ここ1~2年、日本の金融庁は日本再興戦略の一環で、日本企業の海外市場獲得のための戦略的取り組みとして、アジアの金融インフラ整備支援に注力している。アジア諸国の金融インフラの発展状況を、①整備に課題を抱える国(ミャンマー、ベトナム、モンゴル、カンボジア、ラオス)、②一定程度整備されている国(インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン)、③その他の国(中国、韓国、シンガポール、香港、台湾)の3つに分類し、①の諸国を中心に支援を講じようとしている。今回、グループ①に属するモンゴルの金融セクターの現状・課題について紹介したい。


モンゴルは日本の大相撲で現在の3横綱全てを輩出する一方、幕内力士も多く一大勢力を誇っているが、その国情については意外に知られていない。モンゴルは1990年に社会主義経済から市場経済への移行を宣言し、民主主義国家としての歩みを着実に進めてきた。モンゴルがわが国による支援を通じて民主国家としてさらに成長し、経済発展していくことは、東アジア地域の安定及びわが国の安全保障と経済的繁栄にとって重要である。石炭、銅、ウラン、レアメタル、レアアース等の豊富な地下資源に恵まれた同国との関係強化は、わが国の資源及びエネルギーの安定的供給確保にとっても重要な意味を持つ。


モンゴルの経済は鉱業、牧畜業が中心で、製造業のウエイトが小さいことが最大の特徴で、企業活動の中心は中小企業である。主力輸出品は鉱物資源・製品(石炭、銅、鉄鉱石等)であり、仕向け先は隣国の中国向けが大半となっている。輸入相手国も中国、ロシアの比率が高い。モンゴルの経済は資源価格及び中国の経済動向に左右されやすい偏った構造で、金融分野も間接的にその影響を受けやすい。日本・モンゴル間の貿易・投資は発展途上にあり、進出日本企業は219社(2012年10月時点:現地法人設立190社、駐在員事務所29社)にとどまる。これまでのところ、進出日本企業の多くは中小企業であり、鉱業関連の分野が中心である。


近年のモンゴルの金融セクターの歴史は、1990年に社会主義経済から市場経済に移行したときに始まった。社会主義体制のもとでモンゴル国立銀行(Mongolian State Bank)が唯一の銀行であった時代に代わり、1991年以降は商業銀行の設立が相次いだ。1992年になるとモンゴル初の証券取引所Mongolian Stock Exchange(MSE)が設立され、併せて証券会社が設立されている。保険分野においては、1997年に保険法(Law of Mongolia on Insurance)が制定され、損害保険会社の設立が相次ぐとともに、2008年にはモンゴル初の生命保険会社が設立された。そのほか、小口金融を行なうノンバンク金融機関(Nonbank Financial Institution:NBFI)や貯蓄信用協同組合(Savings and Credit Co-operatives:SCC)と呼ばれる金融機関が存在する。NBFIは預金を集めることが認められていないのに対して、SCCは預金受け入れが可能という違いがある。また、NBFIは主にウランバートル、SCCは地方に多い金融機関である。


金融セクターを総資産でみると、銀行が全体の96%を占め、圧倒的である。NBFIは2%、SCCと保険、証券はいずれも1%に満たない(2012年9月末時点の数値)。企業数ではNBFIが最も多く、2012年末時点で212社、SCCが148社と続く。MSEの会員証券会社は82社、保険会社は17社(損保16社、生保1社)、銀行は13行(民間12社、国有1行)である。


金融セクターの規制・監督を行なうのは、モンゴル銀行(Bank of Mongolia:BOM)と金融規制委員会(Financial Regulatory Commission:FRC)である。モンゴル銀行は中央銀行だが、商業銀行を監督する機能も併せ持っている。FRCは2006年に設立された比較的新しい政府機関で、商業銀行以外の金融機関の監督を行なう。前者が13の商業銀行のみを監督するのに対し、FRCの監督対象は証券、保険、SCC、NBFIと幅広い業種で、しかも450以上の金融機関と数が多い。


銀行セクターの商業銀行はKhan Bank, Golomt Bank, Trade and Development Bank(貿易開発銀行:TDB)の3大銀行の寡占状態にある。2007~08年の世界的な金融危機に起因する資源価格の大幅下落と外需の落ち込みによって、銀行の融資先企業の多くが経営不振に陥り、不良債権が増加、08~09年に商業銀行のうち2行が破綻するに至った。この金融危機への対応として、銀行監督の具体的な目標の設定、預金保護法の制定、中央銀行の監督機能の強化を内容とした「新銀行法」の法制化等、銀行システムの安定化策が実施されてきたが、銀行セクターは未だ安定するに至っていない。2013年7月に商業銀行第5位のSaving Bankが破綻、政府はこの銀行を国営化している。


資本市場については、前述のように、1992年にモンゴル証券取引所が設立されているが、2013年末の上場企業数は261社(そのほとんどが取引されていない)、時価総額は10.07億ドル(1000億円強)と小規模にとどまっている。資本市場は存在するものの、株式・債券市場ともに資金調達や運用の場として機能しているとはいいがたい。2012年にモンゴル初のUSドル建て国債(チンギス債)が発行され、注目されたが、モンゴル開発銀行(DBM)、貿易開発銀行(TDB)、モンゴル鉱山会社(MMC)等もUSドル建て債券を同じく2012年に発行している。2013年12月にはモンゴル開発銀行が初のサムライ債(大和証券もアレンジャーの1社)を発行している。


モンゴルの商業銀行システムには、①少品目の資源輸出に依存した変動の大きい経済の影響が大きい、②融資が少数の大口融資先に集中、③低い収益性、④13行と相対的多数行による激しい競争、⑤銀行業務の拡大に伴う行員の能力の問題、などの課題が残されている。預金・貸出金利は自由化されているが、金利水準がいずれも現在10%台と高い。有担保が原則であり、融資の満期は短く、これらが金融アクセスの阻害要因になっている。特に中小企業にとって、融資を受けるためのハードルが高く、成長・発展のネックのひとつになっている。


非銀行セクターの監督機関であるFRCは監督の対象が多く、140人余の職員の大半が経験の少ない若手ということもあって、十分な監督・監査ができていないようだ。研修のため海外に派遣しても、帰国するとすぐに離職してしまうという問題を抱えている。各機関の中・長期のビジョン策定、監督機能の強化と法制度の整備及び法・ルールを適切に運用する体制作り、スタッフの育成等が喫緊の課題である。わが国からの支援の可能性も多岐に及ぶ。

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