訪日客の多様化に向け、2020年を転換点とできるか
2019年05月13日
訪日外客数がこのところ伸び悩んでいる。政府は2020年に訪日外国人旅行者数4,000万人という目標を掲げているものの、訪日外客数の増加率は2015年の前年比47%をピークに低下している(※1)。2016、17年は同20%前後であったが、2018年は同9%と1桁となり、直近の2019年1-3月は同6%にとどまった。2020年に4,000万人という目標を達成するには、年率13%超の増加が必要となるが、現在の増加ペースでは達成できない。しかし、2020年は訪日外客数目標を達成するか否かに関わらず、重要な節目の年となりうる。
そもそも訪日外客数の増加率が鈍化しているのは、2015年頃の急増の背景となっていた押し上げ要因が一巡しつつあるためだ。2015年に1ドル120円前後であった為替レートは同年末から円高方向へシフトし、訪日コストが相対的に上昇した。さらに、2018年には中国経済の減速が顕著となり、米中貿易摩擦の激化や英国の合意なきEU離脱の可能性の高まりなどもあって、世界経済の先行き不透明感が強まった。2018年の訪日外客数を国・地域別に見ると、全訪日外客数の約半分を占める中国、台湾、香港の増加率は低下、または前年割れしている。これらの国・地域における景気減速は日本のインバウンド市場にとってもマイナスの影響が大きい。
さらに、韓国の対日感情の悪化も見逃せない。韓国からの訪日客数を見ると、2017年に前年比40%だった増加率は2018年に同6%へ大幅に低下した。同年は徴用工問題などで日韓政府の主張が衝突する場面が多く、日本旅行に慎重になった人が増えたのだろう。なお、同様の現象はかつての中国でも見られ、2012年に尖閣諸島国有化に伴う反日デモが発生した時には、中国人の訪日ツアーが相次いでキャンセルされた。
このように、訪日外客数はとりわけアジアの情勢に大きく左右される。訪日外国人の安定的な増加を維持するには、アジア以外の地域からの訪日外国人を増やすことがますます重要になろう。
世界中から注目されている東京オリンピック・パラリンピックは、日本への関心がなかったり薄かったりする世界中の人々に日本の魅力をアピールする絶好の機会である。また、日本への興味が希薄な人々の中にも、試合観戦を目的に、実際に日本を訪れる人もいるだろう。多少楽観的ではあるが、このように2020年はアジア以外からの訪日外国人の増加が期待できる。その意味でも、2020年は訪日外国人の多様化を大きく進める「スタートの年」と捉えるべきではないか。訪日外国人の国別の構成がどのように変化するか、2020年以降の注目点としたい。
(※1)本稿における訪日外客数は日本政府観光局(JNTO)による。
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