日本における「女性の活躍」を考える

本当のカギは、働き方改革か

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2016年11月22日

  • 物江 陽子

今年は、女性活躍推進法が完全施行され、「女性の活躍」が注目される機会が多かったように思う。そのような中、先日公表された「グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書」の調査結果は、残念なものだった。同報告書は、世界経済フォーラムが2006年から毎年、男女格差という観点から各国の状況を調査し、指数化して結果を公表しているものだ(※1)。日本は今回の調査で144か国中111位、前年から10位も順位を下げてしまったのだ。政府も企業も「女性の活躍」推進に積極的に取り組んでいるはずの日本が、なぜ?

詳しく見てみると、少し状況がわかってきた。指数は、経済(Economic participation and opportunity)・教育(Educational attainment)・健康(Health and survival)・政治(Political empowerment)という四分野の指標群から構成されており、それぞれの分野で0(完全な男女不平等)から1(完全な男女平等)までの間で指数化されている。日本は、教育(0.99)と健康(0.98)でほぼ完全な男女平等が達成されているのだが、経済(0.57)と政治(0.10)で男女格差が大きい。具体的には、管理職・マネージャー数(0.13)、所得(0.51)、女性首脳の在任期間(0.00)や女性議員数(0.11)などの指標で特に評点が低い。前年と比較すると、管理職・マネージャー数や女性議員数で改善したものの、専門家・技術者数における評点低下が響き、全体での順位低下となったようだ。

もっとも、教育・健康で男女格差が小さく、経済・政治で男女格差が大きいのは、世界的な傾向でもある。2016年のグローバル・ジェンダー・ギャップ指数の世界平均を見ると、教育が0.95、健康が0.96なのに対し、経済では0.59、政治では0.23であった。中でも経済における男女格差は、世界全体でも拡大傾向にある。報告書では、経済における男女格差が、教育水準の高い人的資本を十分活用できていないことを意味し、各国経済にとって機会損失となっている可能性を指摘している。

さらに、経済分野における男女格差の原因のひとつとして指摘されたのが、アンペイド・ワークの存在である。アンペイド・ワークとは、家事や育児、介護などの無報酬労働のことだ。報告書は、経済分野における男女格差とアンペイド・ワークにおける男女格差が、表裏一体の関係であることを指摘している。世界的に見てもやはり、女性の(職場での)活躍のためには、男性の(家庭での)活躍が大事、ということのようである(※2)

ところで、報告書では、アンペイド・ワークも含めると、世界平均で女性の方が男性より一日あたり50分長く働いていると述べている。確かに、関連する統計を見ると、OECD平均でも、女性は男性より一日あたり平均21分長く働いている(※3)。しかし、日本については、この世界的な傾向は当てはまらないようだ。日本では、男性の方が女性より一日あたり平均28分長く働いている。というのも、日本人男性のペイド・ワークの労働時間は、メキシコ(468分)、韓国(422分)を抜いて、OECD諸国でトップ(472分)なのである。家庭で活躍したくともできない男性たちの姿が浮かぶようである。日本における「女性の活躍」推進の本当のカギは、男性が長時間労働を余儀なくされる、従来型の働き方の改革にあるのかもしれない。

(※1)World Economic Forum (2016) The Global Gender Gap Report 2016.
(※2)物江陽子(2016)「"女性の活躍"のカギを握る男性たち」(2016年1月6日、大和総研コラム)
(※3)OECD.stat Employment: Time spent in paid and unpaid work, by sex. 各国入手可能な直近のデータによる(調査年は国により異なる)

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