ROEの目標設定に際し、IRにおける時間軸を考える

2015年2月26日

  • コンサルティング・ソリューション第二部 主任コンサルタント 遠藤 昌秀

これまでも機関投資家が中心となり、企業の資本生産性を改善すべくROE向上の要求を働きかけてきたが、ここ1、2年の間に企業を取り巻く環境が変わり、ROE向上に向けた自発的な動きが増えている。そのため、経営者と投資家をつなぐIRが果たす役割も自ずと変わってくるのであろう。

外部環境の変化として、まず、2014年に新たに設定された株価指数である「JPX日経インデックス400」の構成銘柄を選定する基準の中にROEが盛り込まれたことが挙げられる。次に、2014年8月に経済産業省が発表した伊藤レポートと呼ばれる報告書では、グローバルな投資家と対話する際の企業の求められるべきレベルとしては、ROEが8%を超える水準であることが望ましいとした。最後に、大手の議決権行使助言会社においても、過去5期の平均で5%に満たない企業について経営トップの取締役選任議案に反対することを推奨するとした。

中央官庁や証券取引所でも今やROEを重視する風潮にあり、企業が意識変化を図るには十分すぎるといっても過言ではない。

このような流れに対応すべく企業の取り組みとして昨年、印象に残る動きがいくつか見られた。ひとつは、ある機械メーカーが2年間の期間限定であるものの純利益のすべてを配当と自己株式の取得に充てるとしたもので、もうひとつは、転換社債型新株予約権付社債(CB)を発行し、調達した資金によって自己株式を取得する「リキャップCB」と呼ばれる手法を多くの企業が採用したことである。

前者は純資産が増加しない前提で純利益が前期を上回ればROEは上昇する。また、後者は売上高と利益が同じ前提で総資産が同額のまま負債と株主資本の比率(D/Eレシオ)を上昇させることで理論上、ROEが上昇する。

しかし、これらの取り組みも短期的には効果があるものの、中期的には効果が限定的なケースもある。例えば、前者は2年間に限定したものであり、後者は株価の上昇によってCBの株式への転換が進むことになればROEが上昇する要因となったD/Eレシオが低下する。

短期的に企業の収益力を高めることは困難を伴うことが多く、企業の意思によってB/Sの右側を組み替えることでROEの水準を高める手法もあろうが、本来的にはROEを持続的に高めるには収益力の向上に尽きる。そのため、中期的に収益力を高める施策を取ることで短期から中長期までの時間軸を意識し、ひとつの戦略としてストーリー立てる必要に迫られよう。

この時期は多くの企業にとって来年度の予算策定や中期経営計画の策定、見直しが大詰めの段階にあると思われる。また、コーポレートガバナンス・コードの導入も間近に迫っていることから、事業計画の中でROEの目標設定を時間軸で整理し、IRの実践としてどのように外部に訴求すべきか問い直す好機であるといえよう。

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