大幅賃上げの中で「攻め」の経営転換が求められる中小企業

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2024年04月10日

2024年春闘では、大企業だけでなく中小企業でも大幅な賃上げ率となりそうだ。日本労働組合総連合会(連合)が4月4日に公表した第3回回答集計結果によると、定昇相当込みの賃上げ率は従業員300人未満の企業で4.69%と、1992年以来の高い伸びとなった。従業員規模が最も小さい99人以下の企業でも4.18%だ。

多くの企業で大幅な賃上げが実施されることに加え、6月からは1人あたり年4万円の定額減税が実施される。また、児童手当が10月分から拡充される。家計の所得環境は年後半にかけて大きく改善する可能性が高く、減少基調にある個人消費の回復を力強く後押しするだろう。

労働力の供給制約を背景とした賃上げ圧力は、中長期的に継続するとみられる。労働政策研究・研修機構が24年3月に公表した「2023年度版 労働力需給の推計(速報)」によると、経済成長が加速し、女性や高齢者などの労働参加が進展する「成長実現・労働参加進展シナリオ」でも、30年の労働力人口は23年比でわずか15万人しか増えず、40年にかけて減少する見通しである。

人手不足はデフレからの完全脱却や省力化投資を促す半面、とりわけ大企業との人材獲得競争で劣勢に立たされやすい中小企業にとっては逆風となりやすい。24年春闘のように大企業が賃上げに対して積極的になれば、中小企業は収益面で余裕がなくとも「防衛的賃上げ」で追随せざるを得ない。今後、労働市場での競争力の高低は中小企業の事業継続性に一段と結びつきやすくなるだろう。

近年の中小企業は、収益の増加に比して賃金や設備投資を抑制し、現預金などの手元流動性を十分に確保することで経済危機に対応してきた。財務省「法人企業統計調査」によると、資本金1千万円未満の企業(除く金融保険業)の現預金売上高比率は75年から00年代半ばまで10%前後で安定していたが、リーマン・ショックやコロナ禍などを受けて大幅に上昇し、直近の23年で25.3%となった。借入金を除くベースでも同様の傾向が見られる。

こうした中小企業の「守り」の姿勢は、激しい人材獲得競争や、インフレが続く中ではむしろ経営上のリスクとなる。投資の増加による商品・サービスの高付加価値化や企業規模の拡大などを通じて収益力を高めるとともに、大幅賃上げの継続や幅広い就業ニーズに対応した就業環境の充実化など、「攻め」の姿勢への転換が必要だ。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司