「アジアの病人」から復活するために重要なこと

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2013年03月04日

「アジアの病人」と呼ばれていたフィリピン経済が好調を維持している。2012年の経済成長率は前年比+6.6%とインドネシア(同+6.2%)よりも高い成長を達成した。好調な経済の要因は内需の成長である。株価も経済成長と歩調を合わせるように上昇基調にあり、2012年は33%上昇、2013年は2月26日までで14%上昇している。

 日本では、昨年11月に野田総理大臣(当時)が解散の意向を表明し、積極的な金融緩和策を唱える安倍政権の発足への期待感から、株価の上昇が始まった。現在も、株価上昇への期待感は薄らいではいない。百貨店では、資産効果で高級ブランドなど高額品の売り上げが堅調という。内閣府が職に就く人々に景気の現状と先行きについて判断等を聞く「景気ウォッチャー調査」では、消費者の購買意欲の改善や円安による一部業種での採算改善などを背景として、2013年1月の現状判断DIは3ヶ月連続で上昇した。先行き判断DIも、円安・株価上昇や安倍政権への期待感から3ヶ月連続で上昇した。

翻って、フィリピンでは職に就く一般の人々は、景気の現状と先行きをどのようにみているのだろうか。フィリピンでは日本の「景気ウォッチャー調査」に該当する調査はない。そこで、筆者は、現地のフィリピン人に景気の現状と先行きへの意見や考えについて聞いてみた。対象は、オフィスワーカー、大学講師、英会話教師、自動車修理業など様々である。ただし、「景気ウォッチャー調査」より大幅に規模は小さく、しっかりとした調査形式を取っていないことをあらかじめお断りしておきたい。

分かったことは、高い経済成長率、高値の続く株価の影響を必ずしも享受できていない人が多いということである。多くの人が口を揃えて言うことが、「恩恵を享受できているのは富裕層であり、一般の人には恩恵が及んでいない」ということだ。また、フィリピンでは失業者が多く、貧富の格差が大きい、そして、株式を持つのも一部の限られた人のみ、との発言があった。ただし、一部の人からはコールセンター等の求人が増えているとの声があった。

 先行きについては、楽観視している人は少なかった。ヒアリングから感じたことは、失業者の多さ、貧富の格差が一般の人々の問題意識として強いということである。また、現状のアキノ大統領の下での政治は安定しているものの、フィリピンでは政情が不安定な時期が長かったため、次の大統領になった時も安定した政治が継続されるか分からないという意識があるようだ。

ヒアリングにもあったように、フィリピンは失業率が6.8%(2012年10月)とASEAN主要国の中では高く、貧困率も41.6%(2009年)とインドネシア(46.1%、2010年)より若干低いがマレーシア(2.3%、2009年)やタイ(4.6%、2009年)よりは著しく高い。海外で働くフィリピン人労働者の数も1,046万人(2011年)となっており、裏を返せば国内の求人数が少ないことを意味する。この対策の一つとして考えられることは、海外から直接投資を呼び込むことである。フィリピンは、政情不安定などの理由から海外からの直接投資残高がASEAN主要国の中では低水準にある。特に、GDPに占める製造業の割合は、1970年以降、一貫して低下傾向にある。製造業を呼び込むことで、雇用を生み、現地の技術水準も同時に引き上げることが望まれる。

経済成長率が高く、政情の安定、そして「チャイナ+1」を模索する動きがある中で、海外からの直接投資を呼び込む絶好のチャンスだと思われる。「アジアの病人」からの回復を願いたい。

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神尾 篤史
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 神尾 篤史