中国経済—ソフトランディングから構造転換へのシナリオ

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8月初、日本と広東省との経済交流、日本から広東省へのさまざまな政策提言を目的とする、日本広東経済促進会の10周年会議に参加する機会を得た。そこで、広東省人民政府、発展研究中心の幹部から、中国および広東省の経済情勢、見通し、課題等について聴くことができた。おおむね、日本および中国国内で従来から指摘されているような内容ではあったが、いくつか興味を引く点もあったので、参考まで紹介したい。


まず、中国経済全体の本年の成長率として、9.5%程度になるだろうという見通しが示された。上半期実績としては、すでに11.1%という数字が発表されているので、これは、下半期の成長が8%前半程度になると見込んでいることになる。下期にかけ、経済はかなり減速するものの、雇用に悪影響を与えない成長速度として従来から中国が意識している8%(この論理的根拠は未だ示されていないと思うが)は確保されるという観点から、ソフトランディングのシナリオを描いたものだ。下期に減速する要因としては、第一に、上期に導入された不動産抑制策の効果が今後出てくると期待されること、第二に、世界経済がなお弱く、また人民元が上昇傾向にあることなどから、輸出に不透明感が増してきていることを挙げている。なお、不動産市場については、定義は明らかでないものの、明確に現在の状況をバブルであると断言しつつ、下期にはバブルの崩壊はないが、価格の一定の下落はあるだろうとしていた。筆者の知り合いである複数の中国の学者も含め、近年、中国内でも現在の状況をバブルだと断言する傾向が強まっているようには見えるが、中国では高成長、膨大な人口からくる実需があり、日本等がかつて経験したバブルとは異なるとの意見も根強くあり、地方政府といえ、その幹部が対外的にバブルと断言している点は注目される。会議外では、外国の専門家がよく「中国では、住宅価格が年収の10何倍にもなってきていて、バブルがはじける危険水域に入っている」と言うが、中国では、そもそも住むためではなく、投資目的でみな購入しているので、こうした議論はあまり意味がないとの声もきかれた(中国金融関係者)。これも、現在の状況が実需から離れたバブルと認識しているという発言ともとれよう。


人民元については、やはりやや微妙な問題なのであろうか、あまり具体的な言及はなかった。ただ、会議外では、中国側の会議参加者の中には、具体的なタイムスパンには触れなかったものの、1ドル=5.5元程度まで元高が進む(15%強の上昇)のではないかとの発言もあった。2005年7月に通貨バスケットに基づく管理された変動相場制に移行した後は、4-5年かけて20%程度の切り上げとなった。あまり論理的ではないが、前回と同様に緩やかな切り上げをねらっているとすれば、3年程度を見越してということか(前回、通貨バスケット移行が発表された2005年当時、筆者が中国人学者と共同で研究を行った際、同学者は均衡モデルからみて17%程度は元が過小評価されているとの結論を導き、それを内外に広く発表、その後偶然ではあろうが、4-5年以内にそれに近い20%程度元は切り上がった)。中国政府は、本年6月、通貨バスケットへの復帰を発表した後、再三、元の上下両方向への調整があり得ると述べている。バスケット内のユーロ、円等のウエイトが不明であり、はっきりしたことは言えないが、筆者は、通貨バスケットへの復帰を宣言したことにより、中長期は元高方向としても、短期的には元を下げる調整もやり易くなったと思っている。何れにせよ、基本的に元が切り上がっていく方向については、中国側も内部ではやむなしとしているようだ。また、おそらく輸出見通し、および元の国際的な位置付けとの関係であろうが、最近の欧州危機、とくにこれが経済危機、金融危機を越えて、通貨危機に陥る可能性があるのかどうかという点に強い関心を示していた。彼らも、なかなか予測に困っているという状況のようである。


中国では、現在次期第12次5ヵ年計画を策定中であり、来年初の全人代で正式に採択される予定である。これに合わせ、広東省も省単位での次期5カ年計画を策定中であり、そのポイントは、広東省の説明によると、以下の5点である。

  1. 発展方式の転換——産業構造を転換、高度化し、戦略的に新興産業(ハイテク、電気自動車、LED等)を育成する。サービス業を育成し第三次産業の比率を高める。また、伝統的な産業の構造を改革する。
  2. 珠江デルタ地域の一体的な発展を進める。
  3. 外需依存から内需中心に転換していく。
  4. 対外経済貿易パタンの戦略的転換を図る——輸出について規模重視から効率重視へ。輸出の中身、質を重視。欧米中心の国際市場重視から、新興市場を含め、より広く内外の市場重視へ。外資誘致を選択的に、産業構造転換に資するものへ、また外資の資金のみならず、より技術導入の側面を重視。珠江デルタ地区だけでなく、省東部、北部も含めた省全体を連動させるような発展へ。外資導入だけでなく、中資企業の海外進出をより促進させる(所謂、走出去)。
  5. 社会保障等、民生、福祉分野をより重視していく。

当然、広東省経済の特色、置かれた現状を反映したものであるが、とくに、1.3.5.などは、全国レベルでの計画でも、重点課題として盛り込まれることは間違いない。なお、最近の沿海部での労働力不足、賃金上昇にからみ、中国では高齢化が急速に進むことが予想されており、これへの対応が今から求められるのではないかという指摘をしたが、まだ向こう20年程度はまったく心配することはないということで(それはおそらくそのとおりであろうが)、あまりこの面での危機意識のようなものはまだない。総じて言えば、当面はインフレを回避しつつ、ソフトランディングをねらい、経済を持続的な巡航速度にもっていく、次期5ヵ年計画期に向けては、とくに経済構造転換を図り、より内需主導の成長にもっていくという方針と言えよう。



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