2012年の世界経済

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2011年11月17日

  • 小林 卓典
2012年の世界経済には欧州情勢という大きな火種がある。ユーロ圏は10月に危機収束のための包括戦略を打ち出したが、問題国に対する支援機能の規模、実効性、事態を収拾するユーロ参加国の意思など、さまざまな面で危機の収束には不十分とみなされている。ユーロ圏は景気後退の可能性が高まる中で緊縮財政を実行しようとしている。これがさらに景気を悪化させ、財政収支の改善を遅らせる悪循環に陥る可能性がある。

このように、世界経済の動向は欧州次第という様相が強まっているのは事実だが、一方、プラスに評価できることもある。一つは、米国経済の回復であり、ひところ、二番底に陥るリスクが懸念されていたが、緩慢ながらも雇用の増加が続いている。家計のバランスシート調整が景気に対して下降圧力を加えているため、非常にゆっくりとしたペースではあるが自律的な回復過程にある。

もう一つプラスに評価できる点は、過去2年にわたって続いていた新興国の金融引締め局面が最終段階に近づいていることである。すでに利下げに転換したブラジルを含め、中国、インドなど主要新興国が完全にインフレを抑制したとは言いがたい。しかし、これまでの引締めの累積効果と先進国経済の減速によって、利上げを打ち止めにする、ないしは金融緩和に転換する条件が整いつつある。政策金利がほぼ限界まで低下し、財政政策も債務問題のため機動力を失っている主要先進国に対し、新興国は財政・金融政策ともに発動する余地が大きい。先進国の景気が悪化しても新興国の成長が一定の支えとなるだろう。

日本経済は、円高、タイの大洪水、世界経済の減速の影響により、景気判断を下方修正せざるを得ない状況にある。当初の予想よりも実現が遅れている東日本の復興は、来年度にはかなり需要を押し上げる効果を期待できそうだ。今のところ欧州情勢に楽観は禁物だが、これまで後手に回って事態を深刻にしたユーロ参加国が、問題の本質的な解決に踏み込む、もしそのような展開になれば、2012年の日本経済は今よりもずっと明るくなるだろう。

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