながら、経済のしっかりした回復を実現するというバランスのある施策展開を図る必要がある」「需要を取り戻す消費喚起策を適時適切に展開する」との言及にとどまった。こうして、感染状況に配慮した制度設計や感染が拡大した場合の対応策などが示されないまま、10日に「Go To キャンペーン」の前倒し(当初は8月から実施予定)が急遽発表された。

新型コロナウイルス感染症の治療薬やワクチンが開発・普及するまでの間、感染拡大防止策を講じつつ検査体制と医療提供体制を強化し、経済活動の水準を段階的に引き上げることについて、多くの人に異論はないだろう。問題はそれをどのようにして実現するかであり、とりわけ感染拡大リスクが伴う需要喚起策については慎重に進めるべきだ。「Go To キャンペーン」の混乱を契機に、今後の需要喚起策の在り方について整理し、家計や企業が安心して利用できる制度を目指す必要がある。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司