クリエーションを輸出する

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2012年10月29日

ゲームや漫画、アニメ等、日本のポップカルチャーがアジアを中心とする海外の若者に人気があるというのは、ずいぶん前から言われている。最近でも人気アイドルグループによるアジアでの海外展開や、音声合成ソフトのキャラクターによる海外でのコンサートのニュース等がとりあげられている他、日本のアニメが“ジャパニメーション”として海外で評価されている、というのをよく耳にする。


しかし実際には、日本のポップカルチャーは海外展開で十分に稼ぐことができていないようだ。経済産業省などによると、2010年におけるコンテンツ産業(映画や音楽、漫画、アニメ、キャラクター、ゲーム等)全体の売上高15兆円のうち海外売上高は0.7兆円となっており、海外売上比率は約5%にとどまっている。また、海外売上の多くはゲーム産業によるもので、その他のコンテンツに関してはそのほとんどが日本国内のみで楽しまれているのが実情のようだ。実際には動画サイト等の発達により、海外の人が日本のコンテンツに触れ楽しむ機会はあると考えられるが、その「人気」が産業の収益につながっていないというやや残念な結果となっている。


こうした状況に対し、日本では経済産業省を中心に「クール・ジャパン」戦略としてコンテンツ産業の他、観光や伝統文化など地域振興を含めた日本文化の海外輸出に積極的に取り組んでいる。コンテンツ産業に関しては人材育成や違法コンテンツ対応等の収益力強化を通じて2020年には海外売上高を2兆~3兆円とすることを目標としている(※)。ちなみにこれは2011年の自動車部品の輸出額とほぼ同額である。


なお、世界市場ではハリウッドにおける映画製作や世界的な人気キャラクターを抱えるアメリカが圧倒的に優位な状況にあるが、同じアジアでは韓国が1998年から官民一体となり積極的に海外展開を行っており、アジア域内を中心に成果をあげている。世界のコンテンツ主要市場は2010年から2020年までに約30%成長する見込みであり、特に高い経済成長が続いているアジアを中心に市場としての可能性が大きい。


こうした文化の輸出は相手国との習慣や文化・宗教などの違いから、受入れや浸透までに時間がかかる場合もあるが、コンテンツの売上という一次的な効果にとどまらず、日本という国に対してのイメージ向上や理解の深まりなど数字には見えない二次的な効果が期待できる。これまで自動車や機械などの工業製品が輸出の多くを占めてきたが、従来の輸出産業の競争力が低下するなか、日本の文化面での「ものづくり」が主要な輸出品目の一つとして育っていき、世界の多くの人に楽しまれて欲しいと思う。

(※)経済産業省 クール・ジャパン官民有識者会議 提言「新しい日本の創造-『文化と産業』『日本と海外』をつなぐために—」(平成23年5月12日)

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