ミャンマーにおける農業の機械化(3)

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ミャンマー最大の都市ヤンゴンと首都ネピドーの中間に位置するバゴー地域は、主要なコメ産地のひとつとして知られている。農業統計によれば、2010/2011年度における同地域のコメの作付面積は、139万ヘクタールとされ、ミャンマー全体の17.3%に相当する。


ヤンゴン中心部より自動車で約4時間にあるB村(バゴー地域内)は、高速道路からのアクセスが比較的良好であるものの、現在のところ農業以外の産業は殆ど存在しない。近年、約10kmの距離にダムが造成され、そこからの灌漑用水によって乾期にもコメの作付けが可能となった。周辺地域では、コメの二期作を行っており、中心的な栽培品種はエマタ(Emata)と呼ばれる中級米である。収穫されたコメは、村内の精米所へ持ち込まれ、精米された後、ヤンゴンを中心とする消費地へと出荷されている。


訪問した2箇所の精米所は、いずれも電気式の精米機を導入していたが、自家発電設備を併設していなかった。ミャンマーでは、ほぼ全国的に電力不足状態にあり、B村も例外ではない。B村の住民によると、例年、乾期後半の暑期となる3~4月頃は、ダム貯水量が著しく低下するため、水力発電が不安定化し、停電が頻発する模様である。品種による若干の差異はあるものの、B村周辺の乾期稲作は、4月頃に収穫期を迎えることになる。ところが、動力源を電力に依存する精米機は、電力の制約により、重要なタイミングにおいて能力を十分発揮できない状況にある。実際、これらの精米所では、1日24時間の精米能力を有するにもかかわらず、3~4月頃は精米できない日々が続くという。


精米工程の動力としては、電力以外の方法もあり、例えば、エンジン等を活用する場合もある。しかし、エンジンによるシャフト(※1)直接駆動方式による精米は、回転数が必ずしも安定しないことから制御を難しくさせ、破砕米の増加要因となる(※2)。ミャンマーにおいても破砕米の混入は商品価値の低下を招くため、コメの商品化を目指すのであれば、制御の比較的容易な電気式精米機の導入が望ましい。実際、前回報告(※3)したザガイン地域シュエボー郡の精米業者は、近代的な精米機導入の際、頻発する停電対策として、ディーゼル発電機を設置していた。より多くの事例を確認していく必要はあろうが、シュエボー郡は、ミャンマーを代表する高付加価値米の産地となりつつあり、このことが自家発電機などの設備の導入を比較的容易とした背景にあると推測される。

精米所周辺に野積みされる籾殻(バゴー地域)

他方、B村の精米業者は、精米時の副産物である籾殻の処分に苦慮している。写真1に示すように、精米所の隣接地には、行き場のない籾殻が山積みされていた。他地域では、籾殻をレンガ製造時の燃料として活用する事例もあるようだが、B村周辺は農業を中心とする産業構造にあり、籾殻へのニーズは限定的という。


このような状況を踏まえると、例えば、籾殻などの農業関連副産物を燃料とするバイオガス発電と生み出される電力を活用した現地農産物等の付加価値向上を通じ、包括的な地域経済の底上げが期待される事業スキームを検討していく余地もあろう(※4)


中長期的には、より効率的な発電所および送電網の整備による安定的な電力供給がなされるべきであろうが、稲作地帯に豊富に存在する籾殻等の副産物をエネルギー源とするバイオガス発電等は、予備的な電力確保策として導入の可能性を検討したいところである。もっとも、事業としての持続性を確保するため、収益面での評価も求められよう。


これまで報告したように、ミャンマーの農村においても地域によって状況が異なり、求められる機械化(近代化)の道筋は一本道ではない。現地のニーズを踏まえ、既存のビジネスモデルへの工夫をその場で求められるかもしれないが、ミャンマー農業の近代化をサポートする領域において、日本企業のビジネスチャンスを見出す可能性はあろう。


現在、日本政府は、農林水産省を中心とするグローバル・フードバリューチェーン推進官民協議会を設置(2014年6月)し、アジア等の新興国を中心に、日本の食産業の海外展開を経済協力の戦略的活用により推進していくための議論を重ねている(※5)。これまで紹介したミャンマーの事例に限らず、ホスト国固有の課題に対するソリューション提供が日本企業によって効果的になされるよう、現地ニーズを踏まえた今後の議論に注目したい(※6)


(※1)動力を伝達するための回転軸。
(※2)独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2011)『カンボジア王国農村地域におけるバイオマス(籾殻など)のエネルギー利用などに関する基礎的調査』
(※3)高田直也(2014)「ミャンマーにおける農業の機械化(2)」『アジアンインサイト』(2014年8月14日付)を参照。
(※4)例えば、B村の精米所に籾殻発電設備を設置し、安定して得られる電力は精米だけでなく、食品加工場等にも活用し、当該地域で産出される付加価値全体を高める仕組みは有益であろう。その場合、現在は周辺に食品加工場等が存在しないため、地域の関係者との意見交換等を経て、適切なスキームを選定していくことが求められる。
(※5)2015年2月9日現在、グローバル・フードバリューチェーン推進官民協議会メンバーは168企業・団体等となっている(農林水産省ウェブサイト)。
(※6)本稿はミャンマーの農業機械化に関する報告の最終回。

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