現在、中国では第12次5カ年計画(2011-2015年)策定に向けての作業が急ピッチで進んでいる。9月初、都内で開かれたシンポジウムで、中国発展研究中心(DRC)幹部より、12次5カ年計画期間から2030年にかけての中国経済の中長期見通しが示されたが、次期5ヵ年計画策定過程で、理論面からの重要な材料のひとつになると思われるので、その骨子を紹介しておきたい。(※1)(※2)

(中長期を見通すにあたっての考慮すべき要因、背景)

  1. 中長期的には、世界は自由化、グローバル化の方向、しかし、金融危機からの脱出の過程で、短期的には、各国で、政府の経済への介入、保護主義が高まる可能性(輸出依存の中国への影響大)。
  2. 温暖化等の地球環境問題、資源制約が、今後20年の中国の成長に大きく影響する。
  3. ライフサイエンス、IT、ナノ、材料工学、資源・環境等、新領域での技術革新が各国で期待され、かつ新興国の台頭とグローバル化の中で、そうした技術革新が多極化する。
  4. 資源エネルギーは、世界全体としては、需給はほぼ均衡するも、供給地域が地理的に偏っているので、中国を含め各国とも資源確保の戦略が必要になってくる。
  5. 中国では、所得格差、地域格差の問題がより調整困難になる。
  6. 中国では、高齢化社会への移行に伴い、生産労働力の減少、貯蓄の減少(資本蓄積の低下)、労働コストの上昇といった生産要素面での構造変化が発生してくる。

(3つのシナリオ)
DRC-CGEモデル(コンピューター一般均衡モデル、41の生産部門、12の各所得層を代表する家計部門、5つの一次産業部門から構成される)による3つのシミュレーションを提示。第一は、過去および現在のトレンドを基に、若干の基本的な構造変化を考慮した基本シナリオ、第二は、政府支出、都市化、国有企業、サービス産業などの面での構造改革加速を前提としたシナリオ、第三は、逆にこうした構造改革が遅れるリスクシナリオ。主なシミュレーション結果をみると、次期計画期間の成長率では、基本シナリオが7.9%、構造改革加速シナリオが8.4%、リスクシナリオが7.0%、成長への寄与は、何れの場合も、資本蓄積が主で労働力はほぼゼロであるが、構造改革加速シナリオでは、全要素生産性(TFP)の寄与度が高くなる(※3)。また、構造改革加速シナリオでは、サービス部門の比重が大きく伸び、また都市と農村の格差も基本シナリオほどには拡大しないという姿が描かれている。2030年までの長期予測では、何れのシナリオでも、緩やかな成長減速(7%台から4-5%台へ)となっている。

(参考)第12次5ヵ年計画期間の姿

  基本シナリオ 改革加速シナリオ リスクシナリオ
年平均経済成長率 7.9% 8.4% 7.0%
(寄与度)
労働
資本
TFP

0.2
5.7
2.0

0.2
5.5
2.7

0.2
5.5
1.3
サービス部門の比重(計画最終年、2010年は38.7%) 44.9% 46.8% n.a.
省エネルギー産業の比重(計画最終年、2010年は55.8%) 55.7% 56.0% 54.8%
都市/農村の所得格差(計画最終年、2010年は4.29) 4.61 4.39 n.a.

(DRCシミュレーション結果より、筆者まとめ)


現5ヵ年計画策定時の2005年も、DRCは同様の予測を行っているが(※4)、その際、11次5ヵ年計画期間中の成長率を、基本シナリオで7.5%、協調発展シナリオ(今回の構造加速シナリオに対応)でも8.2%と置いていた。従来から、DRCは、社会科学院等他の研究機関に比し、かなり固めの予測を出すとの印象を持っているが、今回も例外ではないと思われる。各シナリオが発生する蓋然性についての言及はないが、当然、構造改革加速シナリオが望ましい姿を示しており、これを実現するために求められる具体的な政策として、税制や価格調整、法規制を通じて資源・エネルギー効率を高めること、政府支出の構造を見直して医療や教育等の公共サービス支出を増やすこと、都市化の中身、質を改善すること、国有企業改革を進めて、国有企業のより多くの利潤を国庫に吸い上げ公共的な支出に活用すること、また電力、通信などのサービス産業の独占状態を是正し課税を見直す等、同産業の改革を進めることが提唱されている。現行の11次5ヵ年計画を特徴付けるキーワードとして、かつて筆者は、「城市化」、「市?化」、「全球化」、「改革」の4つを指摘したことがあるが(※5)、今回のDRCの分析、政策提言をみる限り、引き続き次期5ヵ年計画は、おおむね同様のキーワードで特徴付けられることになるのではないか。いずれにせよ、こうした政策提言が、最終的に計画にどう反映され、構造加速シナリオが、どの程度計画の基礎となっていくか、今後注目されるところである。

(※1)5ヵ年計画は、かつては中国語でも、「??(jihua)」と呼ばれていたようであるが、現5ヵ年計画策定の頃から「??(guihua)」とされている。計画の位置付けを、強制的なものから、より指示的(indicative)なものに変えるという意識の現われかもしれない。

(※2)以前は、5ヵ年計画策定にあたって、中国政府は、外部の団体や有識者との間で、とくにコンサルテーションをするようなことはなかったが、第10次計画(2001-2005年)策定の頃から、透明性や民主的なプロセスを重視するようになったと言われる。現11次計画策定に関しても、2005年当時、すでに中国の研究機関の学者は、従来以上に学者の意見を聴取する傾向が強まったことが大きな特徴だと述べていた。DRCの幹部も今回、今年に入ってからは、もっぱら5ヵ年計画がらみの作業で忙殺されていると話している。

(※3)全要素生産性 (Total Factor Productivity; TFP) 経済成長のうち、資本や労働といった生産要素の投入増で説明できない、技術革新などによる部分。

(※4)DRCは、現計画策定時にも、「中国中?期?展的重要?? 2006-2020」を発表している。ただ、こうした研究機関の作業が、5カ年計画策定にあたり、どう考慮され、最終的にどう反映されているのかは、前回の例でも必ずしも明らかでない。

(※5)“Current and Future Issues for the PRC Economy,”Toshiki KANAMORI,2006 ADB Institute



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